アイドルと勉強

Study☆Stars projectによる、アイドルと自習をするイベントに行ってきました。今回の記事では、「アイドルと勉強」について考えます。


AKB48が学校の制服風の衣装で大人数でパフォーマンスをすることに端的に表れるように、現代のアイドルと学校のイメージは強く結びついています。そして実際に多くのアイドルは中学や高校や大学に通う学生でもあります(参考:アイドルと「学校」 〜育成型アイドルの一形態〜(2011.10)https://note.mu/onoyax/n/n43bdbd852109 )。その点を考えれば、アイドルと勉強が結びつくのはごく自然のことです。ですが、エンターテインメントであるアイドルと、一般的には楽しいイメージのない「勉強」をつなぐという作業は容易ではないようにも思います。以下にいくつかの例を挙げながら、アイドルと勉強の可能性について考えていきます。


アイドルと勉強を絡ませる場合、その方法は大きく二つに分けられると思われます。一つはアイドルが先生であるケース(先生がアイドル的であるケース)、もう一つはアイドルが一緒に勉強するケースです。順に検討していきます。


●お気に入りの先生に教わる
中学生・高校生のための、イケメン・可愛い・面白い先生を選んで学べる「かんたん動画」学習サービス『スナスタ』というのがあるようです。http://snapstudy.jp/
これは先生によってモチベーションを上げて勉強をする、というシステム。先生の容貌が良いか、面白い先生なら勉強のやる気が起きる、ということですね。


もう一つ、家庭教師アイドル。http://www.going-net.com/comedy/2014/08061339.html
「勉強の楽しさや必要性を世の中に訴えていくことをコンセプトに現役女子大生のみで結成されたアイドル」だそうです。


以上が、アイドル的な先生によって勉強へのモチベーションを高めるという方向性。



●アイドルと一緒に勉強する
ユーキャンは昨年よりAKB48のメンバーに資格試験にチャレンジさせるという企画を行っています。(参考:AKBチャレンジユーキャン!2014 http://www.u-can.co.jp/challenge2014/index.html
この企画では、「ユーキャンの教材を使って勉強すれば、アイドル「でも」資格が取れる」(のだから自分もできるかもしれない)という宣伝効果を狙っているものと思われます。ここでは、一般的にアイドルはあまり勉強ができない、頭がよくないというマイナスイメージを逆手にとっていると言えます。実際にはいまや東大にも早慶にもアイドルはいるわけで、そうしたステレオタイプのイメージは必ずしも事実を反映していないとは言え、この広告はアイドルという存在をうまく活用したものと言えるでしょう。


一方こちらは、AKB48の慶応大生内山奈月さんと憲法学者南野森さんによる憲法の入門書「憲法主義」http://www.php.co.jp/kenposyugi/

憲法主義:条文には書かれていない本質

憲法主義:条文には書かれていない本質


現役東大生アイドルの桜雪さんの以下の動画も、うまくアイドルと勉強を絡ませたケース。けっして面白い動画とは言い難いですが、東大生のアイドルは、当然勉強ネタをコンテンツにしていきますよね。
【受験戦争】世界でただ一人の現役東大生アイドル:桜雪がセンター試験(数?・A)を解いてみた【スチームガールズ:仮面女子】


一緒に勉強しようという方向性に加え、こうしたアイドルさんが出てくるのはとても頼もしいことです。私は個人的にはアイドルが全く勉強が出来なくても、それはアイドルであることにおいては全く構わないと考えますが、「(女性)アイドルはバカなものだ」という狭いアイドル観はつまらないと思います。アイドルイメージの幅を広げてくれるこうした存在がこれからも出てくるとよいと思います。(一方もちろん、勉強(や他のこと)が全く出来ない少女がアイドルに夢を託す、というように、アイドルでしか勝負できない少女というのも存在するでしょう。それはそれで尊い存在だと思います。)



