『ふたりはプリキュア』論

新シリーズ、スマイルプリキュアがもう6話まで放送されました。
放送を見ていて、最初のプリキュアについて思うことがあったので
今さらですが少し考えてみました。一応見たことがあるの前提で書いてます。

ふたりはプリキュアという物語は二つの別の世界(物語)が重なり合う構造になっているように思う。
そしてそれによって生まれるものがテーマでもあると思う。

まず、美墨なぎさ雪城ほのかが単なるクラスメートとして日常を送っている、平穏な中学生の日常という世界。
それとは全く別に、ミップルとメップルの所属する光の勢力「光の園」と、敵対する闇の勢力「ドツクゾーン」の抗争という非日常的な世界が並列して存在している。

そしてその別々の物語はなぎさとほのか、それぞれに「光の園」の使者が接触してきた事を切っ掛けに交りあう。
魔法も妖精も居ないごく普通の常識を持った現実的な日常世
そこに光と闇の抗争が関る事で
ふたりの平凡な日常は終りを迎え、普通の中学生の生活の影で戦いに明け暮れる事になる。



端的に言えば
ふたりの普通の生活に
「光」と「闇」の世界が侵入してきた事で物語ははじまる。



しかし、実際はもう少し複雑な構造が存在している。
「日常の世界」の登場人物のなぎさとほのか。
それが「光と闇の戦いの世界」に身を投じる事により、2つの物語はふたりを通した点で一時的に交わる。
しかし戦いが終わればふたりは「日常の世界」に帰ってくるのだ。
ふたりは日常を大切にし、あくまで中学生ライフを満喫しようとする。戦いが世界の中心にはならない。たとえ世界の危機が迫っていても。それがプリキュアの特異な点だと思う。
「別の世界の敵」は日常に入り込んできたやっかいな珍入者であり、日常を破壊する異物としてそれを追い返すために戦い、その異物を追い出すと直ちに日常は回復する。
日常の合間に戦いがあり、その時にだけ非日常世界の住人となるが、終わればすぐ元の日常世界に帰ってきて何時までもそれを引きずらない。


構造として
光の園」からやってきたぬいぐるみのような外見の妖精を家族に秘密にして居候させたり
誰にも知られること無く、光の力で変身し闇の使徒と戦うというような別世界の住人の直接的な干渉は
日常に侵入しているようで、実はそこから隔離された裏側にだけ存在している。(闇の住人が出てくるとプリキュア以外の人間は意識を失う事や、妖精の事をひた隠しにする事によってそれは保たれている)


だが、影響はそれだけではない。
非日常の戦いを日常の裏側に背負うというダイナミックな事の影響で、日常の側も少なからず影響を受け「歪み」が生まれる。
日常の裏側に非日常を背負うという事のインパクトで見えにくくなっているが、むしろこの要素の方が物語全体に深みを与えており、心に訴えかける力の源泉でもあると思う。


あまりに対照的でそれ故殆ど喋ったこともない、顔を知っている程度のクラスメート。
そのふたりが「光の園」の使者に別個に見出され、力を合わせ闇の勢力と戦い続ける。
そして「光と闇の戦いの世界」で構築されそこにだけ存在したふたりの関係が
「日常の世界」に戻ってきても何らかの形で残る。
これこそが「光と闇の戦いの世界」と関わった事で今にも壊れそうだった日常を守ろうとした結果生まれた「歪み」である。
お互い趣味も世界観も全く違う、普通に暮らしていたらまず友達にならないふたりが、一緒に立ち向かわざるを得ない状況になり
その中で生まれた関わり合いが日常の世界に帰ってきても残っている。
非日常と関わった故生まれた歪み。


「日常の世界」そのままでは生れ得なかった、極めて不自然な仲間のような関係性が
「光と闇の戦いの世界」に身を投じた時に生れ
「日常の世界」帰ってもそれがそのまましこりのように残り、その扱いに戸惑う。
「日常の世界」への侵略者は撃退した。だがその過程で生まれた「日常の世界」歪みをどうするのか?


「光と闇の戦いの世界」という非日常に巻き込まれ、日常を守るためにそこに身を投じ、日常を破壊から守った。
しかしふたりが一時的に非日常に身を投じることによって「歪み」として生まれた友情のようなもの。
それを本来交わらないであろうふたりの不自然な友情に焦点を絞り、その事を物語を通して問うていく。
これが『ふたりはプリキュア』のある種の普遍的なテーマのようなものだと思う。