『FLIP FLAP』に見るマイナジャンル漫画の「文法」
●とよ田みのる『FLIP FLAP』講談社
とよ田みのる『FLIP FLAP』は「ピンボール」というマイナなジャンル(ゲーム)を取り扱っていますが、この題材の料理の仕方が巧かったのでメモ代わりにまとめてみました。
(以下、直接的なネタバレはありませんが未読者の方向けに折りたたんでおきます)
物語の流れとしては、ざっくりと以下のようになります。
1.主人公、ゲームにチャレンジ。
↓
2.ルールの解説。(ゲームそのものの奥行きを説明)
↓
3.主人公、上達する。(ゲームの楽しさを説明)
↓
4.大会(ゲームを取り巻く世界の解説)
↓
5.エピローグ(ゲームを通じて人間関係に変化)
1.主人公、ゲームにチャレンジ
「とある理由」で深町くん(主人公)がそのゲームにチャレンジします。『FLIP FLAP』では山田さんへの恋心がモチベーションになっていますが、例えばアメフト漫画『アイシールド21』では主人公が強制的にアメフトをやらされましたし、囲碁漫画『ヒカルの碁』では藤原佐為の願いによりいやいやながら碁を始めます。
当然初心者なので主人公はぼろぼろに負けますが、キラリと光る「才能の片鱗」を見せるのがポイント。『FLIP FLAP』でも、主人公である深町くんは「動体視力」という「才能」により、伸び代を読者に印象付けます。
2.ルールの解説
導入部分が終わると、いよいよゲームの内容についての説明です。
主人公が初心者の場合、ゲームのルールに明るくない読者と目線を同じくすることができます。
『FLIP FLAP』の場合、「単なる球弾き」と思われがちな「ピンボール」に対し、「ハッジング*1」や「バン・バック」といったテクニック(技)や、「シングル・ハンド・ダブルス」という試合形式などを説明することで、そのゲームに対する「奥の深さ」を印象付けています。
また、ピンボールには様々な台があります。ダーツでいうならば「クリケット」「301」など様々なゲームがあるのと同じように、ピンボールも台のバリエーションでさらなるフィールドの広がりを持たせることが出来ますが、本作品ではその辺は端折られています。
3.主人公、上達する
ルールを理解し、主人公が上達していくフェーズです。
ピンボールは自身の成長が「スコア」として如実に反映されること、また「努力」が「成果」に反映されやすいことなど、「成長」と食い合わせの良いゲームだと思います。
この辺でライバル登場、主人公の挫折と再生などのイベントがあったりしますが、『FLIP FLAP』ではその部分も端折っています。(というより、「ライバル=目標とするハイスコア」となっています)
4.大会
上達した主人公が大会に挑みます。
ここでは、「ピンボール」というジャンルの競技人口やそのジャンルを取り巻く環境について筆が割かれています。実際、近所のピンボール大会からいきなりシカゴの世界大会に舞台が移り、「ピンボール」という競技の国際性や規模の大きさ、また言葉は通じなくてもピンボールを通じてわかりあう、という「世界の奥行き」を読者に印象付けています。
スポーツ漫画などでは大会が最終目的になりますが、『FLIP FLAP』では「山田さんとより仲良くなるため」というヨコシマな(笑)目的のため、それほど緊迫したものになっておらず、そこがまたユルい雰囲気をうまく出しているのだと思います。
5.エピローグ
主人公の成長に伴い、人間関係など主人公を取り巻く世界にも変化があります。
主人公がどのように成長したのか?山田さんとどうなったのか?
『FLIP FLAP』では深町くんの成長と山田さんとの距離の縮まり方が正比例で進んでいくということもあり、爽やかな読後感を残していると思います。
まとめ
『FLIP FLAP』はラブコメ部分はもちろんのこと、主人公の成長物語や、マイナなゲームそのものを描く物語として読んでも面白いです。それは、これまで述べてきたように「マイナジャンル」を取り扱う漫画の文法がきちんと踏まえられているからなのではないか、と思いました。
もちろん、上記の説明では記載しませんでしたが、「読むとピンボールがしたくなる」ような「熱さ」、これも物語に必要な要素だと思います。
わずか全1巻の漫画ですが、様々なことを考えさせられ、また楽しめた一冊でした。
では最後に、ピンボールの初心者に向けた格言を引用してこの記事を締めたいと思います。
【ご参考】プレイヤーへの助言(東京・ピンボール・オーガニゼーション ホームページ)
- 作者: とよ田みのる
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/06/23
- メディア: コミック
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*1:Shaking/Nudgingとも呼ばれていますが