●アイドルと一緒に自習をする
さて、今日アイドルと自習をしてきた話をします。
Study☆Stars project については以下を参照のこと。
http://ameblo.jp/studystars/entry-11828556574.html
竹橋駅と直結しているビルの9階、30人ほどが入れる会議室的な空間で、アイドルと一緒に4時間自習しましょう、というこのイベント。台風の影響で電車が遅れて、自習開始時刻を30分ほど遅刻して会場に入ると、アイドル4人(spring closetというユニット名)と10名弱のファン(?)が静かに自習をしていました。すでに言及している人がいるように、こんなに静かなアイドルイベントは見たことがない。非常にシュールな図ではありますが、窓の方に向かって一列に座って自習をする4人のアイドルの背中を見ながら、ファンは自習をすることになります。1時間単位で自習をして、合間にはどんな自習をしたかを発表したり、ミニライブを行ったり。チェキ撮影では自習で覚えた内容を書いたボードを持ってアイドルと撮影をしたり。しかし時間的な割合で言えば、圧倒的に自習時間の方が長い。アイドルイベントのメインコンテンツが「自習」です。これは本当に面白い試みです。


なによりも驚いたことは、そして強く印象に残ったことは、「なんかすごいはかどる」というこの一点に尽きます。なぜこんなにはかどるのか、集中できるのか。笑ってしまうくらい作業が進みました。ちなみにこの文章も自習中に書いています。アイドルファンの他に、単に物書きをしたり、勉強をしに来ている雰囲気の人もいて、その意味でなかなか異様な雰囲気でした。いや、アイドル現場として異様なだけで、まっとうにそこは自習室だったのです。


ちなみに、昼に行われたミニライブのパフォーマンスは全然なのだけれど、むしろメインコンテンツが自習なのだからそれでいい気がしてきます。そう、天平文化について一生懸命勉強してくれればいいんです。ここから分かることは、現代アイドルが、「体験の共有」を提供するものであればいい、ということです。コンテンツは何でもいい。時々アイドルの背中を見ながら、つまり同じ方向を向いてみんなで一緒に何かをするという体験が尊い。だから、イベント中に議題に上がった、アイドルの自習はこちら向きがいいか、向こう向きがいいかは自分にとって自明で、一緒に向こうを向いて勉強するべきなのです。そしてライブや接触イベの時に対面すればいいことです。


ついでに言っておくと、勉強するアイドルの一つのメリットとして、たとえばアスリートがアイドル化する際と同じような「ストイックでピュアなイメージ」をそこに読み込むことができるということもあるかもしれません(参考:?女性アスリート・四元奈生美http://d.hatena.ne.jp/onoya/20080309/1205083825)。本気で受験や勉強をするならアイドルをやらない方がいいのでは、というような意見がちらちらツイッター上で見られましたが、そもそも両立させるためのプロジェクトなので、それを言ってもしょうがないと言いますか、部活とか習い事をなるべく続けながら受験するというケースもままあるでしょうから、本気じゃないということには全くなりません。
ただもし本気度を表現していくのであれば、場合によってはメンバーの成績を公開していく(ユーキャンはそこをうまくコンテンツにしていますね)という手もあるかもしれません。そこでは、ファンも同様に、成績を上げるだとか、資格を取るだとかの目標設定を共有し、アイドルと励まし合いながら目標に向かう、という姿が望ましいでしょう。


次に別の現場があったため、3時間の自習が終わった段階で会場をあとにすることになりましたが、不思議な充実感が残りました。「アイドルと一緒に自習をしたら驚くほどはかどった」という一見滑稽な事実が、ネタとしてでなく、何か可能性を帯びたものとしても迫ってくるようでした。


この辺で一応のまとめをしておきますが、「アイドルと勉強」ということで考えさせられるのは、勉強という、多くの人がモチベーションを上げづらい事柄に対して、アイドルをフックにすることで、どのようにそれを娯楽化・ゲーム化し、楽しくやる気の出るものにするか、というのは興味深い問題だということです。
Study☆Stars project他、アイドルと勉強を結ぶ様々な動向に今後も注目していきたいと思います。