保護申請を撮影して逮捕はあり得ない

12月23日、緊急の呼びかけにもかかわらず、80名もの人々が集会場となった新宿の大久保地域センターを訪れた。
集会では、関西非正規等労働組合の橋口委員長から事件の経緯が報告されるとともに、いまなお拘置されているA君からのアピールが読み上げられたあと、「自立生活センターもやい」、「山谷労働者福祉会館活動委員会」など生活保護申請と密接な活動を続ける仲間と、「MOVieUnion」、「MediaChampon」などメディアアクティビストの仲間からの問題提起を受け、以下の声明を修正のうえ採択した。

声明

生活保護を申請した人がその申請をきっかけに、福祉事務所の職員から刑事告訴され、逮捕・拘留のうえ、ついには起訴されるという事件が発生しました。生活保護は、すべての人の権利として、どんなに困窮しても最低限度の生活を守るための一つの制度ですから、逮捕や刑事告訴を背景にその受給を妨げたり、申請を困難にするようなことは決して許されることではありません。わたしたちはこのようなひどい事件を起した、関係行政各位に強く抗議し、また、この問題をひろく社会に訴えるために、ここに声明を発表します。

大阪府在住のA君は、今年8月に生活保護を申請して受理され、その後審査も通り、生活保護を受給していました。ところが、申請の際にA君がビデオカメラを携行し自身の申請の様子を撮影しながら申請を行ったことが「職務強要罪」にあたるとして、福祉事務所担当職員から刑事告訴され、大阪府警により逮捕されてしまいました。職務強要罪とは、公務員に対して、「ある処分をさせる目的」、「ある処分をさせない目的」や「公務員の職を辞させる目的」のいずれかをもって、暴行または脅迫を加えるというものです。生活保護申請にビデオカメラを回して記録したというA君の行為に、暴行や脅迫の犯罪性があるとはどのようにしても思えません。生活保護申請を受理するのは、福祉事務所の職務であり、受理するのが適法なことですから、脅迫して受理させることなどありえないからです。
「福祉事務所の水際作戦」という言葉があります。生活保護受給者を少しでも減らすことが行政にとっての美徳だと考えているのか、生活保護申請者に申請用紙をわたさない、違法な理由をつけて追い返すなど、福祉事務所が全く正当な理由も法的根拠も無く生活保護申請の拒否を繰り返している現状をさした言葉です。
日弁連によると、本来なら生活保護制度を利用できる経済状態にある人々に対しての実際の捕捉率はわずか9〜19・7%であるといいます。他方で、「生活保護の同行申請」という言葉があります。これは、違法な「水際作戦」を繰り返す窓口に対して、申請者が一人で行って誰も見ていないのをよいことに、不当に追い返されたり、違法な拒否行為をされてきた経緯から、そのような事件の発生を未然に防ぐために、申請者に友人・ボランティアなどが付き添って生活保護申請を行うことをいいます。逆に言えば、このように「同行申請」が習慣化するまでに、「水際作戦」が横行し、生活保護申請者の生活は軽んじられ、脅かされてきたということです。
A君が生活保護の申請にビデオカメラを携行したのは、このような状況の中においてでした。自身の申請に違法な措置が加えられることがないよう犯罪防止のため記録を行ったにすぎず、記録した映像が公開されたこともありません。カメラを手にしたからといって申請者を逮捕し身体を何十日も拘束し起訴までするというのは、明らかに非常識であり、被害者本人の生活を破壊するのはもちろんのこと、生活の危機に瀕した人が生活保護を申請することを今後とも恐怖により抑圧し、「水際作戦」を助長する横暴でしかありません。
また、福祉事務所はプライベートな空間ではなく公共のための場所ですから、撮影されるのをやましがるなどもってのほかであり、やましいことがないのであればそこでの手続きはもっとオープンにされるべきです。生活保護申請を撮影したA君は、咎められるどころか、申請手続きに不安をいだく多くの人にとって助けとなる有意義な活動をしたのであり、むしろこのような活動はその社会性を認めさらに広範に行っていくべきです。
しかるに、現在A君は、このような社会的活動をなぜか敵視する行政関係者らによって拘禁され、無実の罪に陥れられようとしています。
わたしたちは、このような不正を絶対に許すことはできません。関係行政各位に強く抗議し、A君への告訴取り下げと即時無罪釈放を求めるとともに、この事件を問題化する広範な社会的運動および議論を呼びかけます。


12月23日「生活保護申請を記録して逮捕って何だよ?!」
   -生存権を求めたA君は無罪だ- 集会参加者一同