panachoの日記

辺境アジアからバロックオペラまで

苦闘、クチ・トンネル!

  カオダイ教はまたいつか触れるだろう。その帰り、ツアーは、つまり、我々を乗せた、どしようもないヒュンダイ製ミニバスは、クチ・トンネルに向かった。現在ホーチミン市の一部に属すらしいが、市の北何十キロかがクチだ(というかホーチミンってそんなにでかいのか)。ここは全村あげてアメリカに抵抗し全長200キロをこす地下トンネルをつくったことで勇名をはせた。米軍の枯葉剤散布もここが重点地区だったのか。漆器工房が午前中ツアーに組み込まれていたが、工員は奇形であった。実は後からコンダクターに聞いて知ったので、その大きな工房では手の短い人がいるなくらいの認識しかなかったのである。だから一枚も漆器を買わなかった。失敗した。奇形は枯葉剤の影響ということだった。500万人近い人がまだその被害に苦しんでいる。ヴェトナムの人口は8千7、8百万くらいである。
  ちなみに日本語ツアーのコンダクターは手抜きなのか、英語のにくらべてしゃべる時間が少ない。同じバスの、前が英語の、後ろが日本語のグループで、嫌でもどっちのツアコンがよく仕事しているか分かるのである。にもかかわらず、英語ツアーは7ドル、日本語は25ドルなのだ。3倍以上だ。理不尽極まりない。どこのツアー社を使ったかは既に書いたので、前に戻って確認できるはず。我輩はそこまでして日本語にこだわるつもりはない。結局、日本語が黙っているので、英語を聞いて情報を得ていたのである。こういうのが妙に引っかかる。腹が立つ。日系旅行社が日本人から搾取してどうする?。でも多くは日系が日本人からというのが一般的なのだ。他のツアー客はおとなしく黙っているので、当然抗議するのであった。日本人は相手が日本人だと相当強硬なクレーマーなのだが、でないと後進国の人間にさえ沈黙している。これは先進国に対する理由とは違うはずだが、いずれにしろ穏やかだ。それもカチンとくる。一回は抗議しておいた方が後日の日本人のためにいいと判断したのだが、一人激しく疲れる。
  クチはまさに、いかに弱い立場の人間が物量でくる相手(アメリカ兵)に立ち向かうかの戦術的オンパレードだった。各種落とし穴、および、落とし穴のなかの各種鉄製突起のバリエーション。とにかく、これでもかこれでもかである。でも米兵は6万人以下の戦死者しかいないのだから、残虐なのは何百万も殺したアメリカなのだ。しかし、ヴェトナム農民のやり方は徹底的に零細企業であるがゆえに、ある意味さらに原始的で残酷である。負傷しつつもかろうじて生還した米兵が戦争後遺症になるのは、思うに、当然だ。拙者もしばらく落とし穴の夢を見た。思い出しても身震いする。拙者ってなんだ。恐怖のあまり震えがきたわけね。腕に。我輩の。
  槍状のものに突き刺さって死ぬのは御免だ。死ねなくて何時間、何日も苦しむのか。それともヴェトナム農民がすぐやってきて手製の斧で殺してくれるのか。考えるだけで、映画ディア・ハンターである。?。抒情的なテーマソングを思い出している場合ではない。
  でもツアーで体験したのは、落とし穴に落ちることではなくて(当たり前でね?)、トンネルだ。このトンネルがまた、怖かった。土が硬いので手掘りは辛かったろう。でも200キロも可能だったのは、映画大脱走のように杭を必要としなかったからか。延々と狭く、低く、暑く、真っ暗な地下坑道が網の目のように走る。ほんとに狭い。うさぎのように歩く。そのわずか100メートルを体験するのだが、あああ、しんど。4強。一人抜けた穴を回復できず、ガイドに導かれた一行がどこに向かっているか最後まで分からなかった。必死になって最後尾を追跡していくのだが、苦しいこと、夥しい。アメリカ兵は入ってこれない狭さにしてあるので、さすがの我輩も辛い。段差もあり、しかも光はまったくはないので、しきりにフラッシュをたいて、必死に追いすがる。長野ゼンコウジ(変換できないし漢字を覚えていない)のあの冥土巡りの比ではない。念のため。我輩が最後なので、孤独がつのる。ようやく穴から出てくると、いつもきちんとしている我輩の服もバッグも砂だらけだ。またホテルのひどいクリーニングに出すのかと思うと気が重い。横を見ると、一人抜けたひきょう者とツアコンがそこにいた。
  インドシナは日常がサスペンスである。クラビは海洋サスペンス。クチはその地下版であった。ま、カフェですら格闘技場と化すホーチミンであるから。・・・ともあれマイクロバスですら振動は激しくサスペンスフルだった。かくして、カオダイ・クチ・お笑いサスペンスツアーは幕を閉じた。
  ヴェトナム編も飽きたが、もう一度はカオダイ教に触れたい。いつかは不明。大きな話でなく、見てきた小さいことを書きたいのだが、忘れ始めた。早めにしないと。
  トンネルの入り口はかくも狭い。追いすがる。落とし穴の例。