ぱけちゃん、おしゃまなの。

ふざけながらも世間を切るんだ、はてなブロブ版

生きるというのと死なないというのは明確な違いがある


「ヤムさんの思い出より 〜 ノスタル猫 」


昨日の話である。
昨日はリハビリ入院中の父が自宅でのADL(日常活動生活)の度合いを測るために、外泊許可を取って自宅に戻るため妹と一緒に病院まで迎えに行き、父の自宅まで連れて帰ってきた。
脳出血と言うことと初期の左側の動作の不便な感じを見て大変心配したものだけれど、久しぶりに様子を見ると、廊下はふらつくことなく歩いているし、階段の上り下りもできているし、見る人が見れば全くの健常者と変らない状態まで「慣れ」て来ている様子。ま、明らかに不便そうにしている方が、世の中の人は親切に手伝ってくれたりするのだけれど、この程度まで動作ができるのなら大丈夫だろう。
そんな感じで、病院から家まで連れて行き、まず昔ながらのアパートに見られるような鉄製急勾配の地獄の17段階段を上る様子を見極める。・・・なんだよ、全然問題ないジャン。
そのまま家の中に入り、ドアのしきりなどにある細かい段差に躓かないか監視したり、布団の上げ下ろしをやってもらったり、そこから布団に寝てもらい起きてもらうなど。それと、またぎが大変に高い昔ながらの日本式浴槽を超えられるかなど、一通り確認する。
・・・一応、ここまで正常にできるなら「要介護」の認定は出ないだろうなぁ。と言う感じで大丈夫そうである。
あとは、この病気のために失った仕事をどういったものに変えていくかとか、自動車の運転が正常にできるかとか、不痛に文化的な生活を営むほどの生計が成り立つかとか、病気とはちょっと分野がずれる心配を沢山抱えていくわけだ。
糖尿病もちょっと怪しいので、糖尿病食の調理とか勉強もしてもらわないといけないしなぁ。
まぁ、元気でいてくれるのはよいことなのだけれど、厚生年金に加入し35年きちんと支払い続けていたのに、その満了の10年前で会社が倒産して、国民年金に変更するような状態になると、支給額も恐ろしいほど減額され、貧乏生活を余儀なくされる制度にな関して大変な憤りを感じたのであった。
・・・多分、高齢でリストラされて安い給与で、雇用保険も、社会保険も、厚生年金もないような待遇の仕事にしか就けなかった多くの人も同じような苦労を抱えているのだろう。
まじ、ほんとこういう行政のご都合主義には頭に来る。
「決まりですから」
の一言で済んでしまうのからな。


一応、元ヘルパー2級で介護職員をしていたオイラが確認しておきたかったことは大丈夫なので、また喧嘩するといけないので妹に後を任せて早々にオイラは引き上げた。
さて・・・、
気が付くと、全くお金が無くて飯もろくに食っていないオイラである。
正確に言うと、米があるので何とかくっていけない訳じゃないのだけれど、酷い鬱のせいなのか調理をする気力が無い。・・・おかずも買えないしな。で、母の家に行って、ビスケットなどをいただいてくる。丁度缶コーヒーも出してもらったのだけれど、その間なんだか凄く人生に悲観的になってきたので、通常毎食1錠と決められているワイパックスを、どんどん飲み始める。最終的に須田帆布のぷらっとショルダーに在庫してあった8錠全部飲み干した。・・・きわめてごく自然に。
けれども、特にこれと言って眠くなるわけでもなく、何の沈静効果も感じられなかった。・・・こりゃ、薬に対する耐性が付いちゃったみたいだな。今度病院に行った時には、「効かなくなりました」と言って、別のものに変えてもらおう。


