1冊目

動物農場 (角川文庫)

動物農場 (角川文庫)


一発目から、こんな機会でもなければ手に取るどころか存在自体すら認識しなかっただろう本である。著者も、著書も、聞いたことがない。これはとっても好都合なこと。こういう、普段だったら読まないような本を読むことが、この企画を行う上での楽しみの一つになるんだから。
著者のジョージ・オーウェルという人は、インド生まれのイギリス人。この本はスターリン社会主義政治に対する批判として書かれたもの、らしい。裏表紙の著書説明に「20世紀のイソップ物語」とあるように、動物たちを登場人物としたいわゆる寓話である。


農場で家畜として飼われていた動物たちが、ある日反乱を起こして人間を農場から追放する。自由となった彼らは、農場の中で動物による新たな平等社会を作ろうとする。新しい社会では、動物の中で一番賢いとされる豚が中心となった。その中でも、ナポレオンとスノーボール、この二匹がリーダーとなって改革を進めていった。彼らはいつも意見が対立し、激しくぶつかり合った。あるときナポレオンは、密かに育てていた大きくて獰猛な犬にスノーボールを襲わせ、牧場から追放させる。ナポレオンは農場の頂点に立ち、自分の好きなように方針を定めていく。
ナポレオンは巧みな手段を用いて、彼と豚たちによる独裁体制を作り上げていく。他の動物たちが不満を持てば、人間支配の時代を持ち出しあの頃に戻りたくはないだろうと諭す。スノーボールを人間と手を組んでいた悪人と決めつけることで、自身に対する信頼感と農場の一体感を作り上げる。規律を豚の都合のいいように書き換えて、自分たちだけが贅沢をする。貧しさに耐えて働く動物たちに、「あの頃と違って今は奴隷じゃなくて自由なんだ」と説得して満足感を与えさせる。ナポレオンに反感を持つ動物たちを自白させて殺す。


人間の支配から逃れるために革命を起こしたはずなのに、結局のところ今度は豚によるその他の動物たちの支配を受けてしまう。その社会は不幸であり、欺瞞と恐怖に満ちている。社会主義から生じる独裁体制を皮肉るという意図はあったものの、様々な国、政治体制に置き換えて考えることができる小説である(だからこその寓話なんだろうけど)。日本に置き換えてみても、例えば外国の脅威を必要以上に強調して軍拡を進めようと画策するように感じることがあるし、書き換えこそしないものの憲法を自分に都合のいいように解釈しているように感じることがある。この寓話には権力の歪みのパターンが抽出されているから、あらゆる具体的事例に置き換えて現実の社会を視る力がつく。個人的には、外に敵を作ることで内側の結束力を高めるというのが興味深かった。同じグループに属するけどその場にいない誰かの悪口を言うと、一層仲良くなれた気になるのと同じなのかもしれない。


「そうだ、ジョーンズがもどってくるのだぞ!それでいいのか、同志諸君!」
「いいか、諸君の中には、ジョーンズに帰ってきてほしいと願うものは、ひとりもいないだろう、どうだ?」
「諸君の中に、ジョーンズに戻ってきてほしいと願っているようなひとは、ぜったいにいるはずはないんだからね?」




読了日 7/6
満足度 ★★★★
この本に関する記事
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次に読む本を発見。