横浜市は2011年度、新市庁舎整備のスタート台となる基本構想策定に着手する。東日本大震災を受け、災害・防災体制の機能強化を重視し、年度内に規模、場所、庁舎機能のあり方などの方向性を示す方針。新庁舎整備は現庁舎(同市中区港町)の老朽化などからかねて浮上していたが、市は財政、経済状況を踏まえながら、事業化の時期を内部検討していた。
 新市庁舎整備について、林文子市長は神奈川新聞社の取材に対し、「災害防災体制の強化という面から考えていかなけばならない。市庁舎はまさかの災害が発生したときに、市民の安全を守る防災拠点として機能すべきもの」と指摘。東日本大震災の発生を踏まえ、防災拠点としての側面を重視する考えを示した。市は、現庁舎の老朽化や執務室不足、周辺ビルの賃借料が年間18億円に上ることなどを踏まえ、外部有識者らで構成する検討委員会を設置。09年に「北仲通南地区を主とした現庁舎との分庁とし、港町地区周辺は駅前という立地特性を活用した機能を集積した方が望ましい」と提言を受けている。提言を受け、市は新市庁舎整備の方向性を含めた関内関外地区活性化計画を10年度に策定。並行して総務局内にプロジェクトチームを設置し、事業化へ向けた基本構想策定のタイミングを検討していた。今年3月の東日本大震災の発生時には、周辺ビルに分散する主要部局の執務室で書庫や棚が倒れるなど、インフラ部門などで執務ができない状態になり、防災・災害対策の面からも庁舎機能のあり方があらためて課題になっていた。
 林市長は「11年度中に基本構想を策定していくのが整備へ最速のペース。新庁舎整備は関内関外の活性化につながっていかなければならない。市会と十分に議論しながら検討を進める」と表明。検討委の報告をたたき台にしながら、防災機能の充実、強化という新たな課題を考慮し、中長期的な観点から基本構想を作り、13年度までに整備期間や事業費を含めた基本計画を策定する方針だ。

本記事では,横浜市における新庁舎整備の検討方針に関して紹介.本記事でも紹介されている,2009年度までに纏められた新庁舎整備の構想等は,同市HPを参照*1
高村直助『都市横浜の半世紀』(有隣堂,2006年)を拝読すると,現在の庁舎の設置に至るまでの苦労の様子が記述されており,たいへん興味深い.該当箇所を抜書きしてみると,次の通り.
まずは,戦後は,1944年10月から「学童疎開で空いた老松国民学校を中心に,数か所に分散」*2しているという,いわゆる「たこ足配線」*3の状態にあった.その後,1949年には軍政部から「小中学校の六三制実施のために既設の建物を極力利用するようにという方針」に基づき「即時返還」が求められる.そこで,同市では,日本貿易博覧会を開催した「反町会場跡」*4の建物を本庁舎と市会庁舎として,1950年から利用する.とはいえ,仮庁舎であることは違いないため,その後,やはり,本庁舎の建設が課題となる.
そこで,1956年に「中区港町1丁目1番地の旧市庁舎跡」を「敷地として,横浜開港百年記念事業の一環として五八年十月竣工という計画」*5を策定.ただし,当時は「起債制限枠の規制」もあり,「問題はその資金」*6であった.そこで,「起債と市費で調達する資金を,前倒しに用いて市庁舎を建設しようという計画に改め」たうえで,具体的には,「市と市幹部の出資」により「横浜市復興建設会社を設立」,「完成予定の五八年度までの起債・市債では不足する」分を「市から借りて市と共同して建物を建設」,「五九年度から四年間は,市の建設資金計画に従って毎年市から支払いを受けて市に借入金を返済し,最終的に市が建物全体の所有権を取得して会社は解散する」予定を立てる(このような手法は,当時の庁舎建設では他の自治体でも用いられていたのでしょうか,要確認).
ただ,その後,資金調達方法で計画が再び修正.まずは,「自治庁が起債統制上難色を」提示.そこで,「結局五六年一一月には,四年目予算で残額全額を支払うという四年計画に変更」となり,そのため,「会社設立は見送りとされ」*7る.その後,「予想以上に地盤が悪いことから工事は難航」し,結果として1959年2月に市会棟,同年8月に庁舎棟が完工となり,「9月12日に半井清市長らによって落成式が行われた」とある.
現在の同市庁舎も,同市HPに掲載されている「市庁舎周辺アクセス」上の「市の組織が入っている建物」*8の数を数えると,その数,19.なるほど,まさに「たこ足回線」状態の同市庁舎.2008年12月7日付の本備忘録にて項目立てを試みた本備忘録の妄想的・断続的観察課題のひとつ「庁舎管理の行政学」の観点からも,我が国最大の人口をもつ基礎的自治体の庁舎整備の様子は,要経過観察.

*1:横浜市HP(都市整備局企画課)「新市庁舎整備構想

*2:高村直助『都市横浜の半世紀』(有隣堂,2006年)126頁

都市横浜の半世紀―震災復興から高度成長まで (有隣新書 (62))

都市横浜の半世紀―震災復興から高度成長まで (有隣新書 (62))

*3:鈴木俊一『官を生きる』(都市出版,1999年)392頁

官を生きる―鈴木俊一回顧録

官を生きる―鈴木俊一回顧録

*4:前掲注2・高村直助2006年:126頁

*5:前掲注1・高村直助2006年:161頁

*6:前掲注2・高村直助2006年:161頁

*7:前掲注2・高村直助2006年:162頁

*8:横浜市HP「市庁舎周辺アクセス交通案内