女王の教室第10話

日本テレビ土曜ドラマ女王の教室」。遊川和彦脚本。渡部智明演出。制作協力は日活撮影所。天海祐希主演。第十話。
教室を舞台にした教師と生徒たちとの死闘は今回ついに新たな段階に突入した。悪魔のような教室の女王、阿久津真矢(天海祐希)が従来通りの厳格な教育をなおも強化しつつ続行してゆこうとした中、もう一人の教室の女王、不屈の神田和美志田未来)は、真矢に決して弱みを見せないようにすべきこと、そのためには真矢の期待をも上回る模範的な生徒になるべきことを主張した。刈谷孝子(佐々木ひかり)がこれに賛成し、教室は前向きに動き始めた。これを真矢の策略に乗せられたものと冷笑するのは間違っている。何故なら模範的な生徒になることは肯定され高く評価されるべきだからだ。
だが、真矢には今、教師としての生命をも賭して闘わなければならない相手が一人いた。東京都教育委員会管理主事の西郷(根岸季衣)。西郷は真矢の教育を問題化し、教師としての生命を絶たせたいと考えたのだ。ここにおいて不屈の女王、神田和美は西郷の前で敢えて自分たちと真矢との死闘を見せることで、真矢の教育の真価を明らかにし、真矢を助けようとした。西郷の監視下、真矢に対して真矢の教えの真意を問いかけた新藤ひかる(福田麻由子)、馬場久子(永井杏)、真鍋由介(松川尚瑠輝)、そして神田和美。それぞれの問いに明晰に明快に、しかも力強く応えた真矢。この緊張感に満ちた問答集の場面こそは物語「女王の教室」の真価を明らかにするものであり得る。これまでの十話を欠かさず見てきて本当によかったとおもった。
先生は本当はよい先生なのではないか?という和美の最後の問いは真矢への助け舟に他ならなかったが、真矢は、自分のやり方を正しくないと考えたことは一度もない!と応じることで助け舟を拒否した。この瞬間、西郷は勝利を確信したのだろう。
そのあとの校長室における西郷と近藤校長(泉谷しげる)との会話、そして西郷の退出したあとの近藤校長と上野教頭(半海一晃)との会話によって真の争点が明確化したと云える。西郷の見るところ真矢の真の問題点は、たとえ存在していようともあたかも存在していないかのように偽装しなければならない世の中の不条理を明るみに出してしまっているところにある。不公平・不公正などの不条理など今の世の中には存在しないと子どもたちに思い込ませることによって逆にそうした不条理を温存させ永続させることこそが教育委員会の指導下に生きる教師の「公務」であるのだ。そうであれば真矢の教育は体制への裏切りに他ならない。近藤校長が体制下に無事に生きたいと希望しつつ、真矢の理想にも多少は共感してもいるのに対し、上野教頭が徹底的な体制の支持者であるのは見易い。真矢の追放を企て教育委員会に密告したのも恐らくは彼だろう。先週のあの挙動不審はその徴に他ならない。