東谷暁『ビジネス法則の落とし穴』(学研新書)レビュー

ビジネス法則の落とし穴 (学研新書)

ビジネス法則の落とし穴 (学研新書)



 
アベさんがああいうことになってから、「人はえらくなるほどどんどん無能になる」という「ピーターの法則」が取り上げられるようになったのには、オドロキました。なんかのプロモーションなのかどうかは分かりませんが。…………ということで、“ビジネス”というにとどまらず、新聞雑誌のヒマネタ記事なんかの解読の一助にもなるやも知れぬ、「ビジネス法則」棚浚え講義。徹底した取材・調査で、数々のエコノミストや経済学者たちを批判してきたジャーナリストたる作者ならではの好著。巷間溢れるビジネスの珍則に、完膚なきまでにツッコミを入れながら、ビジネス戦略のオーソドクシーは、歴史的にどう推移してきたか、平明に語る。それにしても、IT革命絡みの「法則」の、辛辣なことといったら。本書の議論の取っ掛かりは、いわゆる「ロングテール」の真偽のほどを探ることにあるけれども、今までの「ビジネス法則(戦略)」の再検討を経て、後半でも再び俎上に載せられる。「べき乗法則による現象の一部分だけに注目した「ロングテールの法則」が、これまでのビジネス法則を完全に変えてしまったなどというのはほとんど妄想に近い」。要するに、ビジネスモデルが「ロングテール」オンリーで成立するはずがない、という至極当然のことを言っているのだが、「ロングテール」自体も「べき乗法則による現象の一部分だけに注目した」ものであるのだ。――いうまでもなく、「ビジネス法則」とは自然法則のことではない。本書を通読すれば、経験則と学問上の仮説の混交物であることが明らかであり、信頼性のある「法則」といえども、「それが成立するためには空間的かつ時間的な条件がある」。著者は、複数の「ビジネス法則」を組み合わせることの意義を説くけれども、まあたぶん、それらをすべてひっくるめて、また新たな「ビジネス法則」が作り出されるんでしょうな。ともあれ、リーズナブルに「ビジネス法則」の各々を知りうるという意味で、特に、学生さんたちに強くオススメしたい。…………それにしても、「沈黙の螺旋」で商売やっては、ホントにいけません。