Hatena::ブログ(Diary)

スピラだからさ

2016-12-10

DM 小包を届けに

「これをネオパールという人に届けてきてください」

憧れの人にそう言われて受け取ったものは小包だった。持ってみると意外と軽く、入っているものはおそらく布の生地だろうと推測できる。少年のような見た目の少女、ネリア・ガネットはかねてから憧れ、慕っていたドールマスターであるルチル・ラドライト直々の“おつかい”に気分が高揚した。というのも、これを完璧にこなせばまたドールマスターへの道が一歩近づく、そのように彼女は捉えていたのだ。
「行ってまいります!」
ネリアは元気良く挨拶をし、彼女が住み込みで働く工房「メレーホープ」の扉を勢い良く開けた。

小包につけられた地図を見ながらネリアは意気揚々と歩いていた。以前おつかいを頼まれた際、持ち前の方向音痴が合間って迷子になったことがあったが今回は違う。
「前はあのヤンキーが間違った地図を渡してきたから迷っただけです!今回は…ふふふルチル様から直接もらったものですから迷うはずがありません!!」
ふんふんと鼻歌交じりで道を行く。しかし、ネリアは少しずつ目的地の方向から外れていっていることにまだ気づかなかった。

「あれれ?おかしいです…」
地図を見る限りそろそろ目的地に着いてもおかしくない頃合いだ。ネリアは地図をぐるぐる回しながら首をひねった。
「もしかして…また迷った…?」
サーッと血の気が引くのが自分でもわかった。今までるんるんだった心が急に不安でいっぱいになる。
「と、とりあえず道を聞いてみましょう!」
ぺちんと両手で顔を叩き、街道を歩く人に声をかけた。
「すみませーん、この場所に行きたいのですが…」
声をかけられた通行人は優しく彼女に道順を教えてくれた。今回も良い人に助けてもらえたとネリアは安堵した。

「ここでいいんですよね…?」
道中、通行人に道を尋ねながらネリアはなんとか目的地にたどり着いた。そこはやや古めの木造の工房で、自身が身を置いているメレーホープより少し大きい。看板には「ジェムストーン」と固い文字で書かれている。
扉につけられたベルを押そうかどうか迷いながら、ネリアは指を上げたり下げたりしていた。
「うちの工房に何か用かな?」
突然の背後からの声にネリアは肩をびくりと震わせた。恐る恐るそちらを向くと、そこには身長が190cmはあろうかという大男が立っていた。いつの間に近づいたのだろう。気配なく近づいてきた大男にネリアは目をキョロキョロさせた。
「あ、あの…そのう…」
目を泳がせまくるネリアに大男は苦笑し、目線を合わせるように中腰の姿勢になった。
「これでいいかな?」
もっともネリアの背が低いのか、大男が高すぎるのか、それでも大男の方が目線は上になっていたが。
ネリアはその時ようやく大男の顔を見ることができた。茶色の髪を全部まとめて高めの位置で団子のようにくくっている。下がった眉と同じように垂れた緑色の目はとても優しげだ。宝石のような瞳がとても綺麗で、ネリアは自然と大男と目を合わせていた。
「あの、今日はこちらのペリドット・ネオパールさんという方にお届け物を持ってきました!ネオパールさんはいらっしゃいますでしょうか?」
「ん、ああ…」
ペリドットという宝石の名を持つ方、一体どんな素敵な女性なのだろうとネリアは胸を膨らませながら相手の答えを待った。
「えっと、それ僕だ」
「…え??」
予想外の答えにネリアは思いっきり目を丸くした。大男、ペリドットはあはは、と笑った。
「よく言われるんだよ。宝石の名前だから女の人だと思ったって。いやー、しょっぱいねえ」
そう言いながらペリドットはネリアが手にしていた小包を指差した。
「それ、貰ってもいいかな?」
指差された方に顔を向け、ネリアは慌てて小包をペリドットに差し出した。
「しっ失礼しました!」
「いいよいいよ」
小包の内容が書かれたメモを眺め、うんうんとペリドットは頷いた。
「たしかに受け取りました。君、ルチルさんのお弟子さんかな?」
「はい!そうです!」
押しかけですけど、とネリアは心の中で付け足した。
「いいなあ。僕もルチルさんのところで学んでみたかったなあ。ねえ、どんなこと学んでるの?」
「えっと…今はお掃除したり、おつかいしたり…」
再びネリアの目が泳ぐ。声も今にも消え入りそうだ。
「でもメイカーだよね?」
「はい!」
「ならうちにあがっていきなよ。君にお礼したいし」
「い、いえそんな!悪いですよ!」
慌ててネリアは手をばたばたと振るが、ペリドットはいいからと扉を開けて促した。
「君がメイカーにしろ普通の子にしろお礼はするつもりだったし。ほらおいで」
「し、失礼します!」
ここまで言わせてしまったのなら甘んじてお礼を受け取るしかないと、ネリアはドキドキしながら工房「ジェムストーン」へと足を踏み入れた。

