ジョンとヨーコの別居期間を追ったドキュメンタリー~『ジョン・レノン 失われた週末』(試写)

 『ジョン・レノン 失われた週末』を試写で見た。ジョンとヨーコが別居し、ジョンがアシスタントで恋人だったメイ・パンと暮らしていた18ヶ月間を追ったドキュメンタリーである。

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 メイ・パンとジョンの話はファンの間ではけっこう有名なのだが一般的にはあまり知られていないので、こういうドキュメンタリー映画ができたことは意義があることだと思う。メイとジョンのなれそめは極めて奇妙で、ヨーコが独り身だったアシスタントのメイにいきなりジョンと付き合ってくれと頼んだことから始まる…ということで、現代の感覚だとセクハラだし当時としても妻が夫との交際を頼んでくるとかいうのは常識外れもいいとこだと思うのだが、異常に押しの強いヨーコのせいで、ジョンもメイもあれよあれよという間に巻き込まれてしまう。最初はいい迷惑みたいな感じだったジョンとメイだが、2人ともわりと個性的な人でうまがあって、だんだん本気でお付き合いして幸せに過ごすようになっていく。

 全体的に、ヨーコの変わり者ぶり、コントロールしたがる押しの強い性格が強調されている。メイにジョンと付き合うよう頼んだのも、ジョンが目の届くところで不倫をするのがイヤで、自分と同じタイプでもう少し付き合いやすそうな女性と付き合えばコントロールができると思ったのだろう…という感じだ。ところがヨーコはメイとジョンがどんどん仲良くなると嫉妬して仲を裂こうとする。メイにとってはヨーコはものすごく迷惑な人だったろうし、一方でジョンはいろいろ欠点はあってもチャーミングなボーイフレンドではあったようだ。ジョンもメイのおかげで非常に助かっていたようで、一筋縄ではいかない非常に奇っ怪な大人の男女関係を描いた不思議な作品になっている。最近のミュージシャン映画は「モテること」の利点と問題にあまりちゃんと向き合わなくなっている気がするのだが、この映画はそのへんを比較的ちゃんとやっている気がするのがいい。まあ、アクの強い人が集まったら人生こういうこともあるんだろうな…と思うし、メイは気の毒に見えるが、自立した大人として今も立派に振る舞っているメイを見ると「気の毒」とか思うのはちょっと失礼なのかも、とも思う。

ヘンリエッタストリート14番地

 ヘンリエッタストリート14番地に行ってきた。ここはジョージアンスタイルのタウンハウスで、後に貧困層向けの集合住宅となった家である。現在はツアーで見学する博物館になっている。18世紀はエリート向けのオシャレな家だったのだが、合同法以降、首都機能が完全にロンドンに移ったせいでエリート層がダブリンに住まなくなり、ヘンリエッタストリートが廃れて貧困層が住む地域になったらしい。19世紀から20世紀初めくらいには1部屋に14人くらい住んでいたそうで(トイレもない家である)、あまりの混雑と不潔な住居環境ゆえに1970年代に立ち退きとなったそうだ。 

家の模型。

ベッドにプロジェクションするタイプの展示…なのだが、正直見づらい。

1940年代のディズニーステッカーが貼られた子ども用ベッド。

一番家賃が安かった地下。

最後に立ち退いた住民の部屋。

 

Irish Rock 'n' Roll Museum

 Irish Rock 'n' Roll Museumに行ってきた。アイルランドのロックの歴史に関する博物館である。要予約で、博物館というよりはスタジオやライブハウスに付属した展示室という感じである。ガイドさんがかなり丁寧にいろいろ説明してくれるし、ビデオの上映などもある。

こんな感じでアイルランドの有名なロックミュージシャンの関連資料を展示

マイケル・ジャクソンがスタジオに来た時に寄付してくれたパジャマだそうな。

U2の部屋。

ライブハウス。

スタジオ。

シン・リジィの展示。フィル・ライノットはマジでダブリンでは地元のヒーローである。

ライノットのジュークボックスだそうな。







わりとコンテクストが難しかった~Women On The Verge of HRT

 ゲイエティ劇場でWomen On The Verge of HRTを見てきた。マリー・ジョーンズの1999年の戯曲である。中年の親友同士であるアンとヴェラが、お気に入りのスターであるダニエル・オコンネルのショーを見にドニゴールに行ってホテルに一泊するが、そこで妖精の魔法みたいな夢の世界に巻き込まれてしまって…というお話である。

