日曜日の小探検・・・瑞巌寺

 「探検」というほどの続きがあるわけではない。期待は禁物・・・。
 さて、葉山神社の裏参道を西に行くと、やがて舗装された車道に出る。東、つまり瑞巌寺の方に墓地が広がっているので、その墓地の中を下りて、再び踏みきりではない踏切で線路を渡り、瑞巌寺に戻った。せっかくの機会なので、瑞巌寺を見ていくことにする。歴史大好きの娘は拝観したことがないと言うし、私も、おそらく学生時代に京都から集中講義に来た大先生(柳田聖山氏)を研究室一同でご案内して以来、35年くらい入ったことがない。
 うかつにも私は知らなかったのだが、瑞巌寺は平成20年から大修理の最中で、工事はまだ続いている。本堂だけ、今年4月5日から公開を再開したのだそうだ。
 瑞巌寺といえば、東日本大震災で参道の杉並木が被害を受け、木を切り倒さざるを得なくなった、というニュースばかりが印象に残っている。解体大修理の最中で、重い瓦を全て取り外した時に大震災が起こったから本堂は倒壊を免れたのだろうとは、知らない話だった。
 さすがは国宝。素晴らしいと思った。建物の作りそのものもだが、何と言っても素晴らしいのは本堂の襖絵である。これは復元というよりは模作なのであるが、本物の金箔が貼られた上に、鮮やかに絵が描いてある。本物の金の輝きというのは、どんなに光り輝いていても、派手だとか軽薄だとかいった感じがしない。本当に上品で存在感のある輝きである。
 庫裏もよい。昨年末、京都嵐山で見た天竜寺の庫裏と同じ構造である。大屋根の上に「煙出し」と呼ばれる小さな櫓が載っている。その向かいは近代的な作りの宝物館。古い襖絵や出土瓦、書状、掛け軸といったものは、素人である私には何が何だかよく分からなかったが、娘と二人、ぴたりと足を止めたのは出口の脇にあったテレビである。平成の大修理の様子を追ったドキュメンタリー番組が放映されていたのだ。
 瓦葺きと耐震補強工事の話がほとんどで、残念ながら襖絵の復元については取り上げていなかったけれど、結局、50分の番組を最後まで見通してしまったのだから、よほど面白かったのだろう。思えば、昨年末の京都・奈良旅行で、私は2冊の図録を買ったが、それは唐招提寺元興寺の解体修理に関するものであった。平等院の博物館でも、解体大修理のドキュメンタリーに見入ってしまって、腰を上げることが出来なかった。寺院建築の外形よりも、建物の価値や構造をよりはっきりと見せてくれる解体大修理は、イベントとしてとても面白いし、勉強になる。テレビで瓦修理についてのあれこれを知った私たちは、宝物館を出ると再び本堂に行き、屋根の部分部分の瓦の色の違いを確かめ、鬼瓦を観察しては改めて納得し、感動にふけった。
 入る時には、瑞巌寺ごときで拝観料700円は高いな、などとぶつぶつ言っていたのに、門を出る時にはそんな不満は微塵も心の中になく、やっぱりさすがは国宝だ、などと感心していたのだった。
 おにぎりを買って(←観光地の食堂は、一般にコスト・パフォーマンス悪いからね)駅に戻ったのは12時半。たった3時間の、正に「小探検」もしくは「小旅行」であったが、ガイドブックの写真を確かめに行くような企画旅行とは違う、発見の興奮と喜びがあった。旅行の価値は時間でも距離でもない。(完)