扉を開けるとすぐにネリアは驚いた。自身が働く工房はたくさんのファンシードールが並べられ、綺麗に飾られている。しかしペリドットの工房はあまりにも殺風景だった。ドールは並べられているが、数がずいぶん少ない。そして、ドールの横に何か書かれた紙が置かれている。何が書かれているのだろうとネリアが寄ってみると、どうやらそれは名前のようだ。
「そのドールを作った人の名前だよ」
「作った人の名前、ですか?」
この工房はペリドットの工房ではないということなのだろうかと首を傾げていると、ペリドットはカウンターの奥からちょいちょいと手招きした。
「こっちに来ればわかるよ」
ネリアも早足でカウンターの奥にある通路へと向かった。通路を抜けた先には作業場が広がっていた。個人で使うにはかなり広い作業場で、そこには複数のメイカーやマスターがドール作りに勤しんでいた。どうやらマスターが作っているドールも種類がバラバラで、ぱっと見るだけでもマシン、ファンシー、オルディの3種類のドールが作られているのがわかる。
「これは…」
ネリアが口をぽかんと開けていると、ペリドットがくくっと笑った。
「君はうちの工房、ジェムストーンの意味を知ってるかな?」
「えっとジェムストーン…原石…ですか?」
「そう、正解だ。賢いね」
いえいえと口では謙遜するがネリアはにやけ顔を隠しきれない。
「うちは若手のドールマスターが共同で使っている工房なんだ。自分の工房を持つのが金銭的に難しい若いマスター達のために作られたらしい。ここの管理人はあの…奥にいる人ね」
ペリドットが指差す方を見るとそこにはメイカーを指導する中年男性がいた。
「あの人に弟子入りしてるメイカーもいるから、マスターだけしかいないってわけじゃないけどね」
「では、あの入口のドール達はここのマスターさん達が作ったということですね?」
「その通り。あそこに置かれたドールは僕達の名刺なんだ。普段はあそこでドールの販売はしていなくてね。街で開かれるマーケットにスペースを借りて販売をすることが多いんだ。そこで目をつけてもらったらうちの工房に来てもらう。それで受注生産って流れが1番多いかな。あとはここのことを元から知ってる人なんかは直接ここに来て、入口で気になったドールを作ったマスターとお話をすることもあるね」
「そんな形の工房もあるんですねぇ」
「まあ特殊なところだとは思うよ。けっこう出入りも激しいし。…ここにいるマスターは皆、原石なんだ。ここで自分の原石を磨き上げて最高の宝石を作ろうとしている、なんて言ったら大げさかな?」
ペリドットは恥ずかし気に苦笑した。それにネリアは強く言い放った。
「いいえ!とても素敵だと思います!」
「そうかな?ありがとう。あ、こっちについて来てくれるかな?」
工房の説明を終えると、ペリドットは再び歩き始めた。ネリアはじっと作業場を見つめた。
「僕もいつかは…」
そうぽつりと呟き、ペリドットの後についていった。

