変話 - これまでにあった変な話

昔は、この日記には色々なことを毎日のように書いていたが、最近は仕事のこと等をあまりこういう所に書くことはできないので、面白い日記を書く回数が減ってきてしまっている。


ところで、ここ 1、2 年の間に色々と面白いものを見たり、変なことをやったり、貴重な情報を知ったりしているのだが、そういう変なことを覚えておくために、試しに一覧として列挙してみたら、何百個かになってしまった。
つまり、平均してここ 1、2 年は 1 日に 1 回くらい変なことを見たり行ったりしているということになる。


そこで、今後、時間があるときに、この日記にそういう「これまでにあった変な話」を記述してまとめて行こうと思う。


変話「某公証人役場の公証人」

公証人とは

公証人 (こうしょうにん) とは、ある事実の存在、もしくは契約等の法律行為の適法性等について、公権力を根拠に証明・認証する者のことである。日本においては公証人法に基づき、法務大臣が任命する公務員で、全国各地の公証役場公正証書の作成、定款や私署証書(私文書)の認証、事実実験、確定日付の付与などを行う。 (詳細は http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AC%E8%A8%BC%E4%BA%BA)


さて、株式会社などの法人を設立し登記する際には、「定款」と呼ばれる会社の最重要規則をまとめて、これを公証人に欠陥が無いかどうか見てもらうという手続きが必要である。これを「定款の認証」という。定款が公証人によって認証されていないと、法務局によって登記を拒絶されてしまうので、会社を起業する際には、必ず公証人の世話になることになる。
具体的には、定款を 3 部印刷して、「公証人役場」にいる公証人のところへ持って行き、公証人がその内容を 極めて慎重に 確認し、法律的に問題が無ければ「公証」という特殊な (偽造が困難な) ハンコを押して、認証文を付与して認証する、ということになっている。


今日は、これまでに見た最も面白い (かつ適当な) 公証人について紹介する。


某公証人役場で見たもの

私が 某社を設立 したときは、自分で Microsoft Word を使って定款を作成し、それを他の発起人と共に、某公証人役場へ持っていった (茨城県を管轄する公証人役場は、いくつか存在する)。


公証人のところへ実際に行くときまでは、「公証人」というのは通常は退職した裁判官がやっている職業なので、きっと大変厳格で真面目で間違いが無いような人だろうなあと思っていた。


しかし、実際に定款を認証してもらうためにその「某公証人役場」へ行った結果、「公証人」は必ずしも 大変厳格で真面目で間違いが無いような人 ではないということが判明した。


まず、公証人役場へ着くと、執務室には コーヒーか紅茶のような強い臭い が漂っており、明らかに公証人役場ではなく、どこかのうさんくさい事務所のようであった。しかも、そこには へんな事務のおばさん が 1 人しかいない。この年配のおばさんは、どうやら公証人の妻のようである。このおばさんに、定款の認証をしてもらいたい旨を伝えると、そのへんなおばさんが別の休憩室のようなところへ入っていって、しばらくすると公証人と思われる年配の へんなおじさん「あ゛〜」 と言いながら面倒くさそうに出てきた。本当にこれで大丈夫なのかな? と思った。


公証人と思われるへんなおじさんが「あ゛〜」などと言いながら、適当に、事前に Microsoft Word で作成して持っていった定款の内容を見ていく。
そして、ある記載事項について、「ここに書いてあることは不正確な表現なので、このままではいけない可能性がある。」 などと言ってきた。そして、「君たちは、土浦市で起業するのかな?」 と言うので (定款の冒頭には、本店所在地は「本店は、茨城県つくば市に置く。」と書いてあるのだが)、「いいえ、つくば市で起業します。」と答えたところ、「ああ、それなら構わん。土浦の法務局は厳しいが、つくばのは甘いからな。」などと言って、それで定款の内容は問題無しということになった。


