「ミモザ 体験版(2008年冬版)」「ミモザ クラインの章」(in the air)

・「Mimosa | in the air
(サークル公式サイト内 作品紹介ページ)
http://air.sub.jp/mimosa.html

 ミモザはin the airの第1作として2004年に発表された同人ゲームです。2004年に発表された前編ミモザ クラインの章」ですが、その後第2作の「櫻ひとひら」がスタートしたたため、ミモザの後編製作が継続されることはなく『未完の処女作』状態だった。
 ところがそんな状況の昨年(2008)の冬コミで、吉里吉里に移植された新装版ミモザ 体験版(2008年冬版)」が発表され驚きました。前編の全4章のうち1章部分だけとはいえ、どうも1、2週間程度という期間中で製作されたそうですし、毎度イオリさんがこなしている鬼神のごとき仕事ぶりには瞠目せざるを得ない。

 思えばこの作品に初めて行ったコミティアで目を留めたことが、in the airというサークルとの出会いでした。当時リトルウィッチというゲームメーカーが、この『漫画風のフキダシとコマが、擬似アニメのように動くデジタルコミック』というスタイルのゲームを発売しており、昔Macのデジタルコンテンツなどで慣れ親しんでいた私はそのゲームスタイルの変遷に興味がありました。
 『同人ゲームでこんなことしてるなんて、スゴイじゃん!』と感激した私は、当時完成直後だった第2作「櫻ひとひら」と一緒にミモザ旧版を買っていった。そして続けて遊んでみた結果……むしろ「櫻ひとひら」の方の高い完成度に打ちのめされた!(笑)色々微妙な体験ですが、『絵を目的として買ったゲームより、同じ作者のイラスト無しのゲームの方が面白かった!』という体験によって、同人ゲームサークル「in the airシナリオライター守屋イオリの名前が私の記憶に刻み込まれました。

 「ミモザ クラインの章」(2004年)は決して悪い作品というわけではなく、内容は全体を通じて私も楽しんだ非常に面白い物語です。しかし、総容量200Mという巨大なフラッシュムービーコンテンツは、当時の私の貧弱なノートPCには重すぎました。正味40〜50分程のアニメを観るのに2時間以上かかるのは辛い……作者の側でもその他色々の問題点を考慮したのか、今回2008年ミモザの新体験版は、一般的なノベルゲーム製作ツール「吉里吉里」で組まれています。これによってプログラムもかなり快適な動作になりましたし、演出面など様々な部分で細やかな調整も行われています。

 ゲーム冒頭のシーン、上が2004年の旧版から、下が2008年の新装版からのものです。
 旧版はシーン中のフキダシが次々と画面に残ったまま表示されていき、一区切りしたらクリックで次のシーンに移る『動くマンガ』という印象。これに対し新装版は、会話のフキダシを始めメッセージの類は入れ替わりに常時一つづつ表示されます。これによって物語中の台詞の一時性と連続性が強まり(バックログ画面で再読確認も可能)、より『アニメ等の映像作品を観ている』感覚が強調されました。
 また旧版はメニュー操作での物語の進行ペースをコントロールしづらかった部分があり、一瞬気がそれるとシーンの移り替わりや前後関係を忘れて追えなくなることもしばしば。しかし新装版では適時主人公の心中思惟が語られるモノローグが追加されたため、話の流れを自然かつ円滑に読み進められるようになりました。他にもイラストカット画像のリマスターで画質強化(このブログの写真画像ではかなり画質を落とさざるをえず、申し訳ないです)、細部での画面・演出構成の調整など、目の届きにくい隠れた部分での更新も行われており、単なる移植というより『新生』した作品だとさえ言える出来です。

 物語は中世末期風のファンタジー世界。ラッセン王国では『黄死病』と呼ばれる伝染病が蔓延しており、国難に瀕していました。いかなる治療も薬も効果のない死病。妹を病魔に侵され、若き医師クライン・マジェスタは治療法を求め王都を発ちました……侍医である父の反対を聞きいれずの出奔、苦しむ人々を、妹を救うために。
 しかし彼は踏み込んだウェルシェの森で迷い、倒れていたところを少女ミモザに助けられました。森のすそにあるミモザの住む「名前もない村」、そこは余所者を受け入れない排他的なコミュニティ。滞在もそこそこに村の長の許しを得たクラインは、ミモザと彼女に仕える若い女ヨミに同行されて、森への探索行へと向かいます。

(余談:『名前のない村』って聞くと、私は往年の名作英TVドラマ「プリズナーNo.6」を思い出して嬉しくなっちゃいますね。『番号なんかで呼ぶな!私は自由な人間だ!!』)

 疫病を治療する方法を探していたクラインは、ある古い医学書の記述をもとにこの森に来たのです。ウェルシェの森にあるという、万病を癒し長寿を与える薬草の伝説・逸話。不老長寿の薬の存在、そのようなものは医師として信じがたい……しかし未知の薬草の実在にその伝承が端を発するなら、わずかでも優れた薬効がある可能性には調べる価値がある。
 そのようなものはない、聞いたこともない迷信とミモザは言います。しかし彼女は村の住人たちすら不慣れな森の深層への案内をクラインに対し買って出ました。真意を少し測りかねつつも、クラインとヨミはミモザの案内で森の奥深くへ進みます。夜闇の刻に人をさらうという、『ウェルシェの魔』の住まう森へと。

(新装版の内容である1章のあらすじはここまでですが、旧版の2〜4章ではこの先まで続きます。今後に後編部分も合わせて製作されることを期待して、今回はもうちょっと紹介してみますね)

 その頃、ラッセン王国の都でもまた動きがありました。
『ウェルシェの森には不死の獣が住まう。その獣を討ち取り肉を食した勇者、その者もまた不死の力を得たという』
 王国に伝わる古い伝説でした。王は対外遠征から帰還したばかりの将軍ブラフォードに、ウェルシェの森の探索を命じます。『常勝の星の下にある』と周囲に謳われる名将ブラフォードは当初その意義に半信半疑でした。しかし、王の手元にはその内容を裏付ける証拠の一端があったのです。それを目の当たりにして、民のためならばと彼も出征を受諾します。

 森を共に進み話しあうなかで、村の人々、ヨミ、ミモザの言葉を聞きながらクラインは思案を重ねます。彼らの背後に見え隠れするもの、それは外界とラッセン王国の人々に対する深い憎悪でした。何が彼らをそう駆り立てるのか、過去に一体何があったのか……

 一方、ウェルシェの森に踏み込んだブラフォード将軍も、予期せぬ妨害を受け状況を熟考します。行方不明となった斥候たち。精鋭を選抜した部隊を連れてきたはずが、手錬の兵が森で命を落とした可能性がある。しかし相手が魔物であろうと何であろうと、周到な策を用意してきたブラフォード将軍には任務への自信があります。そして、胸に秘めた思惑も……

 果たして、クラインたちは薬草に辿りつけるのか。ラッセンの伝説の真偽は。ミモザと村の人々の過去と未来、そしてブラフォード軍の運命。ウェルシェの魔とは一体……謎の手がかりを垣間見せつつ、物語は後編へと続きます。

 というか、続いてくれます……よね?!ファンとしては新作だって負けず劣らず十分楽しみですから、製作のタイミングは何時であっても構わないので、「完結させる気はモチロンあるよ!」というポーズさえあればオッケーですし。製作ブログを拝見している限りでは、イラスト・画像素材からストーリーまでもう大体揃っているっぽいので、今回の新体験版をやる気のメッセージと受け取って、私は何年でも待てますからね!