やがて、少しお腹が落ち着いたので、母宅を出る。
しかし、相変わらず家にいると落ち着かない気分になるので、先日
「前ブレーキが壊れているんだけれど、使わなくなったマウンテンバイクがあるからもらってくれないか?」
という申し出があった割とご近所の友人宅まで歩いていった。そりゃ、帰りに自転車に乗ってくるのだから車で行くわけにはいかないだろう。
友人宅では、久しぶりにカメラの会話をしたり、エアガンの話をしたり、スターウォーズのエピソード4を見たり、じつに普段の生活の実態を忘れて、くつろぎながら過ごすことができた。やっぱり、スターウォーズは最初のエピソード4が一番いいな。
で、前ブレーキのきかない自転車をいただいて家に帰ったのは1時を少し回った位だったかな・・・。
そこで、ワイパックス8錠の効果なのか、副作用なのわからないが倒れるように茶の間に突っ伏して意識を失った。その後も、トイレに起きる位でやっと映画の「ターミナル」が始まる頃に目が開いた。
ハムスターが、
「餌よこせ! 春闘だ! メイデーだ! 資本家のわがままを許すなー!」
と、ケージをガリガリかじって暴れていたので、餌を多めに与えて黙ってもらった。
さて、お金もないことだし、今後はイヤなことは先に始めよう。神経がすり減ったら、それはそれでいいかもしれないしね、ロボットみたいで。

リビングウィル法 5 by 中崎ぱけを



夜のニュースはいつもと変わりのないものだった。政治家の金銭絡みの汚職、誰かが電車に飛び込んで多くの人が足し止めを食らったこと。そして、最近は簡単にであるが、今日の自殺者数を公表するようになった。もちろんそれは遺書が残っている場合や自殺が明らかであると警察が判断したものである。よって、高速道路のトンネルのかねにぶつかったり、何の支度もしていないような軽装の登山者が遭難したりして死去した場合の数字については、カウントされていない。もしも、それらを厳密に追求して白黒つけたとしたらもっとたくさんの人数が自殺者として化阿吽とされるようになるのかおしれない。2008年頃自殺者の累計は3万人を超えていたが、この数字は決して減ることもなく、増加の一途をたどっていった。それに多知る政府の政策は無きに等しかった。むしろ生産性の低く、税金や年金を年除されている人間が淘汰されることで、ねらい通りの政策を実施しているようにも感じだ。もちろん、主観的にそんな風に感じるだけだけれど・・・。
不定期に寝ているせいで、今夜は余りよく寝られない感じがした。睡眠導入剤も指示された以上の量を毎日飲んでいたから既に無くなっているし・・・。仕方がないので今夜は本腰を入れて、部屋の中を片づけることにした。どちらかというと身辺身辺的な意味合いが強いように感じた。
まず、普段ずっと使い続けるものと、おそらく置いているだけで今後思い出さない限り使うことがないであるものに線引きをした。そして、その中から少しでも価値のあるものに関しては、ネットのオークションで売約することにして、携帯のカメラで写真を撮りまくった。
あと、大きめのものはネットオークションでは大変なので、近くのリサイクルショップのサイトにアクセスして出張見積もりをしてもらうための予約を入れた。
そこからは、価値も付きそうにない過去の写真や、何故か残っている大学の時のノートとか、ボロボロに使い込んで英語の辞書、着なくなってしまった時代遅れの服、たくさんのスーツなど、それらを順次部屋の脇の方にきちんとたたんで寄せていった。
「段ボールが必要だな・・・」
そんな風に思ったが、あいにく無かったので、そのうち近所のスーパーから余ったものをもらい受けることにしよう。
そうして、深夜ラジオを聞きながら、素早いペースで整理をしていく。昔だったら、
「あー、これって、将来使うかもしれないなぁ・・・」
などと悩みながら分別をしていったのだけれど、今回の場合は整理に対する方向性があまりにはっきりしているのでとても素早いものだった。今現在毎日使っているもの以外は、すべて不要、という明確な方向性があるからだ。もちろん、懐かしいものに目を触れるとノスタルチックな気分になることもあったが、僕はあえてそういう感情を押し殺し、ひたすら部屋の片隅に追いやっていった。
整理の途中で、特定のカテゴリに属するものが存在した。自分の趣味に関する物品である。毎日使い続けるものはよいのだけれど、そうでないものもある。そこで、僕はノートを1冊取り出して、この使ってないカメラはアイツにあげようとか、このバラバラになったジャンク品敵パソコンはアイツにあげて有効活用してもらおうとか、それはまるで「意志を付した形見分け」のような作業だった。
同時に、これは僕が死亡した時の案内状になるはずだ。母や父に、誰が友人だ? とか困らせることもないし、絶対に来て欲しくない人を排除することもできる。死してまで会いたくないヤツというのは確かに存在するものだ。・・・かつての会社の上司とかね。


