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2016-05-26

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2016-05-25

イザベラと飛翔〜『尺には尺を』(ネタバレあり)

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 蜷川の遺作となった『尺には尺を』を彩の国さいたま芸術劇場で見てきた。

 最初最後イザベラ(多部未華子)が鳥を飛ばす場面が付け加えられているのがポイントで、全体的にこの尺尺のイザベラはとてもガッツのある女性である最後に求婚する公爵(辻萬長)を振り切って出ていき、鳥を飛ばすところはたいへん心に残る。中盤、とくにジョン神父変装した公爵とやりとりするところではもう少し演出イザベラ自由精神を際立たせたほうがいいのではないかと思うところもあったが、とはいえ非常に生き生きしたイザベラだった。マリアナに「跪いてアンジェローを許してくれ」と言われるところのためらいから慈悲への移行を表す繊細な表現も良かった。

 アンジェロー(藤木直人)は真面目ちゃんからセクハラクズ野郎になる難しい役どころだが、ワルとはいえけっこう人間味のある役柄になっていたし、最後に「もう死んでしまいたい」というあたり、本気で後悔して死にたがっているらしい深刻さが良かった。公爵はどちらかというと偽善的な役回りだと思うのだが、ひとりで何でも陰からコントロールしようとし、最後イザベラ結婚したがるあたり、いい人みたいなフリをしているがやはり実にイヤな男だと思った。あと、『尺には尺を』を見ると毎回思うのだが(そしてみんなそう思っているのではと思うのだが)、この芝居に出てくる中で、弱さの点でも人間らしさの点でもまともなふつう人間ルーチオだけである。このプロダクションルーチオ(大石継太)はかなりまともなルーチオで、軽薄で実のない男だがイザベラのことは本気で心配しているみたいだし、大変人間味がある。

 全体的には笑いのツボを抑えた喜劇的な演出で、さらになかなか理解しがたい登場人物人間味のある連中として提示しており、よくまとまったプロダクションだったと思う。

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2016-05-24

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2016-05-23

話は緩いが、音楽はドラマティック〜METライブビューイング『ロベルト・デヴェリュー』

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 METライブビューイングで、ドニゼッティロベルト・デヴェリュー』を見てきた。METライブビューイングを見るのははじめてである

 話はエリザベッタ(エリザベス一世)が自分を裏切ったエセックスロベルト(ロバート・デヴルー)を処刑するまでを描くものであるロベルト女王エリザベッタに愛されていたが、親友ノッティンガム伯の妻であるサラと恋仲だった。ロベルトはこのことを隠していたが、これがエリザベッタにもノッティンガムにもバレてしまっておおごとに…

 話は史実全然違う甘ったるい内容になっており、けっこう展開は緩い。途中に挿入される歌手へのインタビューでも分析されていたのだが、タイトルロールロベルトが何を考えているのかよくわからず、権力も愛も友情も欲しがって結局全部大失敗するということであまり感情移入できないしそんなに賢くも見えない男なのであるロベルトは他の登場人物3人から熱烈に愛されているにもかかわらず(ノッティンガムロベルトに寄せる愛はほとんど同性愛かと思うほど強い)、誰の愛情にも責任を持って報いてやらないので(恋人であるはずのサラに対してもなにやら態度が煮え切らないし)、かなりヒドい人に見える。

 ただ、音楽は大変ドラマティックで、力業でこの緩い話を飽きさせずに最後まで見せてくれる。グローブ座を思わせるようなセット(劇中劇という設定らしい)に絵の中から抜け出してきたような衣装を着た登場人物たが動き回るという美術もとても豪壮だ。ただ、最終幕でエリザベッタとサラ両方が部屋着みたいな服装で人前に出てくる演出ちょっと疑問だった。どちらも非常に立派な貴婦人なので性格に合わない演出である気がするのだが…

 演出としては、エリザベッタ(ソンドラ・ラドヴァノフスキー)が若いツバメに溺れる惨めな老女王ではなく、ある種の威厳と情熱を持った女性として描かれているところが良いと思った。フラれて悲しむ気の毒なおばあさんみたいな感じになってもおかしくはない役に見えるが、最後の場面で統治する者の苦痛を歌う歌詞を背景に死んでいくところは、自由に愛することよりも偉大な政治家であることを選んだエリザベッタが最後に愛の苦悩に直面したということをある程度深みをもって提示していたと思う。あと、妻に愛されていない夫ノッティンガム(マリウシュ・クヴィエチェン)は横暴で魅力のない夫にもなりそうな役柄だが、歌手が頑張ってとても人間味のある役柄にしており、たいへん気の毒な人に見える。

