『ハーモニー』1

アメリカでは、酒を飲む人、煙草を吸う人、太っている人は評価の対象にならないと聞いたことがあります。自分(の欲望)を管理、コントロールできない人が、仕事で他人を管理、コントロールできるはずがないから。

それは人間の意志の肯定です。我想う、故に我在り。その意志、あるいは意識はどこにあるのでしょうか。脳でしょうか、心でしょうか。

人間の身体は物質です。喜怒哀楽ですら神経物質の作用として計測可能です。脳という計算機のデジタルな入出力=意志。自分らしさなど、その揺らぎの範囲内でのこと。

そのとき、誰もがかけがえのない個人であり、一人ひとりが等しく尊い存在であるという価値観は成立するでしょうか。

「しない」という答えはあり得ません。「する」のです、「させる」のです。それが人間の業です。

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

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『ハーモニー』2

伊藤計劃の『ハーモニー』の主役は三人の女性です。彼女たちの葛藤が縦軸となって物語は進みます。

一方で、作品世界を成立させている横軸(=世界観)を作っているのは、直接には描写されることのないモブ、その他大勢の人々です。

その人たちは、与えられた社会システムを唯々諾々と受け入れ、法律で規制されていないことでも“空気を読んで”自発的に決まり事を作り、それを互いに課します。

わたしの幸せはみんなの幸せ。みんなの幸せはわたしの幸せ。こうして、優しいファシズムが進行していきます。

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

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