『君の名は』と『君の名は。』 全ての新海物語の終着点

『君の名は』とは、
昭和期に放送された菊田一夫原作のラジオドラマ。
映画、テレビドラマにもなった。
主人公は真知子と春樹。
2人は思いを通じあわせているが、さまざまな苦難が立ちふさがり、出会っては別れ、出会っては別れを繰り返しなかなか結ばれないことで、国民の関心を集め伝説的大ヒットとなった。
決してハッピーエンドとまではいえないが真知子と春樹は最後は結ばれる。



君の名は。』とは、
2016年に公開された新海誠原作・監督のアニメ映画。
美しいアニメーション背景、人気バンドの楽曲に合わせたストーリーが若者たちに受け、原作小説ともども大ヒットしている。
主人公は三葉と瀧。
2人は夢を通じて入れ替わり、互いに思いを寄せるようになるが、出会おうとしても出会えない現実が突きつけられる。



新海誠の過去の作品とは、
ほしのこえ』『雲のむこう、約束の場所』『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』等、結末に男女の別れを描く。(決して後ろ向きの別ればかりではないが、少なくとも劇中では離れ離れになる)
一度は思いを通じ合わせたかと思わせといて、最後は別れを描き続けることで、コアなファンを獲得している。
出会って別れの繰り返し。



君の名は。』公開前にアメリカ・ロサンゼルスで行われたワールドプレミアの試写にて。
集まった観客は全員新海誠ファン。
歩道橋ですれ違って別れるシーンで「またか…」という悲鳴と絶叫。
その後の電車のシーンからはエンディングまで観客総立ちで歓声の嵐。
ビジュアルガイド掲載の内容。



君の名は。』では、
思いを寄せ合った三葉と瀧は、別れることなく出会って終わる。
すれ違った男女は、お互い振り返って「君の名前は?」と呼びかけたところでエンドロールとなる。
新海誠ファンにとってそれが最高に嬉しくて、プレミア試写での歓声につながる。



君の名は。』は、入れ替わりの物語だ。
劇中世界では、時空を越えて遠くの誰かと体を入れ替わることができる。



果たして『君の名は。』で最後に出会った男女は三葉と瀧だったのか。
他の誰かと入れ替わっていたことはないか。
「君の名前は?」という呼びかけに、劇中では名乗らず終わる。
2人は何と答えたのか。



再会したのは美加子と昇だったのではないか。
佐由理と浩紀だったのではないか。
明里と貴樹だったのではないか。
雪野と秋月ではなかったのか。



今まで出会って別れ続けた新海作品のヒロインと主人公たち。
君の名は。』のラストシーンは過去の全ての新海作品に救いを与えるものとなっている。
ほしのこえ』から14年越しに完結した恋愛物語。
そして、これから発表される全ての新海作品の辿り着く終着点にもなるだろう。
新海誠が作り出す心が張り裂けそうになる切なさも、もう怖くはない。
君の名は。』がある限り。