新月である漆黒の闇が、次第に紫色に変ってくること、大体の物品の整理ができた。あぁ、懐かしいな。紫色の空。僕が大学にいた頃は、部室で夜通し楽器の練習ばかりをしていて、窓からよく同じような色合いの明け方と夜中の中間の空をしんみりとした気持ちで眺めていたものだった。
それは、将来に対する明確な希望を持つことができなかった僕の心の色を表しているようで、とても共感のもてる色合いだったのだ。
さて、オークションに出すためにパソコンで色々と作業をしなければいけなかったが、さすがに疲れを感じてきたので、部屋の適当な場所に横になってそのまま眠りについた。当然、寝るためにいつもらったわからない適当な精神安定剤を3錠くらい服用した。
眠りはすぐに訪れた。


昼頃、とんでもない「ピンポン♪」の連打によって僕は起こされた。
・・・どこの失礼な新聞勧誘員よ?
と、不機嫌になりながらも布団から起きあがろう落としたら、今度はドアを世間様にはばかることなくドスドスと叩き始めた。
「はいはい、はい。今出ますから、それ以上叩かないでくださいよ。」
そういって、僕はきわめて不用心にドアを開けた。実はドアを開けた瞬間に凶器をもった強盗がいて刺されてもかまわなかったし、どのみちもっていって満足してもらえるような金目のものなんて無いんだ。僕に怪我をさせて、且つ金目のものが無くて強盗傷害や、強盗殺人で捕まっていく犯人のことを想像すると、とてもざまあみろ、と言う感じで僕はそれが楽しかった。
しかし、ドアを開けるとそこに居たのは母だった。
開口一番母は言った。
「あんた、全然連絡が付かないんだけれど。」
「・・・あ、あぁ。電話は壊したし、携帯電話は水の中に放り投げた。」
「・・・全く、何子供みたい事しているの?」
へーへー、スイマセンね。どうせ僕は子供ですよ。
そう思っているうちに、母はズカズカと部屋の中に入ってきて、ちゃぶ台式のテーブルのところに勝手に座布団をもってきて座り込んだ。
「なにかのむ?」
と僕が尋ねると、母は勝手にカバンからコーラを取り出して独りで飲み出していた。何となく肩すかしを食らった僕は、自分用にノンカロリーのコーラを冷蔵庫から出して母の向かい側に座った。
「・・・何か用事あったの?」
僕は尋ねる。
「あんたがリビングウィル法に申請しないように監視しに来た。」
「・・・。」
「申請を辞めて、治療を受け始めるまで帰らないからね。」
「・・・てか、ご自宅はどうするんですか?」
「あの人に事情を話して、出てきた。」
あの人、つまり母の内縁の夫である。
「・・・。止められなかったの?」
「・・・無視。てか、自分の子供の命が危ないという状態で止めるような人なんて普通は居ないのよ。」
かつての日本では、と母は付け加えた。
「それで、治療に行ったの?」
「まだ。」
僕はコーラをのんきに飲みながら、返答する。
「何で早く行かないの?」
「・・・色々と考えるところがあって。」
「治療してから考えろ。」
そういったかと思うと、母は席を立ち、僕は昨晩整理したいらない服の中から寝間着やタオルなど入院に必要と思われるものを取り上げ、同じように捨てようと思っていたバッグに詰め込み始めた。
「あのさ、ちょっと待ってくれない?」
母は手を止めない。
「今、医者や役所ときちんと相談して居るんだ。手術で治るかもしれないと言ったって、大変なんだぞ。」
それでも母は手を止めない。
「生き残ろうとしても、抗ガン剤など必要だし、苦しいのには変わりがないんだ。」
絶対に母は手を止めない。
「わかったよ、治療の方向で考えるから2〜3日、ゆっくりさせてくれないかな? もしかしたら、病院から出られない可能性だってあるんだし、やりたいことだって少しはあるんだ。」
母は手を止める。
「必ず2〜3日で、入院しなさいよ。そのために必要な書類や知識は全部調べてあるんだから。とにかく理屈じゃなくてリビングウィル法なんて申請させないからね。」
「わかったから、今日のところはいらないものを整理する時間が必要だし、余分なものを引き取りにリサイクル屋が来るんだ。落ち着かないから今日のところは帰って欲しい。」
「絶対だよ。」
母は1分ほど僕をにらんで、そして、何事もなかったようにカバンをもって帰っていった。
それに僕は圧倒され、今まで見たことの無いような母の姿でもあった。


