雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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米澤穂信の話|青春ミステリの条件と古典部シリーズ

 青春ミステリの条件とは何か? それは探偵の敗北にあるのではないかと思います。
 以下、探偵の敗北について考えつつ、青春ミステリの旗手・米澤穂信の最新刊『遠まわりする雛を見てみたいと思います。

遠まわりする雛

遠まわりする雛

2種類の青春小説

 まずは青春小説に関してから始めましょう。
 秋山が思うに、世には大きく分けて2種類の青春小説があります。甘いだけのものと、ほろ苦さを含むものです。
 個人的な主観ではありますが、青春小説でしばしば描かれる思春期という年代は、非常に気持ちの悪いもののように思います。11歳から17歳ぐらいまでの間、ひとは声変わりや第二次性徴によって肉体的に大きく成長します。変質、もしくは変容と言ってもいいかもしれません。この時期に肉体は、子どものものから、大人のものになります。しかし、精神も同じように成長するとは限りません。肉体的には大人でも、精神的には子どもという、アンバランスなひとはくさるほどいます。そういったひとが思春期の葛藤を経て大人になり、バランスを取り戻すことになります。
 さて、このアンバランスですが、これを取り扱うか否かによって、青春小説は大きく変わってくるような気がします。ざっくり言ってしまうと、取り扱っていないのが甘いだけのもの、取り扱っているのが甘いだけでなくほろ苦さを含むものになります。もしくは成功したか失敗したかで判断することも出来るかもしれません。平易な例を示すと、恋愛が成就すれば甘い、失恋したらほろ苦い、みたいな感じです。
 秋山個人の好みから言うと、甘いだけの青春小説よりほろ苦さを含むものの方が好きですね。成長性があるからです。ひとは失敗のなかから学ぶ生き物だと思っているので、挫折し、苦悩しないと大人になれないのです。まあ、でも、甘いだけの青春小説にも面白い作品はありますと断ってはおきます。

青春ミステリにおける挫折は「探偵の敗北」

 一般的な青春小説における挫折は、友情や恋愛に関わってくるものが多いですが、青春ミステリにおいては、現実や論理が対象となることが多いですね。理想を追い求めて犯人を追求した探偵が、しかし現実という壁を前に負けてしまったり*1、関係者の感情を推し量ったり可能性を考慮して推理した探偵が、論理に阻まれていともかんたんに敗れてしまったり。真相に到達したものの、それが社会のなにかを象徴するもので、探偵がショックを受けるというのも含まれるかもしれませんね。
 ここでかんたんに「探偵の敗北」について説明しておきます。と言っても言葉通りの意味です。犯人が用意したトリックに、探偵がまんまと引っかかってしまい、誤った解決をしてしまうものを「探偵の敗北」と言います。特に、作中において探偵が事件を解決し、その後、読者にだけ真相が明かされた場合などは「探偵の敗北」物として扱われることが多いですね。ところで、秋山はこの言葉を後期クイーン問題に関連する用語だと思っていたのですが、先ほどグーグル先生に聞いてみたら必ずしもそうとは限らないことを知りました。とは言え、元々は後期クイーン問題を説明する際に使われた用語かもしれないので、ここでは括弧に入れておきます。

米澤穂信の著作

古典部シリーズ(氷菓愚者のエンドロールクドリャフカの順番遠まわりする雛
・小市民シリーズ(春期限定いちごタルト事件夏期限定トロピカルパフェ事件
・『さよなら妖精
・『犬はどこだ』
・『ボトルネック
・『インシテミル

 現状において入手できる米澤穂信の著作は、上記の通りです。このなかで『インシテミル』は青春ミステリには含まれず、異色作なので置いておくとして、他の2シリーズと3作は、いずれも優れた青春ミステリです*2
……あ、ここからひとによってはネタバレです*3。気をつけて書きますけれど、ご注意ください。

*1:たとえば探偵が子どもで、犯人が大人の場合だったり。

*2:『犬はどこだ』はボーダーですけれど。

*3:つまり予備知識ゼロの状態で読みたいひとにとってはネタバレですということ。

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そんなことより『DOORS』読もうぜ!