 上演の映像じたいはかなり洗練されており、長い独唱でもカメラを動かして歌手の動きを丁寧に捕らえ、見ている人を飽きさせない。また、途中で入っているインタビューがけっこう面白く、休憩中の歌手に役柄の解釈とかをきちんと尋ねていてなかなか参考になる。寄付をつのる映像とか来シーズンの予告まであるのはとてもアメリカ的だ。

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2016-05-22

強迫的反復〜シアター風姿花伝、カクシンハンによる薔薇戦争サイクル一挙上演(ネタバレあり)

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 シアター風姿花伝でカクシンハンによる薔薇戦争サイクルの一挙上演を見てきた。シェイクスピア作品のうち、『ヘンリー六世』三部作と『リチャード三世』は薔薇戦争を扱っているので薔薇戦争サイクルと呼ばれることがあり、これはひとまとめに論じられることも多いのだが、日本では人気作『リチャード三世』以外はあまり上演されることがない(『ヘンリー六世』最初の二作はこの間板橋で上演されたはずだが)。薔薇戦争をまとめて短縮版で上演というのはイギリスでは行われているのだが、それも私は観たことないし、蜷川版の上演の時は私は日本にいなかったので(あとでDVDでは見た)、ちゃんと薔薇戦争を全部最初から最後まで生で見たのはこれが初めてである。朝11時から19時40分まで、とびとびに全部で2時間15程度の休憩が入る以外はほぼ劇場で過ごすというタフな上演スケジュールだが、薔薇戦争一挙上演というだけで研究者としては十分アガってしまう。

 とりあえず薔薇戦争サイクルは、イングランド王家がヨークランカスターに分かれ、それぞれの一族内でも仲違いして敵についたり足の引っ張り合いをしたりしつつ戦争暗殺を繰り広げる、まあマフィア映画ヤクザ映画みたいな感じの戯曲である最初に出てきたヤツは最後までにたいてい死んでおり、ほぼ自然死は無い。殺され方もかなりむざんなものが多い。

 セットはシンプルな白い舞台で、右の奥にはスロープ、左下には生演奏ドラムを設置するところがある。トラップドアが2つあり、そこを奈落にして死んだ人を降ろしたり、下からテーブルなんかを出して舞台に高度差をつけることもできる。岩だか紙だかゴミだかわからないようなくしゃっとしたものが壁にくっついており、荒れたイングランド国土を思わせるところがあるセットだ。

 カクシンハンのバージョンでは、『ヘンリー六世』三部作についてはそれぞれの戯曲を1時間15分〜20分程度のダイジェストにし、『リチャード三世』は2時間40分に縮めている。『ヘンリー六世』については、第一部と第三部のまとめ方はけっこう良かったと思うのだが、第二部でジャックケイドが出てきてすぐ引っ込み、どうなったのか明確にわからないというのはあまりよくなかったと思う。せめて鎮圧されたことを丁寧に台詞説明するか、無理ならケイドは全部カットしたほうがいい。『ヘンリー六世』第二部のジャックケイド関連の筋では、「弁護士は全員ブッ殺せ!」(これを言うのはケイドじゃないが)という有名な台詞を含んだムチャクチャな場面があるのだが、見せ場のひとつであるここを実際に舞台でやらないならカットしてしまっても話の進展に問題は出ないのではと思う(初演のお客さんにとっては有名事件がないと物足りなかったのだろうし、テーマとしてはケイドは重要なのだが、三部作の筋を流すほうではそこまで関係ない)。

 第一部についても、ジャンヌがバーガンディを説得するところは見せ場の1つだと思うのにカットされており、まあたしかに本筋にはあまり関係ないのだが残念だった。『リチャード三世』のほうは、老マーガレットが女たちに呪い方を伝授するため(呪いを練り上げるため)「子どもたちが実際よりもっと可愛かったと思え」と教える台詞カットされており、ここは非常によく書けた台詞だと思うので少し残念だった。また、リチャードがエリザベス王妃口説き落として娘であるエリザベス王女との縁談を実行に移そうとするところがカットされており、ここを減らすとエリザベス王妃役の女役(岩崎MARK雄大が女役で、けっこう良かった)の活躍が減るのでそこも少々物足りなかったかな。

 全体の出来については、やはり上演回数が多くてこなれてきている『リチャード三世』が一番良くて、『ヘンリー六世』第二部の部分が一番良くなかったように思う。『リチャード三世』は長い上演の最後なのに役者テンションがほとんど下がっていなくて感心したが、『ヘンリー六世』第二部は台詞忘れが二度ほどあり、さらにカットが多いせいなのかちょっと流れが悪くて全体的に焦っているところやスムーズさに欠けるところがあったように思う。