ペリドットについていった先は寮のようなところだった。その1番奥の部屋にペリドットはネリアを案内した。ペリドットは大きな手でコンコンと木製の扉をノックする。
「ただいま。帰ったよ」
そう言うと扉がゆっくりと開かれた。現れたのは少女の姿をしたドールだった。
「おかえりなさい」
真っ白なショートボブが印象的なドールは透き通った声で言った。しかしその声には感情の色がない。
(マシンドールさんでしょうか?)
ネリアは心の中でそう思いながら、自身の工房にいるマシンドールのことを頭に浮かべた。彼、露草伊吹はマシンドールでありながらファンシードールのような気遣いができる特殊なドールだ。彼はネリアの良き話し相手であり、ネリアはよく彼に癒しを貰っている。
そんなことを考えているとぴょこんと少女ドールの後ろから幼い少女が顔を出した。長い桃色の髪をお団子状に結い、余った髪を三つ編みにしている。長い耳が特徴的で、恐らくファンシードールだろうと推測できる。小さな女性型ドールであるフロイラインにしては身体が大きいなとネリアが考えていると幼い少女ドールが声をあげた。
「お客様ですね!?どうぞこちらへ!」
元気の良い大きな声で招かれ、ネリアはゆっくりと部屋に入った。
「わあ…」
その部屋はまるで少女の部屋だった。ピンクや白を基準とした可愛らしい家具やオルディドールが飾られている。しかし置いてあるベッドの大きさから見るにペリドットの部屋であることは間違いなく、ネリアは何と言えばいいのかわからなくなっていた。
「えっと…ネオパールさんは可愛らしいものが…お好きなのですか?」
「あ、僕のことはドットでいいよ。皆そう呼んでるから。うんまあ好きかな。僕、ファンシードールのマスターだし」
「あちらのドールさんはやっぱりネ…ドットさんが作られたドールさんなのですか?」
「そうだよ。どっちも僕が作ったファンシードールだ。ちょっとサイズは大きいけどね」
ペリドットは目を細めてソファやローテーブルをセッティングする2人のドールを見つめた。
「君、えっと…名前は?」
「あっ!失礼しました!僕、ネリア・ガネットと申します!」
そういえば名を名乗っていなかったということに気づき、ネリアは背筋をピンと伸ばしてペリドットの方を向いた。
「ネリアちゃんね。ネリアちゃんはハーブティー飲める?」
「はい!大丈夫です!」
元気の良い答えにペリドットは微笑んだ。
「じゃあそこのソファに座って2人と話でもしておいて。準備するから」
「あ、はい。お、お構いなく…」
ネリアはソファの方に視線を向けた。ソファは1人掛けと数人で座れるものがある。1人掛けのソファはやたらとサイズが大きい。きっとペリドットのソファなのだろう、とネリアはロングソファの方に腰掛けた。すると、幼い少女ドールがいそいそとソファによじ登ってきた。少し尻の方を押して登りやすくしてあげると「ありがとうございます」ときっちりお礼の言葉を述べた。
「お客様のお名前はネリア様というのですか?」
「うん、そうですよ!」
ネリアのその言葉に幼い少女ドールは顔をぱあっと輝かせた。
「すごいのです!ネリネと名前がそっくりなのです!あっ!ネリネネリネと申しますのです!」
目をキラキラさせたと思ったら深々とお辞儀をしだし、ネリアはそのくるくる変わる表情に思わず笑ってしまった。
「あとですね…あちらのメリィもちょっとだけネリア様とお名前が似てるのです!メリィはアルメリアというのです!でも長いから皆メリィと呼んでいるのです」
ネリアがソファの側に立つ少女ドール、アルメリアに目をやると彼女は目を伏せてお辞儀をした。
「えっと、メリィさんもこちらにどうぞ」
ネリアがぽんぽんとソファを軽く叩いて座るように促すと、アルメリアは相変わらずの無表情のまま
「失礼します」
と一礼して行儀よくソファに腰掛けた。
「メリィはちょーっと不完全で無表情なところがあるのですが、心の中では笑ったりしているので気にせず話しかけてあげてくださいね!」
ちらりとネリアがアルメリアを見ると、ふいとアルメリアが顔を背けた。
「あ、今照れました」
ネリネは彼女の心の中がわかるのか、そんな風に解説した。
「ちなみにネリネもすこーし不完全なのです!ネリネはしゃべりすぎだと言われましたのです」
「え…」
思わずペリドットの方を見ると、キッチンのコンロの方を向いたままペリドットは察したようにネリアの疑問に答えた。
「メリィは僕が初めて作ったドールでね、うまく心核で心を吹き込むことができなかったんだ」
心核は文字通りドールのコアであり、ファンシードールやマシンドールを動かすために不可欠なものである。マスターは心核を使ってドール達に心を吹き込む。そして街でよく見かけるドール達になるのだ。
