佐野嘉秀・池田心豪・松永伸太朗『人的資源管理』

 法政大学の佐野嘉秀先生から、池田心豪先生・松永伸太朗先生とのご共著『人的資源管理-事例とデータで学ぶ人事制度』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

 人的資源管理の総論2章、各論12章から成る本で、各章ともまず最初に「〇〇とは何か」の項がおかれ、解説に続いて副題のとおり「事例で理解する」「データで確認する」の項がおかれていて、たいへん理解の進みやすい構成になっています(おおむね佐野先生が解説、松永先生が事例、池田先生がデータという受け持ちになっています)。各章とも20ページ前後があてられているので読書会の輪読などにも使いやすそうですし、学部生や初任人事担当者のテキストとしてたいへん有効な本といえそうです。特に人事担当者にとっては、人事制度の企画立案や改定にあたって、事例を参考に、データを踏まえて仕事を進めるというスタイルを知るという面でも有意義な本といえそうです。
 内容的には、教育訓練の章で知的熟練論の解説に続いて、事例として梅崎修先生が提唱された「工程設計力」が紹介されているのがなんといっても目を引くところで、思わず「おっ」と声がでました。あとはいつもの慨嘆になりますが集団的労使関係への言及が少ないなあという思いは禁じえず、それでも総論部分の労使コミュニケーションに関する節で4ページほどの解説がある(データの項でも言及あり)のは、今日としてはむしろ配慮が行き届いていると受け止めるべきなのかもしれません。

池田毅・倉重公太朗編著『フリーランスとの取引と企業対応』

 経営法曹の倉重公太朗先生から、池田毅先生との共編著『フリーランスとの取引と企業対応』をご恵投いただきました。ありがとうございます。両編著者のほか、今村敏・宇賀神崇・江夏大樹・全未来・田中麻久也・松本恒雄の各先生が著者として名を連ねておられます。

 フリーランス就労はプラットフォーマーの成長などを背景に拡大しており、それとともに課題も顕在化する中、咋秋にはフリーランス新法が施行されました。本書は第1部としてまずフリーランスの法的地位から始まり、続けてバックグラウンドとなる民法独禁法、下請法などのフリーランスへの適用を概観したあと、第2部ではフリーランス新法について詳細に解説され、第3部ではこれら法制をふまえたフリーランスとの取引にあたっての留意点が幅広く紹介されています。フリーランスは今後の労働市場で相当の存在感を示す可能性が高い一方、その実務にあたる担当者にとっては不明確な部分が多いものと思われるので、この486ページにおよぶ詳細な解説書は非常に有用なものとなるでしょう。帯の惹句にあるように「実務担当者必携!」であると同時に、フリーランサーにとっても役立つ本と言えそうです。ちなみに私自身も、今後一フリーランサーとしてフリーランス就労する可能性はかなりありそうなので、それを念頭に本書で理論武装をはかろうかと思っています。

日本労働研究雑誌特別号

 (独)労働政策研究・研修機構様から、『日本労働研究雑誌』2025年特別号(通巻775号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 例年どおりの「2024年労働政策研究会議報告」で、昨年9月に開催された今回の総括テーマは「フリーランスの就業と法─自由かつ安心して働ける就業機会の実現に向けて」でした。11月にフリーランス新法の施行が控える中で非常にタイムリーな企画だったのですが、私は残念ながら帰省が必要な案件が発生していて参加できず残念な思いをしたので、自由論題もふくめこれでしっかり勉強したいと思います。