 中年女性が日常で抱えている切実な悩みをジョーク満載で扱ったコメディで、笑えるところはいっぱいあるのだが、けっこう難しかった。まず、私の苦手な北アイルランドのアクセントが全編で使用されているので相当に台詞がわかりにくかった。また、ジョークがけっこうアイルランドのコンテクストに沿っているみたいで、そこも難しかった。1999年の芝居なのだが、序盤ではけっこうアレクサを使ったりしていて、台本は再演のたびにアップデートしているようである。

やはりどうも好きになれなかった…『グリース』

 ニコライ・フォスター演出の『グリース』UK&アイルランドツアー公演を見てきた。舞台の上のほうの奥の部分にずっとラジオ放送中のDJがいるとか、キラッキラのHIGH SCHOOLという看板があるとかいうような舞台美術にかかわるところなどはけっこう面白かったのだが、以前日本語版を見た時同様、どうもダニーが無責任すぎるのと展開がけっこう緩い感じなのが気になり、今回もあまり印象が変わらなくてそんなに好きになれなかった。違う言語で2回見てあんまり好きになれなかったということは私には向いていないミュージカルなんだろうと思うので、まあしょうがない。

『スター・ウォーズ エピソード1/ ファントム・メナス』25周年記念上映

 ダブリンのライトハウスシネマで『スター・ウォーズ エピソード1/ ファントム・メナス』の25周年記念上映を見てきた。もちろん何度も見たことがあるのだが、久しぶりに大画面で見るとポッドレースや最後のライトセーバーの殺陣が迫力あって楽しかった。あと、ユアン・マクレガーがめちゃくちゃ若くてハンサムである。

 最後に『アコライト』の予告がついているのだが、ダブリンの映画館はもうエンドロールで電気がついてしまうので、予告が始まってから映画館のスタッフが慌ててもう一度電気を消していた。なお、エンドロールでほとんどの人が退出してしまので、『アコライト』の予告を見ていたのは私ともうひとりの女性ファンだけだった…

老いたるフォルスタッフ~Player Kings

 ロバート・アイク演出Player Kingsを見てきた。シェイクスピアの『ヘンリー四世』二部作(+ほんのちょっとだけ『ヘンリー五世』の冒頭)を編集して3時間くらいにまとめたものである。けっこうカットしてスピーディな展開になっているが、それでもわりと大作感はある。なお、プレビューだったので若干こなれていないところがあった可能性がある。

 だいたい現代風の衣装を用いた演出なのだが、美術や衣装にはややレトロなところもある。最初のボアズヘッド亭はどこのゲイバーかと思うような大騒ぎである(その後はあまりゲイバーっぽくなくなっていくが…)。初っ端から半裸でぶっ倒れているハル(トヒーブ・ジモー)と、椅子で眠っているフォルスタッフ(イアン・マッケラン)の面白おかしいやりとりで笑わせてくれる。もともとこの作品は史劇とはいえコミカルな作品だが、全体的に笑えるところはかなり多く、しかもちょっとひねったダークユーモアが特徴的だ。いろいろなウソとこずるいごまかしの結果、フォルスタッフが戦傷を負った英雄ということになり、お酒の広告に出るあたりの場面はとても可笑しい。

 ハルは若くて非常に未熟な感じがするがとても元気な若者である一方、フォルスタッフはかつては意気揚々としていたのだろうがだんだん忍び寄る老いを気に病んでいる感じである。このフォルスタッフはたしかにユーモアのある人物だが、あまり陽気ではない…というか、どこか悲しそうだし疲れたフォルスタッフだ。ハルも元気いっぱいだが根っから陽性な若者というわけでもなく、2人の間には共通点があって、擬似父子的だ。ハルは自分が失った若さを与えてくれる存在だからフォルスタッフはハルを必要としているのでは…と思えるところがある。そう考えると『ヘンリー四世』二部作には入っていないフォルスタッフの死までがこの芝居に入っているのは納得できる。

 ただ、私はロバート・アイクの演出についてはあんまり好きではないと思うところがたまにあり、このプロダクションにも二箇所ほどあった。ひとつめは序盤の強盗のところで、この演出では襲撃された人がけっこう派手に血を流して死ぬ。この場面は非常に暴力的で、後で出てくるフォルスタッフの法螺とあんまり整合性がないと思うし(誰も殺していないのに殺したとか言うからあの場面は面白いのではと思う)、後で(殺人容疑ではなく)強盗容疑で捜査官が来るという展開ともあっていない気がする。ロバート・アイクはたまにこういう要らないショック演出みたいなのをすることがあり、そこがどうも好きになれない。もうひとつは、幕を半分くらい下げて展開する場面があるところで、これは私の座っている席からはほぼ舞台が見えなくなってつまらないだけだったし、また舞台が狭くなるだけで意味あるのかな…と思った。