今年の漢字

年末恒例の「今年の漢字」は「命」に決まったそうだ。「清水の舞台」の上で、森清範貫主が大きな筆で一気に書き上げた=写真=。最後の一画(縦棒)に力を込め、跳ね上げるような筆づかいが印象的だった。
たしかに、皇室の男児誕生からいじめ自殺、虐待死など「命」にかかわる話題が多い一年だった。全国から寄せられた9万2500通もの応募のうち1割近くを「命」が占めたという。
個人的には「格」がふさわしいのではないかと思っていた。国家の品格が問われ、格差社会の矛盾も噴出した。残念ながら、結果的には5位にも入らなかった。2位以下は「悠」「生」「核」「子」「殺」「球」の順。なるほど、みんなそれなりにうなずける。
「命」「生」「殺」はとらえ方が違うだけで、思いは同じだろう。筆を執った森貫主は「人々に深い苦しみが潜んでいる表れ」と感想を述べた。
人々の「苦しみ」を救うべき政治の世界では、安倍新総裁の「特命」で造反議員が復党、支持率低下で政権の「命脈」まで危ぶまれ、次期参院選に党の「命運」がかかる。公平公正を「使命」とする公務員の汚職は後を絶たない。次代を担うべき教育の荒廃を、競争社会の「宿命」と片付けていないか。
貫主は「いのちを敬い、尊重し合うことに心して書いた」そうだ。そんな社会の実現にみんなが「懸命」になれたら、と願う。
 
 【写真は、京都新聞電子版から転載】