今日も青木直己氏の
幕末単身赴任 下級武士の食日記
の中の話しから。
和歌山藩の下級武士酒井伴四郎の江戸日記には、
万延元年11月19日の項に
「朝本屋来る」と記されています。
これを青木氏は長屋を訪れる貸本屋だと解説しています。
伴四郎は度々外出して江戸の町を楽しんでいるようですが、
長屋にいる時には、貸本屋から本を借りて読書する楽しみも覚えたようです。
それでは、伴四郎は貸本屋からどんな本を借りて読んでいたのでしょうか?
このことについては、残念ながら何も記されていません。


松山藩士の家に育った俳人内藤鳴雪の自叙伝
鳴雪自叙伝
をみると、貸本屋についての詳しい記述がありました。


貸本屋は高い荷を背負って歩いたもので、
屋敷でもその出入を許した。
古戦記の外小説では八犬伝水滸伝
それから御家騒動は版にすることは禁ぜられていたので
写し本で貸した。
種々な人情本や三馬等の洒落本もあり、
春画も持って来るので、
彼らはいずれも貸本屋を歓迎した。
私も子供の時に親類の勤番者の所へ行って、
春画を見せられたことを覚えている。


古戦記は
武士として読まなきゃいけない本の筆頭にあがりますが、
八犬伝以下は、当時のベストセラーということになります。
御家騒動なんかは現在の芸能雑誌って感じですし、
春画は、男ばかりの長屋では、
やっぱり人気の本ということになるのでしょうか。
ベストセラー、芸能雑誌、エロ本、
今も昔もあまり変わりばえしません。
伴四郎が長屋で読んでいた本も、
おそらくこうしたものだったと想像されます。