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2016-12-03

「許してもらえる」比べに負けたフォールスタッフ〜新国立劇場『ヘンリー四世第二部』

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 先日見てきた『ヘンリー四世第一部』に続いて『ヘンリー四世第二部』を新国立劇場で見てきた。舞台装置などはほとんど同じで、違いとしては第二部ではシャローの家でちょっとしたカーテンのようなものが使われる程度である

 第二部まで見ると、全体的に群像政治劇らしい要素が強くなっていると思った。基本的フォースタッフの芝居でも、ハル王子の芝居でも、ヘンリー四世の芝居でもなく、均等に注意が分散された演出である。とくに後半ではシャロー(ラサール石井)とかにもけっこう笑える見せ場があり、小さい役にも工夫が見受けられる。

 第二部で明らかになったのは、フォースタッフ(佐藤B作)とハル王子(浦井健治)には意外と共通点があるということだと思う。このプロダクションフォースタッフハル王子はどちらも野心的な人物だし、生来の魅力をふんだんに持っており、そのせいで何をやっても許してもらえると思っているところがある。おそらく2人とも互いの共通点には気付いているだろう。ところが所詮平民であるフォースタッフと違い、ハル王子だ。ハルには身分という強力なアドバンテージがあり、フォースタッフよりもはるかにいろんなことを大目に見てもらえる。フォースタッフ最後ハルとの「許してもらえる」比べに負けて放逐される。ハルが法院長を登用するのは、法院長は法という誰にでもあまねく降り注ぐ秩序を象徴していて、ハル王子すら許さなかったという来歴があるからだと思う。許しの時代は終わって、法の時代が来る。この中で自分は許してもらえたのに他人のことは許さないハル王子は、まんまと逃げおおせたと言ってもいいと思う。

 ヘンリー四世は第一部に続いて自らがリチャード二世から王位を奪ったことを強く気に病んでいる悩める君主で、政治力に欠けているように見える。父とうまくいっていないハル王子には、第一部同様王位を求める気持ちが強くある。亡くなったと思い込んで父王の王冠を手に取り、王が横たわる寝台の上に王冠をかぶってまたいで立つ場面は強烈な野心を感じさせると思った。最後にどうにか責任感を示して父王と和解するが、この諦めと野心が交錯する父と息子の相互理解の場面は比較ドライ演出されていると思った。使われている王冠が白くてちょっとちゃっちい材質であるのが非常に示唆的で、こんな王冠に対してハル王子が貴重な黄金だとかなんとか呼びかけてこれを欲しがるところには、権力を相対化するような皮肉が隠れていると思う。

 最後まで野心に満ち、王位を獲得するハル王子や、真面目人間に見えてヨーク大司教たちをだまし討ちするランカスター公(亀田佳明)など、終盤は権力闘争に対するシニカル視点が際立つ演出だった。最後にはクイーンの「プレイザ・ゲーム」が流れて、政治ゲームであることが示唆される。政治劇としてよくまとまった落とし方だと思った。

 おまけ:新国立劇場で熊いじめ?!と思いきや、王座に…

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2016-12-02

2016-12-01

2016-11-30

何をしたかったんだかよくわからない〜『オフェリアと影の一座』

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 『オフェリアと影の一座』を見た。ミヒャエル・エンデ原作で、小野寺修二演出舞台である。芝居一家に生まれたが声が小さくて役者にはなれず、プロンプターになったオフェリアが、ひとりぼっちの影たちをかくまうようになり、やがて影が劇団を結成する…というお話である

 自在に変わる白石加代子オフェリアとか、ミニチュアの家なんかをスクリーンに映してセットのかわりにしたり、布とか照明をうまく使って雰囲気を出す演出音楽や踊りの組み込みなんかは良かったのだが、正直何をしたかったのかサッパリからなかった。劇中劇の『トゥーランドット』と『オンディーヌ』のダイジェスト版みたいなのがけっこう長くて、それぞれはそこそこちゃんと作ってるのだが、いったいなんでこの2本がここに入っているのか、全体の中での位置づけがまったくわからない。ただ役者技量を見せるだけのために挿入されてて、劇中劇として機能してないと思う。これならいろんな芝居を短く抽象的に続けて見せるとかいうことをやったほうが全然、コンセプトがはっきりすると思った。全体的に見た目はきれいにまとめてるのだが散漫な印象の舞台だったと思う。

