先日、装丁が気に入って購入してしまったが、誰が装丁したのか分らない、という話を書きましたが、その装丁とよく似た画風の絵ハガキを見付けました。サインも見ようによっては似ているように思いましたが、どうだろうか。


絵:高橋春佳、「年賀状/幾何学模様」(山口青旭堂、昭和初期頃?)



高橋春佳のサインの拡大。



装丁者不明、斎藤薫雄、梯一郎『児童陸上競技の指導と実際』(厚生閣、昭和4年)



『児童陸上競技の指導と実際』の背にあるサイン


よく比べて見るとどことなく違うようですね。高橋春佳のサインも、「は」は、何とか読めるが、どうしてこのようなサインになるのかは、よく理解できていない。『児童陸上競技の指導と実際』の背にあるサインを無理に読もうとすれば「はるか」と読めなくもない。「か」は「可」の略だから「ろ」に似た文字になるので、近いといえる。「る」はそのまま読める。問題は「は」の左の縦棒がないことだが、一番上の文字が「春」だとすれば一発で解決するのだが、ちょっと強引かな。でも、この装丁のように幾何学模様を使う装丁家は数少ない。誰でもがこのようなデザインができるという代物ではない。


「春」を崩して書くとこんなふうになる。

幡恒春のサイン。「キング」第3巻2号
この感じだと、高橋春佳のサインは「春」を図案化したのカモ知れない。


「春」の線でもう少し探って、高田忠周纂『行草字彙』(朗月堂明治13年)に掲載されている「春」をみてみよう。



高田忠周纂『行草字彙』(朗月堂明治13年
これを見ると、どうやら平仮名のサインではなく、漢字一字の可能性が強い。矢張り高橋春佳なのだろうか。


高橋春佳のサインにある円形の輪郭線を消して見たら、どうなるだろうか。『児童陸上競技の指導と実際』にあるサインと似てきたように思えるのですが。



輪郭線を消した高橋春佳のサイン。これは「春」の行書体を図案化したのに間違いない。


そして「か」を平仮名にして「春か」とすると下記のようになった。


どうですか、かなり高橋春佳のサインと『児童陸上競技の指導と実際』にあるサインが似てきたのではないでしょうか。これは高橋春佳のデザインしたものと判断します。


高橋春佳のサインをもう一つ見つけた。これはタテ組なので、かなり『児童陸上競技の指導と実際』のサインに近くなってきたが、「か」が漢字になっている。この「佳」は「う」に似たような行書体にはならないように思うのだが。



絵葉書にあった高橋春佳のサイン

高橋春佳とおぼしきサインをもう一つ見つけた。三瓶一次『生活より祈りへ』(厚生閣書店、昭和3年)がそのサインが載っていた本。



高橋春佳:装丁? 三瓶一次『生活より祈りへ』(厚生閣書店、昭和3年



サインの拡大


残念なのは、この本にも装丁家名は記されていない。その上、イニシャルが似ているので不安にさせるような装丁家の名前が、巻末広告に記載されている。その名前は「松下春雄」。


調べてみると、松下 春雄(まつした はるお、1903年3月2日-1933年12月31日)。1923年 関東大震災をきっかけに名古屋へ帰り、大正〜昭和初期に美術グループ「サンサシオン」で鬼頭鍋三郎らとともに活躍した洋画家。1933(昭和8)年,30歳の時に白血病で死去。絵を見たかぎりでは、アール・デコ風のデザインをやるような画家とは思えないが、時期的には可能性があり、全く関係ないとも言えない。