2015年6月17日 小串典子氏 (終了)

日時: 2015年6月17日(水)16:30〜18:30 
場所: 首都大学東京 8号館307号室 
講師: 小串典子氏(お茶の水女子大学
題目: 混合脂質二重膜における脂質分子の垂直拡散運動

要旨: 生体膜は脂質分子が作る脂質二重膜を基本構造に持つが、その特徴の一つは生体膜の柔軟さにある。二重膜を構成するだけであれば1種類の脂質分子で十分であるが、実際には脂質分子の極性頭部や骨格、アシル鎖の違いにより1000種類近くの異なる脂質分子が生体膜中には分布しており、なおかつ細胞の状態や機能に応じて再分布を繰り返していることが知られている。脂質二重膜の安定性は構成する脂質分子の分布により決まる力学的安定性により支配されており、脂質分子の再分布による局所的な構造変化はさらに大規模な膜の構造変化も引き起こす。特にこうした二重膜の構造変化を伴うような脂質分子の再分布では、膜面上における側方拡散に加えて二重膜の上下方向での脂質の垂直拡散運動(flip-flop運動)が重要である。実験的には、flip-flop運動は側方拡散に比べて典型的には非常に遅い運動であることが知られているが、近年コレステロールなどの一部の分子は非常に早いflip-flop運動を行うことがわかってきている。そこで我々は、ceramideとdiacylglycerolの2種類の脂質分子のflip-flop運動について粗視化モデルを用いて研究を行った。その結果、この2つの脂質分子はコレステロールよりは遅いものの、一般的なリン脂質に比べて非常に早いflip-flop運動を行うことがわかった。また、シミュレーション結果から、コレステロールを含めたこれら3種類の脂質分子のflip-flop運動はPoisson過程として記述することができることも明らかになった。本セミナーでは、これらの結果について述べた後、時間があればflip-flopと関係して膜の変形についても触れる予定である。