 演出としては、まあ薔薇戦争を全部やると必然的にそうなってしまうのかもしれないが、とにかく濃い陰謀殺人がひたすら繰り返されるので、全体的に強迫的な反復みたいなものを感じた。しかも二度目からはより残虐かつよりエネルギッシュになる反復で、反復によって憎悪が疲れて弱くなることが無い。「いやもうさっきも裏切ったよね?」とか「さっきも殺したよね?」と言いたくなるようなところが何度もあるのだが、そのたびにブラックユーモアが増えており、殺し方もエスカレートするので笑うしかない。とくにリチャードが死体のケツに火薬を詰めて爆発させる場面は笑ってしまった。

 『リチャード三世』の終わり方はかなり独特だった。最後にリチャードが殺害リッチモンドに抱きしめられたあと、ほぼ亡霊みたいになって「馬をくれ…馬…」みたいなことをブツブツ言うという終わり方になっているが、ここも非常に強迫的な反復を感じさせるものになっている。馬は移動手段で、それをいまだにリチャードが求めているということは、リチャードは死んだ後も去ることができず、大地をさまよう亡霊になったということを意味しているように見える(自分が殺した人々の仲間になったと言えるかもしれない)。亡霊がさまよい続けるイングランドの大地に安寧が訪れる日はあるのだろうか、またすぐに殺戮陰謀の繰り返しが始まるのではないだろうか…とちょっと不安を感じさせるところがある。

 一方で細かいところに繊細さがあり、とくに『リチャード三世』はよく詰められている。インターミッション日の丸(言われてみれば、使われてる色はイングランドの旗と同じだな!)が出るちょっとした政治的諷刺なんかもよく考えられているし、自分容姿に自信がなくてすねているリチャードの独白なんかも心情が非常によくわかるものになっている。また、リチャードの良心に関する演出が、私が今まで見た他の演出に比べてもかなり丁寧である。リチャード三世王子殺しの報告を聞いた後に思わず嘔吐してしまうという演出は、芽生えかけたリチャードの良心の呵責をうまく示すもので、その後のまるで恐ろしいサーカスみたいな亡霊の場面でリチャードの忘れかけていた良心が爆発するところにうまくつながっている。

 役者はいろんな役をひとりでこなしており、男役も女役もひとりでやったりする。色男のサフォークと大役リチャードをこなす河内大和最後までエネルギッシュだったが、意表をつくボーナ姫役での登場はなかなかに面白かった。とくにボーナ姫が婚約を断られた後急に太い声で激怒するところは笑えた。真以美がジャンヌ・ダルク、『ヘンリー六世』三部作のほうの若き日のマーガレット、『リチャード三世』のアンとリッチモンドを演じているのだが、これらの役のうちジャンヌ若い頃のマーガレットリッチモンドは一目で他人をとりこにするカリスマ的な魅力を持っているという共通点を有している。とくにリッチモンドはある種の母的な包容力(普通包容力ではなく、ちょっと逸脱的というか風変わりな包容力なのだが)と武勇を兼ね備えた存在として描かれており、武勇乙女ジャンヌと闘う母マーガレット統合する存在として登場しているのかなと思った。

 まあそんなわけで、全体的には疲れてへとへとになったがとにかく腹一杯になる薔薇戦争であった。欠点ももちろんあるが、見て損は無いし、とくに『リチャード三世』のできばえは大変よかったと思う。

 ちなみに今回はご招待でプログラムも頂いた(私が前にカクシンハン『ハムレット』について書いた劇評に関して、日本シェイクスピア協会から劇団への献本がないそうで、私が自費で献本したのでそのお礼にご紹介頂いた)。今まで芝居に招待されたことが四、五回くらいしかないので(ほとんどは仕事を請け負った劇場とかからお礼の招待)、招待されたからといって甘くなるようなことはないように厳しく批評家らしい態度でのぞもうと思ったのだが、何しろ6時間半もかかる芝居だと足も腰もヘトヘトになってなんか途中からそういうレベルではなくなった(あの長さで本当につまらなかったら皆途中で出てくわ)。また、頂いたプログラムには吉田鋼太郎のものすごいハラスメント発言が載っていて一箇所ドン引きしたのだが、それ以外では役立つ情報もけっこうあったし、また幕間で「劇中でポンフレットに送られたという台詞がありましたね!つまりパンフレット!」というようになんかステマというにはあからさますぎる宣伝が行われていたのには笑ってしまった。

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