ビジネスガイド3月号

 (株)日本法令様から、『ビジネスガイド』3月号(通巻955号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 今号の特集は「改正育児・介護休業法(次世代法、雇用保険法職業安定法)施行直前チェック」「令和7年度税制改正大綱等を踏まえた税・社会保険「年収の壁」」の2本で、前者は新年度から施行される改正法対応の最終チェック、後者は昨今話題の103万円・106万円・130万円・150万の壁についてのおさらいと展望ということで、まことに時宜にかなったものといえそうです。
 八代尚宏先生の連載「経済学で考える人事労務社会保険」は「第3号被保険者制度の課題」が取り上げられ、この制度の課題や矛盾を解説し、今後のあるべき方向性についてわかりやすく、説得力豊かに論じています。3号廃止は経団連・連合の労使双方が一致して求めている数少ないテーマであり、廃止に向けた長期的なロードマップ(それなりに時間をかけて段階的に進めることは必要でしょう)の作成とともに、これを含む社会保障制度全体のグランドデザインの検討にも取り組むべき時期だろうと思います。大内伸哉先生のロングラン連載「キーワードからみた労働法」は、昨年夏にPayPayが第1号の事業者として認定され、これを傘下に持つソフトバンクグループがさっそく利用を始めたことで話題になった「賃金のデジタル払い」の法制度と論点をていねいに論じておられます。

日本労働研究雑誌1月号

 (一社)労働政策研究・研修機構様から、『日本労働研究雑誌』1月号(通巻774号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。今年の色は「あおねず」か「ふじ」あたりが近いかな?

 特集は「不適合の先にある成長と活力」ということで、環境変化にともなって常に発生するミスマッチにどう向き合うか、さまざまな観点から7本の論考がまとめられています。昨今リスキリングが大流行で技術革新にともなう技能陳腐化やミスマッチは大いに注目を集めているところですが、企業人事の観点からは中高年社員のキャリア・プラトー問題も引き続き重要なところでしょう。こちらについては「成長と活力」というよりは、それとどう折り合いをつけてモチベーションを維持するのかという観点がより必要ではなかろうかと思われ、これについても各論文で触れられていますがやはり難しい課題かなという感じです。連合総研DIO』の最新号(403号)の特集はシニア労働ですが、類似の問題意識が見られ、あわせて勉強してみようと思います。
www.rengo-soken.or.jp

産政研フォーラム冬号

 (公財)中部産業・労働政策研究会様から、『産政研フォーラム』2024年冬号(通巻144号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。
www.sanseiken.or.jp
 今号の特集は「子育て支援のあり方」で、佐藤博樹先生が人事管理、武石恵美子先生が政策の観点から論考を寄せられています。大竹文雄先生の連載「社会を見る眼」は「優れた管理職の見つけ方」で、米国における最新の心理学実験の結果が紹介されています。立候補で選んだマネージャーよりランダムに選ばれたマネージャーのほうがパフォーマンスが良好だったという結果はなかなか衝撃的なものがあります。以下に元ネタの論文があります。
www.nber.org

ビジネスガイド2月号

 (株)日本法令様から、『ビジネスガイド』2月号(通巻954号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 今号の特集は「定年後再雇用2年目以降の契約更新の実務とトラブルを生まない制度設計」「ミドル層の採用後ミスマッチ」「労働基準監督官に提出する上申書の書き方」の3本で、今回は法改正関連はないようですが、それぞれに人事管理の現場のご苦労がしのばれる内容になっています。3つめには「結論が出される前に言うべきことは言っておこう!」との副題があるのが泣かせますが、いざ有事の際にはたいへん役立つ記事と申せましょう。
 八代尚宏先生の連載「経済学で考える人事労務社会保険」は「被用者年金による国民年金救済策の評価」で、そもそも相当わかりにくいこの施策の解説として有益であり、さらにその問題点が明確に指摘されたうえで、解決策としての目的(消費)税方式化と、首相直轄の社会保障改革機関の設置が提言されています。大内伸哉先生のロングラン連載「キーワードからみた労働法」は今回は「家事使用人」が取り上げられ、その東京地裁判決がhamachan先生の新書(濱口桂一郎『家政婦の歴史』 - 労務屋ブログ(旧「吐息の日々」)、本記事でも言及があります)の契機ともなった渋谷労働基準監督署長(山本サービス)事件の最高裁判決をふまえて、家事使用人の労働者性およびその保護の在り方について検討されています。