学校事情(9): Ph.D. Qualifying Examination, 適正試験について

Qualifying Exam (Quals) について. Ph.D.を取得する上での最初の登竜門および最難関の課題(だと思う). 受験回数は例外は一切なく生涯2回までなので, その後の人生にかなりのインパクトがあるのは間違いないでしょう.


試験の概要

QualsはPh.D. candidate(=候補生)になる, 格上げされるために必ず受験しなくてはならない試験、口頭試験です. 入学すること自体は先回紹介したようにさほど難しくありません. 少なくとも超ウルトラクイズの大学入試に比べれば. が, Ph.D.へ行く場合はこのQualsが実質入学試験のような位置づけになるといっても過言ではありません.

Qualsで問われるのは制御工学・航空力学・構造力学の3つの分野の基本事項を十分に理解して, 未知の問題にそれらを応用できるかどうかです. よくアドバイスとして有名なのが, "We are not interested in what you know, but what you think." つまり知識の量・暗記したことを正しく再現できるかでなくて, 理解した基本事項を組み合わせてどう思考をするかが聞かれます.

さらに押し並べて, 未知の問題に遭遇したときに適切な問題解決方法を導き出すことができるかどうか, ということですね. 実際には問題を解く上で, いろいろと重要な公式を覚えていたりすると役に立ちますが, あくまでも思考能力が重要視されます.

以下はAero/AstroのQualsについての説明:

Examinations are given in the three fields of Dynamics & Controls, Fluids, and Structures. Every student is examined in all three fields; s/he selects one field for a Major Field Exam, and takes Minor Field Exams in the other two fields.

The Major field examination will be a test of knowledge and understanding on topics selected by the committee, based on the student's chosen area, of 55 minutes duration, with 15 minutes devoted to pertinent mathematics. It will be conducted by a committee of four examiners. The advisor (either academic or research) will serve as major exam chairman. Committee members should be from Aero/Astro faculty participating in the exams, from the field closest to the student’s specialty. If the student has done significant research in this area with another faculty member, s/he may petition to have him/her on the major exam committee.

There will be two examinations in each Minor field. Each Minor examiner will conduct a separate 15-minute oral exam. Questions are usually from materials in Master's year basic courses (Engr105 & AA242A; AA200A & 210A; AA240A,B) or their equivalent at other universities, but may cover FUNDAMENTALS from earlier (undergraduate) courses as well. Examinations are not intended to evaluate course work, but focus on general understanding and aptitude. Minor examiners are to be chosen from the A/A faculty participating in the exams, in each field.


試験の方法

試験は先述した3科目のうち1つをMajorの科目, 残りをMinorの科目とします.Majorは4問(=4人の試験官と対面), Minorはそれぞれ2問, 合計で8問の問題を解くことになります. たとえば制御をMajor, 流体と構造をMinorにするとか.

試験そのものは各試験官,教授のオフィスへ行ってホワイトボードの前に立って, それに式や図をかきながら行われます. 簡単な講義をしているといってもいいかもしれません. 時間は15分で, きっちり計られます. 頭で分かっていてもいざ口でしゃべるとなると, 意外と, 上手く分かり易く説明するのってけっこう難しいですね. とくに自分の場合, そういう訓練が遅れていたので..

各教授のオフィスへ行って試験を行うのはMinorの場合で, Majorの試験は会議室などに4人の教授を集めて代わる代わる60分間試験をします.Minorの場合試験の評価は試験を出した本人だけが行いますが, Majorの場合は4人全員の評価を総合して行われます. だから試験問題を出した本人はOKを出す一方で, 別の教授はNOというケースもありました. それぞれ満足度の基準が違うんですね.

同じ問題でも, 最終的な答えがきっちり数字で出ないとOKと言わなかったり, 逆に, 大まかな解決へのアプローチを説明できたらPASSとする人もいたりで, 全員を満足させるように, 抜かりがないように答えなければなりません.

Qualsは2日間にわたってスケジュールが組まれ, 2日目の夜には全ての結果がでます.


判定

合格判定は試験最終日の夕方に密室で行われます. 8問の試験の出来具合だけで判断が下ります. また,合格の人数制限はありませんので, できたか・できないかで決まるFair Gameです.

Following the Qualifying Examination, the results will be discussed by the department faculty in a closed meeting. In addition to performance on the examination, the student's research potential and academic performance are considered. FINAL DECISIONS WILL BE RELAYED TO THE STUDENT BY THE ADVISOR. The actual decision on the qualification of each student for the Ph.D. program is based on the student's:

(1) Ability to assimilate knowledge.
(2) Aptitude for independent thought.
(3) Fundamental understanding of the basic principles.


結果はその日の夜7時〜8時ころに, アドバイザーから直接電話連絡が入ります. 試験が終わってからこの電話を受けるまでがすごく憂鬱・不安な時間です.


Qualsに落ちる

準備不足などで初回受験者の30-50%くらいは落ちてしまいます.そういう場合は2回目を受ける権利が与えられます.

Stanfordへ入学してくる学生は皆, Qualsに受かる能力は十二分に備えています.それでも落ちてしまうのは怠けてしまうか, 戦略・準備が整っていないのが原因です.私も1回目は完全に怠けていました.2回目のときは, 1回めの2倍の時間を費して, 5倍の量を勉強したと記憶しています. そうすると全ての問題にたいして自信をもってゆったりとattackできましたねぇ.


2回落ちる

2回落ちてしまうと, 残念ながら, Ph.D.を取ることをあきらめなくてはなりません. 例外は認められませんし, 条件付き合格というのもありませんので学位なしで退学することになります.または別のDegreeに切替えるとか.他の選択肢としては, 別の学校のPh.D.プログラムへapplyするという手もあります.



例題

最後に, ではどんな問題が出るのかというのを紹介します.

問題の例

左はフリスビー問題.どこにでもあるフリスビーを普通に投げるのと, 裏返して投げるのでは軌道が異なる(スライスとフック軌道).それは何故か?(流体の問題)

右は剛体の力学問題.z軸方向にΩ[rad/sec]で回転している球がある.ここにx軸方向にT[N・m]のトルク(モーメント)をかけると, 球の回転運動がどう変化するか解説せよ.こちらの問題は(も?), 式(運動方程式)を使わないで解けます.(出した本人は定量的に解くことを期待している) これはウォーミングアップ.