 発売直後に買えばよかったと深く後悔。だって、これ、すごい面白いんですよ。自宅に突如、生まれたドアをくぐり、異世界の異常を修繕することで、狂ってしまったせかいを元通りにするという『DOORS』著者は神坂一。何と言うか『食卓にビールを』と同じ雰囲気のSF。以下、感想抜粋。全文はこちら

 やべえ、ちょう面白かった! 実は神坂一はかなり好きな作家のひとりで、その破天荒な語り口と、意外に奥深いSF設定が特に好きなのだが、本書においては神坂一の魅力が完全に、完全に発揮されていたように思う。

 以下、この本を読んだ他のひとの感想。

 いやあ、笑った笑った。なんていうか、くだらないって言葉がぴったりのお話ですね。ほめ言葉ですよ?

http://www.booklines.net/archives/4044146187.php

 面白すぎる。

http://d.hatena.ne.jp/asyminor/20070907

 触手とか、もののふキャノンとか、小ネタのセンスがいちいちおかしい。これはいいです、いいものです。

http://d.hatena.ne.jp/funa-1g/20070921#1190384883

 各話の間に挿入されるおまけである余白劇場も楽しめました。投げっぱなしの設定やらキャラもツボ。

http://d.hatena.ne.jp/umikawauso/20070927/p2

半径3メートルの世界へようこそ

 本田透を読むのは『ファントム』に掲載された「Innocent World」以来だけれど、やはりちょっと肌に合いませんでした……と言うわけで『イマジン秘蹟です。ただ、自室から一歩も外に出ない真性の引きこもりである、主人公の姉の尾津玲於奈が可愛らしく、彼女が出てくるシーンは良かったです。以下、感想抜粋。全文はこちら

 いわゆる「きみぼく」系の小説を、今まで読んだことがないひとなら、本書はかなり面白いかもしれない。読み手を選ぶだろう。

 以下、この本を読んだ他のひとの感想。

 私が一番面白く感じたのは終盤での、光紗先輩のこれまでの行動の反動とか、ちょっとした鬱展開*2とかだったりします。特に光紗先輩が、これまたもう、照れ隠しに暴言吐くタイプですよ。暴言デレ? みたいな。多分そんな感じ。

http://d.hatena.ne.jp/asyminor/20071003

啓文堂書店おすすめ文庫大賞

 近くの啓文堂に行ったら面白いイベントをやっていました。

開催店舗: 啓文堂書店 全店
期間: 10月1日(月)〜10月31日(水)

啓文堂書店では文庫担当者が協議して決めた1冊を、当社のために重版していただくなど出版社の協力を得て、お客様におすすめして参りました。
今回のフェアでは、お客様からの人気投票を実施し、最も人気のあった作品を、12月から「啓文堂書店おすすめ文庫大賞」として全店で大々的に展開いたします。
店頭に選りすぐりの候補作が並ぶこの機会に、新たなお気に入りの1冊を見つけてみませんか?

http://www.keibundo.co.jp/01.htm

 最終候補作は以下の通り。

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あなた、自分が狂っていないとでも思っていますか?

「狂い」の構造 (扶桑社新書)

「狂い」の構造 (扶桑社新書)

 すごいものを読んでしまいました。精神科医春日武彦と、エログロホラー作家の平山夢明による対談をまとめた『「狂い」の構造〜人はいかにして狂っていくのか?〜』なんですけれど、いわゆる目から鱗系の本です。もう、社会の見え方ががらりと変わった感じです。空気が読めないってひとからよく言われるひとは、今すぐ読んで悔い改めたほうがいいですよ。以下、感想抜粋。全文はこちら

 本書において狂うことの条件は、社会性や道徳性が低いことだ。しかもその閾値がかなり低い。たとえば電車のなかで座っていて目の前に老人がやってきても席を譲らない、ただこれだけで「狂っている」とされてしまうほどだ。