「では、中身は同じはずだから、確認しなくてもよろしい。」

ところで、公証人に定款を認証してもらう場合、定款を予め 3 枚作成しておき、そのうち 1 枚を会社保存用、1 枚を法務局提出用、1 枚を公証人保管用 とすることになっている。これによって、たとえば定款を誰かが後で改竄したかも知れないとか、定款が火事や盗難で無くなったとかいう場合に、公証人が保管している定款を確認することができるので、大変安心である。


だがこの仕組みは、当然、公証人が 3 枚の定款用紙をチェックして、それぞれの内容が正確に同一かどうかを確認した後、認証をしなければ、全然意味が無い。予め重要な部分の内容をこっそり書き換え、その他の部分はそっくりにした 3 枚の定款であった場合は、後で大変なことになるかも知れないためである。


ところが、公証人は、「ああ、これは 3 通とも手書きではなく、コンピュータで印刷したものであるな。」と言ってきた。「はい。」と答えると、「なるほど、では、中身は同じはずだから、確認しなくてもよろしい。」などと言って、3 通ある定款の表紙だけ見て、中身が同一かどうかは全然確認せずに、「公証」という印を全部に押してしまった。


「これは! というものは、あるかね?」

そして、突然嬉しそうに、
「この 3 通の中で、"これは!"というものは、あるかね?」と聞いてきた。


しかも、「これは!」のところだけ、やけに大声で、気合が入っており、明らかに変であった。


ここで我々は、「これは!」とはどういう意味なのかよく分からなくて、さてはこの公証人は頭がおかしいのかな などと考えて、「これは! というものとはどういう意味ですか」と聞いたところ、「これは! というのが無いならばよろしい。」という答えであった。


どうやら、昔はワープロ等が無く、会社の定款は手書きで作成するということが多かったが、当然 3 枚を手書きで作成することになるので、一番きれいに清書することができたほうを会社保存原本とし、汚いほうを法務局提出用とする (笑) ということにこだわる人がいたので、その一番きれいに書けた物を依頼人が「これは!」と指定した場合、それに「会社保存原本」というスタンプを押すということをやっていたようである。


しかしよく考えると、3 通の定款を持って行き、それを 1 通だけ中身を確認して、残り 2 通は表紙を見ただけで、中身が同じだと仮定して、全部に認証印を押し、しかもその後に依頼人に「これは! というものは、あるかね?」と言って、会社保存原本にすることを希望するものを選択させるというのは、すなわち 3 通の中身を少しずつ書き換えた定款を持っていった依頼人が、ばれずに、かつ都合の良いように会社保存原本を選択することができるということなので、セキュリティ的にあまりよろしくないのではないかなと思った。


2 年後

私が某社を起業したちょうど 2 年後に、筑波大学 情報学類の別の AC 学生がベンチャー企業を起業した。彼も、自分で定款を作成して、上に書いたのと同じ公証人役場 へ定款の認証をしてもらいに持って行ったそうである。


ところが、あくまでも又聞きした話なので不正確かも知れないが、そのとき公証人は留守だった らしい。そして、公証人役場には へんな事務のおばさん が一人だけで留守番していて、その持ち込んだ定款に 「いいよいいよ」 みたいな感じでどんどんハンコを押していって、なんと公証人不在にもかかわらず、定款が立派に (?) 認証されてしまったそうである。


そのへんな事務のおばさんが実は公証人の資格を持っているという可能性も皆無ではないが、前見たときはそんな風な感じではなかったので、たぶんただのお手伝いの事務の人なのではないかと思うが、この話を聞いて、公証人はこのおばさんに、留守の間に定款の認証依頼がきたときは適当に対応して公証印を押して良いというように伝えているのかなと思った。


こういうように、某公証人役場 はとても個性的 (?) な公証人がいらっしゃるようなので、ぜひ筑波大学ベンチャーを起業される場合は、この公証人役場に定款の認証を依頼するのが良いのではないかと思う (どの公証人役場かということを知りたい場合は、大学でこっそり聞いてください)。


「これは!」

以後、この話を聞いた一部の人達 (大学内) の間では、挨拶代わり等に、突然、大声で "これは!" と叫ぶのが流行っている。