Blog研究会

最後のセッションであるパネルディスカッションにパネラーとして参加してきた。「コミュニティサイト事業者から見たblog」というテーマで問題提起して、それなりに議論を促せたのではないかと思う。

  1. コミュニティサイトにとってメタデータを持つBlogは脅威か?
  2. コミュニティサイト自身がメタデータ生成を行うべきか?

というのが問題設定。

面白かったのは、2番目に関する議論。

メタデータ生成をコミュニティサイト自身がおこなって、ユーザーが投稿する記事単位でRSSを吐かせるとして、さらにRSSリーダーメーラーの標準機能になったら、コミュニティサイトのトップページをスルーして、いきなり深い階層にある記事を直接読み手は見に行くかもね。そうすると、トップページの広告は見られなくなるよね。記事単位のコンテンツの脇にAdWord広告を出せば良いかも知れないけれど、コミュニティサイト運営者に入る広告収入の全体額は減るかもね。というのが私の問題設定だ。

これに対しての会場からのコメントはこうだ。

もともとネットで情報は分散するわけで、人のアクセスも分散する。その分散したアクセスに対応する技術とビジネスモデルがAdWord広告である。したがって、情報流通に関する本質的な変化に対応していないのはトップページのページビューに連動する広告料金やそのビジネスモデルなのではないか。

このコメントは本当にその通りだと思う。

私のその場でのコメントはこんな感じ。

同意します。ただしいくらアクセスが分散するといっても集客力のあるサイトは残るでしょう。そういうところはトップページのページビューに連動する広告料金やそのビジネスモデルでもやっていけるでしょう。でも仮にそういうサイトが100や200残って、いわゆる面白いサイトがその運営コストをまかなえずになくなってしまうという状態は避けたい。そのような100や200のサイトに加えて、AdWord広告のモデルでサイト運営コストをまかなえるサイトが、その100倍の10000や20000あって欲しいと思います。

実はコミュニティサイトの運営コストについては現状の大勢を占めるASP方式ではなくて、P2P技術が大きく関わってくるし、また著作権制度というものも関わってくるのだが、それについては今日は書かない。そのかわり10000や20000の面白いサイトに関連して、テレビ広告ビジネスについて少し書く。

私は95年3月に広告代理店を辞めたが、その理由の一つはNetscapeを見て、「あー、テレビ広告のビジネスはやがてジリ貧だ」と直感したというものだ。ジリ貧になる時期は「アップルの1984から10年でこんな世界になったから2010年頃かな」と勝手に推測した。そして「その時は42才なので、転職もしづらいし、ネットの方が面白そうだから、早めに辞めよう」と思ったのだ。

で、その後9年たったのだが、テレビ広告の変化に感じていることはいくつかある。

広告代理店の売り上げは媒体単価×手数料率で決まるのが基本である。当時私はwebとテレビが完全に融合することで媒体枠の数が増え、媒体単価が下がることを想定した。さらに15%という手数料率が下がることを想定した。

しかし媒体単価はデフレの中下がっていない。これはテレビとWebが融合していないという要因が大きいが、価格は需要と供給の関係で決まるという経済学の基本原則によるところが大きい。テレビ広告の効果あるいは価値が9年前より薄れているのは明らかだが、依然としてテレビの局数は少ない。つまり製品名や社名を知らせるだけの機能ならそれなりにまだ効率的である。代替の選択肢がないので、テレビ広告の需要は依然としてあるわけだ。

現在テレビ広告を出稿している広告主というのは多分1000社を下回るだろう。このうち上位100社はかなり知名率の高いブランドや会社で、テレビへの出稿を減らしていくということがあるかもしれない。知名はほどほどでよくて、もっと深い情報を提供する媒体で顧客とコンタクトできれば良いと考えるからだ。でも、上位100社に減らされたテレビへの出稿は残りの900社が埋めてくれる。直感にしかすぎないが、ゴールデンタイムの広告にやたら作りのダサイ企業広告が増えているように思う。これはこのせいではないかと考えている。

一方の手数料率は外資系のものすごい量の枠を購入してくれる会社では3%とかになっていて大手広告代理店も泣いているが、これは媒体買い付け以外のプランニングの機能に対して外資系大企業はフィーを払っているという事情がある。日本の広告主は依然としてフィーを払うことなく、さまざまなプランニングサービスを含めて媒体費の15%という払い方をしている。こちらもさほど変化がない。

では全然変化がないかと言えば、そんなことはない。広告代理店が提供するさまざまプランニングサービスは高度化しており、コストが9年前よりもかかるようになっている。また媒体の数もネットや交通広告を中心に増えているので、1キャンペーンで利用する媒体数も増え、媒体社との取引コストは上昇している。社員の残業も増えている。したがって、一つのキャンペーンでの営業利益率はさがりつつあるはずだ。これは財務諸表を見たわけではない分析だが、上場企業である電通の株価が全然上がらないのはこんなところに理由があるのかも知れない。

でも、まあ思っていたほどの変化がないから、「2010年でもテレビ広告ビジネスはさほど変化がないかもね。電通の社員は本当に優秀だからなんとかしちゃうかもね」と思っていたのが2002年頃。けれども2003年にPVRがアメリカで普及してから「ひょっとしてテレビ広告そのものが一気に無価値化して本当に媒体単価が下がるかも」という気がし始めている。HDレコーダーを買った友人は、「テレビを見る時間は全体として増えたけど、逆にそれを限られた時間で見るために本編は5倍速で見てCMは必ずスキップ」と異口同音に語っているからだ。あとゴールデンタイムとかいう値付けの方法がまったく意味をなさなくなる。

結論としてあえて書くと、やはり2012年頃にはテレビ広告ビジネスってジリ貧になっているのではないだろうか。