座ってしまうこと

猛暑にしてやや夏バテ&夏風邪。の1ヶ月を経る。しかも昨日、いきなり落雷のため停電。これが珍事なのか日常茶飯事なのか、まだ不明の夏。

 大友良英「MUSICS」を読む。とりあえず文章だけだけど、かなり読みやすく、21世紀に入ってからこれまでの文章をまとめてあり、また書き下ろしもあって、実に多様な関心に、やはり驚き。とても読みやすいけど、読み飛ばしてしまうのは勿体ない気もする。
 とくに面白かったのは空間の部分。ここに書いてあるのは、たぶんまだ問題提起に過ぎなくて、それについての答えはこれからなのだろう。空間に限らず、どれも自ら問題を立て、それに対して作品によって答えを出す、という一貫したスタンスは、やはりなかなか真似できないと感じる。最後の方に書いてある、ひょっとしたらありえないような音楽・・・というのは、でも、少し前のONJOのとき、すでに一部達成されているように思う。ああいう演奏が、ではさらに何処に行くのかというのは、ただ追っかけるしかない。
 ・・・と読みながら、しかしすでに新しい問題が作品として展開しているようで、とくに「コア・アノード」と「2台のギター」は、それだけで色々な意見が出るような作品だろうし、とにかく次々に出る作品に、なかなか追いつけず。過労だけにはならないでほしいと遠くから(一ファンとして)祈る。
 ちなみに、もうすでに誰かが書いているかもしれないけど、作品のタイトルについて、実はかなり謎。どれも電極や配線についてのものであるように思うのだけど、これは一体なんなのか・・・。この本には載っていないけど、一時期ブログで「記憶」について盛んに書かれていた時期があって、僕が一番仰天したのは、たしかwithout records展にさいし「ターンテーブルの記憶が聞こえるようで愛おしい」というようなことを書かれていたことだった。フェティシズムのようでどうも少し違う、電気と機械の世界。よくわからないけど、ひょっとしてこの音楽家は、社会とか人間関係について語りながら、しかし、その底にまったく違う世界をもっているのではないか、あのタイトル群はその表明なのではないか。そんなことを思わせた文章で、それが単なる勘違いかどうなのか、それはまだ分からない。

 『nu』3号を読む。どれも面白く、しかもかなり厚くてお得な内容。色々あるけど、ひとつは宇波拓の文章で、以前にそのCDを聞いて、勝手に時間性について書き飛ばした記憶があるのだけど、その作品がそうであったのかはさておき、なんとなくそういう超絶的な時間について意識しているのだと分かって、印象論のわりに遠からずの感想だったかもしれず。とともに、感想としては、中途半端なかんじで失格だったと反省。もっと遠くまで吹っ飛んだものを書いてみるべきだったような気がする。HOSEもそうした時間性をかんじるけど、それに尽きないところが沢山ありそうで、とてもこちらは感想がまとまらない。
 あと、大谷能生の発言が、ひじょうに先鋭的。とくにフーリエ主義的な発言が目立つ。ちなみに「フランス革命」も一読。良く行く池袋最大の本屋では、発売当初、なぜか4階の人文コーナーの新刊に平積み(!)され、明らかに誰かが間違って買っていっただろうことを想い、毎度爆笑していた(いまは音楽コーナーにあります)。内容はかなり拡散的で一言ではいえないのだけど(製本については、どうせなら洋書のペーパーバックの大きさにしてもらえるともっと面白かったかもしれない)、とにかく知らないことを沢山教えてもらったということに尽きる。まだまだ興味はおさまりそうもないので、あまり総括せずに、できるならもっと続けてほしい。「もっていくうた・おいていくうた」の連載もずっと読んでいて、いずれも歴史軸にちょっと違和感をかんじるけど、細かいことはともあれ、ああしたいくつもの話題を浮遊させていく活動のありかたとその多彩な内容に、興味津々。
 ちなみに昨日は8月15日で、先鋭的、ということにつなげると、やはりどうにも違和感を拭えない。政治家がどこかへ赴くことが問題になるのは当然としても、よくいわれる「この過ちを」繰り返さない、という論理の「この過ち」が、やはり曖昧な気がする。それは勝った負けたの話なのか(敗北を繰り返さないと言うことなのか)、武力の行使そのものなのか。しかしその議論を抜きにして、現実は前者に、つまり「負け」を繰り返さない、勝った側につけばいいという方向に、明らかに傾いているように思う。実際、そうした形での武力派遣が進められているだろう。では、この8月15日に毎年なされる祈祷は、一体何なのか?何のためのイベントなのか?・・・この歪んだ問題への答えは、まだなされていない。
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 実はまったく違う方向から、Killer BongのCDをいくつも聴く。聴き漁るといってもいいくらい。最初に聴いたのは「モスクワダブ」で、ここからこの一月ほどであれこれ探してみた。ちょっと遠出したついでに、高円寺のレコード屋さんなどを覗いたり、まったくもって自分の格好が浮いていることを確認しつつ、いくつか物色。どれもtzadikのlunatic fringeあたりで出ておかしくないような内容がいくつも。
 具体的な魅力はよくわからないけど、とりあえずヒップホップのようでありながら、クラブで踊ると言うより、街角でいきなり座り込んでしまうような姿勢があって、そこが良いとしかいいようがない。とたんに、街の風景は何かいかがわしいものに変貌し、言葉は歪み、けだるい荒んだ音楽が耳に溢れ出す。ささくれだったサンプルに意味不明の物音などが混じり合いながら、とりあえず詩の朗読と銘打ったいかがわしさに満ちたCDなどがとにかく良い。