軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

裁判員制度スタート

 懸案の裁判員制度がスタートした。昨年、われわれの勉強会で当初からこの問題に携わってきた弁護士が、検討を重ねるごとに「おかしい」と気付き、時期尚早、制度反対、を唱えてきたが、見切り発車になった。
「刑事裁判に国民が参加し、被告の有罪・無罪、量刑までを決める」この制度は、「当初は経済界が、規制緩和や国際競争の激化に対応できるように」と云う主旨で開始されたと聞く。そこに民事訴訟の迅速化が要求されるようになり、日本弁護士会もこの制度の導入を検討し始めたというが、有識者による2年間の検討を経て今回スタートした『日本独自の裁判員制度』になったらしい。これにかかわってきた本人が『制度反対』を唱えていたのだから、法律の素人であるわれわれは戸惑ったものである。

 
 航空自衛隊は、昭和46年7月30日に起きた『雫石事故』で、追突された『被害者』であったにもかかわらず、ズサンな『事故調査』と素人裁判で『加害者』にされた苦い経験を持つ。
 最近、手元にある各種資料、特に『裁判記録』を元に、この経緯を改めて再分析したのだが、空中勤務経験のない裁判官の驚くべき無知には正直憤慨した。
 勿論、その根底となる事故調査報告書があやふやだったのだから、裁判官だけを責めることはできないが、今、改めてこの裁判を振り返ってみると実にこっけいな問答が繰り広げられていたことがよくわかる。
 しかも事故発生が昭和46年7月30日、最高裁による極めてまれといわれる刑事裁判の『自判』が、昭和58年9月22日で、実に12年間もかかっているのだが、同時進行していた『民事裁判』は、平成元年5月9日の東京高裁判決でなぜか打ち切られたが、これも優に18年かかっている。この間、公務員である裁判官が何人「異動」したか知らないが、そのたびに審理は“振り出しに戻る”様な有様であった。

 そのたびに審理内容が“薄くなる”とまでは言わないが、世間の関心が薄れるのは当然であろう。単純にそんな弊害を改めるための今回の改革か?と思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。


 昨日の産経新聞は「手探りの船出」「受け入れ態勢まだ・・・」「盛り上がりいまいち」と書き、今日の産経は「参加したくない」という者が45・8%もいて、「国民の意欲はまだ低い」と報じた。

 鳩山法相は「肩の力を抜いて、自然体で、安心して参加していただくよう希望します」と呼びかけたが、裁判審理で『肩の力を抜く』とは具体的にどういうことかわからないが、「走りながら考える」様な裁判制度はいかがなものか?

 20日の産経抄子は、この制度が生まれた背景は「世間知らずとは言わないまでも、司法一筋の裁判官だけでは時として、国民の感覚とはズレた判決が下される。そんな今の裁判制度への批判や不満からだった筈だ」と書いたが、雫石事件で苦杯を舐めた空自操縦者の一人として、私もそう思っていた。 ならば、裁判官に「世間並みの常識を与える改革」の方が優先されるべきであって、裁判の素人が参画するのは本末転倒ではないのか?
 しかも呼び出しに際して辞退すると、場合によっては「罰則が適用される」というからただ事ではない。

 裁判官がいくらお手当てをもらっているか知らないが、裁判員にもそれ相応のお手当てが戴けるのだろうか?などと思ってしまう。まさか「アルバイト」か「非正規雇用者並み」の時給いくらのお手当てではあるまい。それとも、裁判官のお手当ての方を、この制度適用とともに「減額」するのだろうか?
 何よりも「プロ」である筈の裁判官が、素人に手伝ってもらうことの不名誉を感じないのだろうか?

 空自のパイロットの練度が低いから問題だ、といって素人がF−15の操縦者に「臨時採用」されるようなものに思えて、私には耐え難い。
 加えて刑事事件の裁判には、例えば惨殺された被害者の「あられもない遺体」をはじめ、身体の一部や内部等、見るに耐えない状況証拠が展示されるはずで、航空事故調査で取り扱う遺体の無残さ同様、素人にはとても正視できるものではない。気の弱い裁判員に生じた「精神的二次被害」などにはどう手当てする気だろうか?

 そんな高度な「専門知識」を必要とする刑事裁判に一般国民が参加する制度よりも、野山を駆け巡る「健康的な」自衛隊の演習に参加する制度のほうが望ましい!防衛大臣も、青少年育成の一助として、自衛隊「臨時参加制度」を考えて見たらどうだろう?


 ところで、前回の新型インフルエンザに関するブログに「マスクに憲法」と書いて防護せよ!と言うコメントがあったので大笑い、確かに戦後日本人の「平和志向」からすると、「憲法さえ守っていればすべて安心」なのだから、いいアイデアかも・・・

 その憲法に関して、民間憲法臨調からブックレットが届いたのでご紹介しておきたい。その最初のQ1に、「戦後日本の平和が守られてきたのは、憲法9条のおかげではないのですか?」と云うのがある。
「どんな疫病でも、マスクに『憲法9条』と書いておけば、伝染しないのではないですか?」という質問が出そうだから、製薬会社でそんなマスクを売り出したら儲かるかも・・・
憲法9条・Q&A(明成社=¥524+税)」は、わかりやすいので是非ご一読を。

秘録 東京裁判 (中公文庫BIBLIO20世紀)

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世界がさばく東京裁判

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裁判官の爆笑お言葉集 (幻冬舎新書)

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裁判官が日本を滅ぼす

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