まて慌てるな これは孔明の罠だ 泉昌之『食の軍師』

食の軍師 (ニチブンコミックス)

食の軍師 (ニチブンコミックス)

 作者の「泉昌之」は、「原作:久住昌之 作画:和泉晴紀」のコンビなのですが、原作の久住昌之は『孤独のグルメ』(作画:谷口ジロー)や『花のズボラ飯』(作画:水沢悦子)の原作として知っている方が多いと思います。
 本作『食の軍師』もまた、「ひとりめし」ものですが、「読むとおなかがすいてくる」前述の2作品とはやや毛色が異なります。
 主人公・本郷は、いつもトレンチコートに身を包み、さまざまな食べ物を「通っぽく」食べようと腐心するなんともトホホな男。
 「寿司は光物から入るのはキザ、かといってイカなど付け焼刃に思われる」とか、「トンカツはまず右から二つ目を塩とレモンで食す」とか、笑ってしまうぐらいのこだわりをみせます。
 そして、彼の行く先々で表れる「力石」という男の「通な」食べ方(といっても本人は自覚してませんが)に刺激され、いつも暴走し失敗してしまう・・・というマンガです。
 『孤独のグルメ』や『花のズボラ飯』と同じく、こだわりの「独り言」を楽しむ漫画なのですが、なにせ表現がオーバーで、しかも「一人相撲」の度が激しいです。
 食に限らず、誰しも「こだわり」は持っていると思いますが、『食の軍師』ではその「こだわり」を過剰に、そしてペーソスあふれる「笑い」に転化しています。
 なんとなくですが、「過剰な薀蓄によるトホホ」という意味で、中島徹玄人のひとりごと』を思い起こさせます。
 主人公・本郷は自身の食べ方を「戦国の戦い方」に見立て、自らを「軍師」諸葛孔明に模します。
 「蜀の軍師」=「食の軍師」・・・って、うまいこと言ったつもりかぁーっ!

 これがまた、横山三国志のコラを思い出させ、二重三重に笑ってしまいます。
 「ひとり飯」と「過剰な薀蓄」、「通っぽく見られたがる男のトホホさ」、そして「三国志」。
 これらがまるで一つの料理のようにうまく絡み合い、なんともいえない面白さを醸しだしています。
 思わず真似したくなり、頭の中で「ジャーンジャーンジャーン」と効果音を入れたくなる、そんな奇妙な味わいを持った一冊でした。
孤独のグルメ 【新装版】

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花のズボラ飯

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玄人のひとりごと 南倍南勝負録 ビッグコミックススペシャル

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