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星エリナのほろよいハイボール(連載46)
いじめじゃない
星エリナ
死にたいなんて思っちゃダメ。偽善とかじゃなくほんとに、そんなこと思ったらダメだと私は思ってる。つまりは全部投げ出したいってことでしょう? そんな生からの責任逃れなんて絶対許さないですよ、私は。
私が中学生のときはリストカットがある種ブームだった。授業中にボールペンを手首に刺す子とかいたし、夏でも長袖を着ている子は大体手首に傷を持っていた。なんでも相談室が職員室の近くにあって、保健室登校ならぬ相談室登校が何人もいた。もともとの理由はいじめだった。もちろん良いことではないのだけれど、私の学年はいじめが多かった。給食を毎日ぶちまけて不登校にさせたり、「お前が教室にいると臭い」とか言ったり、とにかくクラス全員でターゲットをいじめるやり方が流行っていた。一人不登校になったら、今度は次のターゲットを探す。探す、というのは粗探しだった。ちょっとでも誰かが誰かに不快感を感じたら、その子が次のターゲット。気持ち悪い団結力だった。
何かを隠したり陰口を言ったりすることは少なかった。頭が悪かっただけかもしれないけれど、直接面と向かって行動をする。殴り合いも少なくない、あんまりよろしくない学校だったのかも。
私はいじめられなかった。いじめも特にしなかった、と思う。嫌なことは直接言う。それをいじめだとは思っていなかったからだ。
隣のクラスに少しふくよかな女の子がいた。彼女は私が構ってくれることが嬉しかったらしく、いつも私の私物を奪って逃げる。
「やめてよー」
と棒読みで言いながら追いかける。追いかけられることが嬉しくてまた逃げる。悪循環。それでも構うのは、実は先生にあの子のことよろしくね、と言われていたから。ちょっとグレている転校生のことも、よろしくね、と言われていたりした。でもその日は少しエスカレートして、彼女は私の荷物を持ったまま隣のクラスへ入ってしまった。小学校や中学校では、自分のクラス以外には入っちゃいけないっていうルールがあったよね。それにより私は入れない。でも授業が始まってしまう。
「もういいよ」
そう言って私は自分のクラスへ戻った。すると彼女は慌てて自分のクラスから出てきた。たぶん、謝ろうとしていたんだと思う。でも運悪く、バスケ部で背の高い男の子に衝突してしまった。
「いってーな。走んなよブタ!」
それだけ言って教室へ入る男の子。泣き出す女の子。授業を受けたい私。結局、荷物だけ奪い返して悪いけど放置した。そのうち彼女と同じクラスの女の子が彼女を相談室へ連れて行った。
それをいじめだと私は思わなかった。かなり口が悪いのでそこは良くないけれど、それくらいで泣かないでほしい。そんなことで自殺しようとか思わないでほしい。生きてるんだから、逃げ出さないでよ。そうしたらきっと、強くなれるんじゃないの?
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