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2016-11-29

子どもの無限の可能性を失って大人のつらい恋がはじまる〜クィアからヘテロノーマティヴへ至る物語『君の名は。』(ネタバレあり)

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 新海誠監督君の名は。』を見た。新海誠監督作を見たのはこれがはじめてである

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 もう大ヒット作であまりあらすじとかは書かなくてもいいと思うのだが、時空を越えた愛というタイムトラベルSF王道テーマに男女の入れ替わりを絡めた超ロマンティックな作品である。ややこしくなりがちな展開をすっきりと上手に処理しており、美しい絵柄もあいまって大変よくできた恋愛ものになっている(展開はいろいろ突っ込みどころもあるが)。

 この映画の特徴としては、子ども時代の時空というのが極めて若々しく、無垢で、キラキラした無限多様性を秘めたある種クィアものとして提示されていることがあると思う(クィアという言葉意味については既に連載でけっこう書いたりしているのであまり詳しくは触れないが、要はいわゆる「ふつう」と違う、何かちょっと逸脱があるようなセクシュアリティのことである)。前半部分で入れ替わる三葉と瀧のセクシュアリティは、いまだに確定していない、海のものとも山のものもつかないようなところがあるものとして描かれている。

 三葉は少女なのだが、瀧の身体に入った時は瀧のバイト先の年上の美女である奥寺先輩とやたら仲良くしている。瀧の身体に入った時の三葉の甲斐性のせいで奥寺先輩と瀧はデートにこぎつけるのだが、その時に「本当なら私が奥寺先輩とデートしたい」とか三葉がメモを残すところがあり、この時点での三葉は瀧と身体的につながっている一方、瀧の身体を介して女性である奥寺先輩にも淡い恋をしているような宙ぶらりんの状態に置かれている。

 一方で瀧はもうちょっと最初からヘテロセクシュアルな感じで、三葉の身体を獲得した後はやたら自分おっぱいばっかり触っていている…ものの、しつこく描かれるうちにそれがなんだか完全に自分だけで満ち足りるふしぎな性愛みたいに見えてくるところがある。三葉を失ったと思った後、最後の手段でまた三葉の身体に入って目覚めることができた時、瀧は自分おっぱいを触って安心して泣くのだが、この自分のものでないはずの身体安心してしまうという描写にもなんとも言えないセクシュアリティアイデンティティの揺れがあると思う。

 瀧がおっぱいばっかり触っている描写バカなんじゃないのと思うところもあるが、全体的にこの2人の性的アイデンティティが確定していないところはある種の無垢さとして描かれていると思う。汚れを知らず、何にでも変化しうる子ども可能性の力により、この2人は時という一見直線的で不可逆なものにさえ挑むことができる。

 

 さら面白いと思うポイントは、この2人は両者とも芸術を通して神の世界につながっているということである。三葉は巫女で舞を踊るし、組紐を作るということで手わざによって神に仕えている。一方、瀧は絵が上手で、自分が三葉の体に入っている時に見た糸守の風景を絵に描いており、そのおかげで町民の信頼を勝ち得て神の場所に接近することができる。

 ところがこの映画はこういうあらゆる可能性が広がり、時空さえ変えることができる子ども時代単線的でヘテロノーマティヴ(異性愛規範的)な大人の時空に回収されていくところで終わっていく。性的にも芸術的にもいろんな可能性を秘めており、何にでもなれたはずのこの2人は、大人になるともう芸術もせず、子どもの頃の夢のような可能性の時空を忘れて毎日を生きている。最後に2人が直線的な時間の中で再開するところでこの物語は終わるが、この出会いは実はあまりハッピーな終わり方ではないと思った。ここで子ども時代の夢は終わってしまって、ここから異性愛的で前にしか進まない、ある意味で汚く残酷なところがある大人の愛の生活が始まるだけである。そういう意味では、子ども無垢無限可能性の喪失という悲しい要素のある終わり方なのではという気がした。

 なお、この映画はベクデルテストパスすると思う。三葉と四葉日常会話でパスする。

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