宮古市は7月に施行した自治基本条例や関連三条例を基に、住民への市民参画と協働意識の浸透に力を入れている。市民説明会を計4回開催したほか、今月には条例を解説したパンフレットを配布した。住民の関心が低いままでは、制度が形骸(けいがい)化する恐れがあり、市民の意識の高まりが市の掲げる「参画と協働のまちづくり」実現の鍵となりそうだ。
 市民説明会は8月20−22日に計4回開催。担当職員が条例の概要などを説明。アンケートなど市民参画の方法や地域課題を解決するための提案事業制度などを解説した。参加者は4回で計80人ほど。参加者からは「制度が分かりにくい」「活用のためには周知が大事だ」など意見が出た。市は制度周知のために広報で条例の内容を説明しているほか、「市民のための協働の手引書」を作成し、自治会などに配った。約2万3800戸の全世帯へ条例の概要版パンフレットも配布した。県立大総合政策学部の高橋秀行教授(市民参加論)は宮古市の条例について「全国の自治基本条例は関連制度の整備を怠り、首長のパフォーマンスに終わる例がほとんど」と指摘。「自治基本条例を先行し、実効性を持たせる関連条例を定めた宮古市の取り組みは全国初」と評価する。一方で「市民の関心が低く、利用されなければ形骸化につながる」と指摘する。宮古市自治基本条例案や関連三条例案について実施したパブリック・コメントは、意見が一つも寄せられなかった。市民の関心はまだ高いといえない状態だ。同市保久田の会社役員松原武行さん(37)は「市の取り組みは評価できるが、意欲があっても、やり方が分からない人は多い。もり立てるよう働き掛けてほしい」と注文する。熊坂義裕市長は「条例で定めることで、まちづくりの基本原則を市民参画と協働とすることが普遍的に保証される。市民にさらに浸透させたい」と強調する。
 宮古市自治基本条例と関連三条例 市自治基本条例は昨年の市議会6月定例会で可決。まちづくりの基本原則、市民の権利と責務、市長や市議会の責務などを定めた。市民参画や協働を促す手続きなどを明確化した関連三条例「参画推進条例」「協働推進条例」「住民投票条例」は今年6月定例会で可決。市民10人以上による政策提案制度の創設のほか、市民団体などから地域課題を解決する事業の提案を受けて協働実施する制度を設けた。市の施策にアンケートや市民説明会などで市民が意見表明する機会を保障している

同記事では,宮古市において,自治基本条例及び関連三条例を制定したものの,同市市民の制度への関心度が低調気味であることを紹介.自治基本条例及び関連三条に関しては同市HP参照*1
各条例を拝読しても何れも優れた制度を含む条例であり,例えば,同記事にも紹介されている,市民による「政策提案等」(宮古市参画推進条例第9条)制度のように,他都市でも「相互参照」される可能性をももつ制度もある.更には,各条例には『逐条解説書』が付記されており,各条例に関心持つ住民にむけて,入口の敷居を低くする配慮が払われている.
同記事を拝読すると,自治基本条例とは,未来への約束(いわば,「希望としての条例化」)なのか,過去からの集成(いわば,「追憶としての条例化」)であるのか,条例としての性格を考えさせられる.これは,各自治体により,その策定目的や事情は異なるのだろう.ただ,いずれにせよ,同市では,自治基本条例に基づき整備されている「市民自治推進委員会」(第23条)によって,同条例に逐条解説書にもあるように「条例の実効性を検証」*2し,より個別対策レベルを考慮する必要もまたあるのかもしれない.
同記事内でも,分析的な指摘がされている「実効性」の問題は,何も宮古市に限らず,他の自治体でも同種の条例を制定する場合には共通する課題か.ただ,一般的な動向としては,「希望としての条例化」に重きを置きすぎる場合には,臨床系なき各種施術となりうる可能性があることも懸念される.そこで,制度設計上は,社会・集団の特徴に応じた,各種制度整備を(段階的に)図ることがまずは穏当とも思わなくもない.例えば,「文化理論」*3で整理されている,社会規範・一般的なルールの強弱である「グリッド」と,組織圧力の強弱による「グループ」の2つの基準に基づき分類される「人々の生活様式」の4類型(「ヒエラルヒー型」「平等主義・共同体型」「個人主義型」「運命論型」)にまずは整理し,現実の社会集団は「混合型」であることを踏まえつつも,各地域毎にあるいずれかの特性に応じて,同種の条例が目指すところである「協働」「参画」モデルへと接近する制度(「ヒエラルヒー型」であれば「監視・統制」,「平等主義・共同体型」であれば「相互性」,「個人主義型」であれば「競走」,「運命論型」であれば「作為的乱数表利用」)の段階的整備が適当か.

*1:宮古市HP「宮古市ガイド:自治基本条例

*2:宮古市HP「宮古市自治基本条例(逐条解説書)」12頁

*3:「文化理論」と行政の関係については,例えば,次の書を参照.西尾隆「森林ガバナンスと「平和・安全・共生」」西尾隆編『分権・共生社会の森林ガバナンス』(風行社,2008年)207〜218

分権・共生社会の森林ガバナンス―地産地消のすすめ (ICU21世紀COEシリーズ)

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