東大寺“修二会”

我々は、近鉄に揺られて奈良に向かった。

東大寺の二月堂で行われている“お水取り”と呼ばれる行事を見に行くためである。


3月の1日から14日まで、二月堂では“お水取り”が行われている。

私にあるのは、遥か昔、小学校の頃にその名を聞いたことがあるようなないような曖昧な記憶のみ。
それがどのような行事なのかを知ったのは、最近の夕方のニュース番組で“お水取り”が取り上げられていたのを見たのが最初である。


あらためて調べてみると、“お水取り”とは正式には“修二会”というものらしい。東大寺のものは一般的に“お水取り”呼ばれているが、正式には今日行われていたのは“お松明”というものだったようだ。


夕方、近鉄奈良駅に着いた我々は、徒歩にて東大寺へ向かった。
東大寺まではおよそ1.3kmくらいだったが、春日ホテルの前でオードリー春日のモノマネをしたり鹿と戯れながら歩いているとすぐに着いた。


東大寺の前ではフランス人?の家族が鹿せんべいを買っていたが、小さい女の子は鹿のあまりの食いつきにおののき、途中でせんべいを投げ捨てていた。
甘い気持ちで鹿せんべいを持つものは、ことごとく鹿の餌食になってしまうのだ。私は、麻薬と鹿せんべいだけは決して買うまいと心に決めている。


かわいい顔をしてもダメである。だまされてはいけない。


二月堂に着いたのは18時頃で、行事が始まるまではあと一時間くらいの余裕があったためまだ比較的良い場所が空いていた。我々は柵の内外をうろうろと歩き回り、最終的に柵の外の、舞台全体が見える位置に陣取った。
少しするとだんだんと人が増え、直前にはほぼ空きがなくなった。振り返ると、少し下の広場は人で埋め尽くされていた。

19時になると広場のライトが少しずつ消え、いよいよ始まる様相を呈してきた。
奥の方で炎が揺れ、だんだんと二月堂へ上っていく。
そしてついに、竹の先に付けられた火の玉がゆっくりと現れ、廊下を左から右へと動いた。
予想以上に大きい火で迫力もあり、火の粉もすごい。
特に右端まで来た火の玉をおじさんがくるりと回したときに出る火の粉は、さながら花火のようでちょっとした感動のようなものさえ覚えた。と言えば、少し言い過ぎか。

火の玉が左から右へ動き、火の粉を散らして奥にはけ、また新しい火の玉が左から右へ、という繰り返しが約20分続き、かなり楽しめた。
有名な行事でもあるし、一度見ておくのもいい。


そういえば、同じような火の祭であるスペインはバレンシアのLas Fallasも、同じ時期に行われている。
とはいえ、Las Fallasは祭の期間も規模も圧倒的である。とても「同じような」とは言えないのではないかとも思うが、ちょうど一年前にLas Fallasに行った彼は少しその熱気を思い出していた。

(Las Fallasの雰囲気)

我々は、暗い夜道をてくてくと近鉄奈良まで歩いて来た。それにより身体の芯まで冷え切ってしまったが、その身体を東向き商店街で配られていたあめ湯が温めてくれた。
なんというすばらしき心配り!
我々は生姜の力によりぬくぬくになって京都に帰った。