「派遣切り」と正社員層

前回は感情に任せてほとんど書きなぐりで、なぜかブックマークも急に増えたので、言いたいことを整理。

ネット上の匿名言論とはいえ、その中でもYahoo!という最も公共性の高い(つまり学校でネットを習った人が最初に指定されるような)ポータルサイトで、「きちんとした文体」で書こうとする意思のある人が、明らかな経済弱者にルサンチマンを抱いていること。これは「所詮はネタだからマジメに受け取るな」というニュアンスを常に残している「2ちゃんねる」のヘイトスピーチとはやはり質が違う。むしろ「坂本政務次官こそ本当の国民の意思」といったような、ストレートに「マジメ」さを前面に出したものが多い。やはり個人的には深刻に受け止めたいと思う。

本当にYahoo!ヘイトスピーカーが正社員中間層かどうかは実際のところはわからないが、そう考えると現在の社会においてフラスとレーションを生み出している構造が見えてくるんじゃないかということ。どういう構造かといえば、実は低賃金正社員層が現代社会のなかで、最も被害者感情を抱えやすい階層かもしれないということである。非正規低賃金層の苦しさとは、「食っていく」「住む場所を確保する」という、他に説明の要らないほど極めて素朴なものである。そして彼らが「社会的弱者」であるということは、ようやく政治的・社会的にも認知されるようになっている。

正社員だが相対的に労働環境が劣悪であるという人々の苦しさの質は、これとは全く異なる。それは、「一人前の社会人」として扱われ、またそういう自覚を強くもちながら、生活は決して楽ではないことへのジレンマである。昇給もほとんどなく、税金や社会保険などはしっかり払わされているだけではなく、非正規に転落することへの恐怖感が強いので、どんなに職場が嫌で待遇が悪くてもなかなか辞められない。ある意味で現代社会のなかで、最も忍耐を強いられている層であると言ってもいい。

特に90年代後半以降の「構造改革」のなかで、一般の正社員層に向けた政策というのは、たまに所得減税があるくらいでほとんど皆無であった。むしろ、累進課税率の引き下げや社会保険料の上昇など(給付は抑制)といったように、正社員中間層の社会福祉は「既得権層」というレッテルもあって、傾向的に掘り崩されて続けてきた。今でも麻生政権は「正社員にすれば企業に補助金を出す」などという政策を打ち出しているように、「正社員」とはこれ以上の何の生活保障も必要がないほど安定したものだという幻想が、依然として根強く残っている。しかし、外食産業や家電業界の正社員の労働環境が、非正規雇用以上に劣悪であることは、あちこちで報道されるようになっているし、実感としてもこれは疑い得ないところである。

このように、低賃金正社員層は「一人前の社会人」であるはずなのにも関わらず、低い労働環境を強いられ、また「正社員だから」という理由で様々な社会的支援から「見捨てられてきた」階層であると言えるだろう。そのように「好きでもなく給料安い仕事に黙々とこなしながらマジメに税金や保険を頑張って払っている」という意識の強い正社員層からすれば、非正規雇用層が声を上げて国に支援を求めている姿に共感を抱けないのは、当然のことと言えるだろう。

そう考えると、今回の「派遣切り」の問題で派遣社員だけを援助の対象にするのでは決してなく、低賃金正社員層の待遇も同時に改善するような仕組みを考えていく必要がある。湯浅誠さんなど支援活動の中心にいる人はこのことをよく理解しているが、マスメディアの語り口は依然として正規/非正規を分断している。正社員の仕事を減らして非正社員に仕事を再配分するという「ワークシェアリング」が喧伝されはじめているが、仕事の中身そのものが低賃金正社員層と大きく被ることが予想されることからしても、かえって正社員層のルサンチマンを増幅させるだけだと考える。