僕はスッカリ静かになった部屋の中で、パソコンを立ち上げ、時計やら、丁寧に作り上げたプラモデルや、その他楽器の類、色々なものをオークションにあげた。締め切り日は母との約束が気になったのか3日後に設定した。別にもうけるための出品じゃないし、有効に使ってくれる人に手渡したいので、
「大事に使ってくれる方に、」
と添え書きをしておいた。条件として送料、振り込み手数料僕持ちという形にしておいた。
やがて、リサイクルショップの担当者がやってきて、食器棚やタンス、テレビ、ステレオセットなどを丹念に査定して、見積書を僕に提出した。僕は、適当に金額に目を通して、それらの大型家具、家電をもっていってもらった。まるで引っ越しの最終段階のように僕の部屋はすっきりとしてしまった。部屋にあるのは毎日使うものだけである。とてもシンプルな生活だ。まるで自動車期間工で寮に放り込まれた時のような圧倒的なあっさりな感じが漂っていた。
少し、空腹を感じたので僕は近くのコンビニ行き、カロリーメイトと缶コーヒーを買いに行った。戻る途中で郵便受けを見ると、封書が1通入っていた。僕は忘れかけた郵便受けの解除番法を思い出すため、財布の中をごそごそ探し、メモを開いて何とか施錠を解いた。
封書の裏を見ると、柏木恵、と書いてあった。
「・・・あぁ、リビングウィル反対の左翼姉さんだ。」
そう思って、再び鍵を閉め僕は部屋に戻る。
とても丁寧な字で書かれた封書を、僕は不器用に乱暴にちぎって開封する。そして、中の手紙を読む。


「私のこと覚えているよね? 約束通り手紙を出しました。
あした、どうせ暇でしょ? 1時にあなたの家の近くのサンクスの駐車場で待ってるから、来なさいね。以上」
・・・。
なんだこの適当な手紙は?
しかし、起こるのも面倒だし、元はと言えば電話で済むような用件を自分で電話を封印したためにこんなあほらしい手紙を受け取る羽目になってしまったのだから、怒るに怒れない状態だった。非常な脱力感を感じたので、僕はラジオを付け、カロリーメイトを缶コーヒーで流し込み、そのまま仰向けにひっくり返って眠りについた。改めて言うまでもないが、精神安定剤オーバードーズのおかげで眠りは突き落とされるようにすぐにやってきた。ほんの刹那、
「いい加減、歯を磨けよな。」
と自分に語りかける声が聞こえたが、すでに眠気の方が勝利していたので無視して眠りに落ちた。