三鷹の天文台のような建築など

遠い星の輝きは、何万年の時を経て初めて私たちの目に届くといわれます。想像を絶する時間の旅は、それだけで十分に私たちの心を打つのもですが、人間の星のへの探究心は、ある特殊な建築をこの世に生み出しました。今回は番外編として、先日訪問しました三鷹市の「国立天文台」についての報告をさせて頂きたいと思います。

まず国立天文台とは、すばる望遠鏡など第一級の観測装置を備え、宇宙の謎を解き明かすことを目的に設立された研究機関で、現在国内外に6箇所の施設を備え、その本部が置かれているのが今回訪れた三鷹の施設となっています。国立天文台の前身「東京天文台」は、明治初期には本郷、その後は麻布にあったのですが、周囲が市街化してしまったため、大正3〜13年にかけて、暗闇を求めて三鷹へと移転してきそうです。

現在、敷地内には移転時から昭和初期にかけての施設が幾つか残され、展示施設として一般に開放されています。空を眺める望遠鏡の一部である彼らは、建築というよりは、建築のような機械といったところでしょうか。その形態は多様で、彼らの「眺め方」の違いは、建築的な違いとして表現され、どこか愛嬌のある表情を見せてくれます。そんなちょっとステキな天文台たちを、幾つか紹介して行きたいと思います。



これは1921年建設の、第一赤道儀室と呼ばれる天文台です。典型的な円筒型ですが、周囲にバルコニーを廻らせているのが特徴的です。


これは1926年建設の大赤道儀室。先の第一赤道儀室と同じく円筒型ですが、規模が大きくRC造となっています。

この二つの円筒型、注目なのは開閉する天井部分。ドームが木で造られています。造船技師の力を借りて建造されたそうです。


次に1930年建設の太陽塔望遠鏡(写真左)。これはスクラッチタイル貼りの塔に、帽子をかぶせたようなスタイル。ドーム部分を取り除けば、昭和初期の商業ビルのようにも見えますが、実はこの塔自体が望遠鏡の筒の役割を果たしています。
写真右はレプソルド子午儀室と言い、一見すると普通の住宅のようにも見えますが、実は屋根が真ん中で二つに割れる、正真正銘の天文台です。棟方向に組まれるトラスが特徴的です。


最後は、1924年建造のゴーチェ子午環。半円型で、奇抜な形態と上げ下げ窓が対比的。屋根が横にスライドすることで開閉を行います。

以上、多様な表情を見せてくれる三鷹天文台たちを見てきました。天文台という一つのビルディングタイプの中だけで、これだけ多様に展開する表現の違いに、心を動かされます。半世紀以上にかけて空だけを眺めてきた彼らは、今ではその役目を終え、現在は宇宙の神秘を伝える展示施設として第二の人生を歩んでいます。屋根を閉じ、空を眺めることを辞めた彼らは、今ではとても建築的で、内部に抱え込む濃密な時間が、空間に深みを与えています。そこには、確かにデザインでは造り出せない空間の重みみたいなものが存在していると、そんな印象を与えてくれるのです。

興味を持たれた方は、ぜひ実際に訪れて見られるのが良いでしょう。90年の時間を経た今だからこそ、三鷹天文台は光り輝いています。