「完全に僕の技術不足だったよ。それでメリィはうまく感情を顔に出せないんだ」
「そうなのですか…」
ネリネもですよ!ネリネもすこーし不完全なのですよ!」
すかさずネリネが先ほどと同じことを言った。
「そうだね、ネリネも不完全だ」
ペリドットがそう返すと、ネリネは誇らしげにむふーっと鼻息を荒くする動作をした。
ネリネとメリィは2人合わせると完全になるのです!」
ねっとネリネアルメリアの方を向くとアルメリアは小さく頷いた。その顔はネリアには少し柔和になったように見えた。
「仲良しさんなんですね」
「はい!最強コンビなのです!」
ネリアの言葉にネリネは力強く頷いた。
「はい、できたよ。ネリアちゃんはお砂糖いるかな?」
ペリドットがトレイにカップと砂糖の入った瓶を乗せながら、ネリアに尋ねた。
「はい、お願いします」
「おっけー、はいどうぞ」
ペリドットはゆっくりとトレイを運び、カタリと小さく音を立てながらそれをローテーブルの上に置いた。ハーブ香りが鼻腔をくすぐる。
ローズマリーだよ。集中力を高める効果があるんだって」
「それはいいですね!僕のちょっとおっちょこちょいなところが治るかも!」
ネリアがガッツポーズをとりながら嬉しそうにしていると、ペリドットはたまらず吹き出した。
「あはは、ネリアちゃんって面白いね」
大きなソファに腰掛け、ペリドットは自身のカップに砂糖を入れる。
「そ、そうですか?」
そしてネリアもペリドットの真似をして砂糖を1杯いれ、一口ハーブティーをすすった。味はあまりわからないがとても優しい口当たりだ。
「純粋で面白い子だよ。いいマスターになれるんじゃないか?」
「えへへ、そうですかぁ」
ネリアはあからさまにニヤついた。
ネリネ、ネリア様が作ったドールとお友達になりたいのです!」
「私も」
ネリネアルメリアはじいっとネリアを見つめた。
「えっとそれじゃあ…早くマスターにならなきゃ」
にへっとネリアは笑う。
「あと…僕とも友達になってほしいなぁ…なんて」
そして頬を引っ掻きながら2人のドールに言った。
「もちろんです!」
「もちろんです」
2人のドールが口を揃えて即答した。
「へへ、ありがとうございます」
3人の少女がキャッキャッと戯れる姿を見てペリドットは親のような温かい笑みを浮かべた。
「あ、そうだ」
ペリドットはふと思い出したように立ち上がり、大きめのクローゼットを勢いよく開けた。そこには大きなサイズのメイド服やらロリータファッションと呼ばれるようなフリルのたくさんついた大きなサイズの服が掛かっていた。
「…ここじゃないや」
唖然としているネリアの視線を背中で感じながら、ペリドットは冷や汗を流しつつも何事もなかったかのようにクローゼットを閉め、隣のタンスの引き出しを開けた。
「あったあったこれだ」
ペリドットが出してきたものは洋服だった。レースが所々にあしらわれたワンピースで、ドット柄の桃色の布地が明るく元気な印象を持たせている。それをネリアの背中に当て、うんうんと頷く。
「やっぱり、サイズぴったりだね。これ、よかったら貰ってくれないかな?」
「えっ、でも僕お仕事ばっかりでおしゃれなんてあんまり…」
「ちょっと空いた時にでも着てみてよ。似合うと思うんだけどなぁ」
ペリドットに手渡されたワンピースを見ながら、ネリアはうぐぐと唸った。
「僕がしたかったお礼ってこれなんだ。気に入らなかったら売ってくれて構わないよ」
「とんでもない!すごくかわいいです!…あまり着てあげられないかもしれませんけど…いいですか?」
その言葉にペリドットは満面の笑みを浮かべた。
「もちろん!ありがとう!いやー、君を見た瞬間この服にサイズぴったりだろうなあと目をつけてたんだよねー」
「見ただけでサイズがわかるなんてすごいですね!」
他の人が聞いたら犯罪ではないかと疑われかねない発言にネリアは素直な感想を述べた。そしてスカート部分の裾のところに視線を落とすとなにやら見たことのある刺繍が施されていた。
「え…?ドット…パルレ?えっ…これドットパルレじゃないですか!!」
「あ、うん。そうだよ?」
「今流行りのブランドじゃないですか!こんなのボク本当に貰ってもいいのでしょうか!?」
「いいよ、僕が作ったものだし」
「…ほぇ?」
ネリアはペリドットを見ながら口をパクパクさせた。
ドットパルレといえば一般の人だけでなく、マスターやメイカーからも話題にされる一風変わったブランドだ。というのも、女性だけでなくファンシードールや女性型のマシンドールにもおしゃれを楽しんでもらいたいというコンセプトの元作られたブランドだからだ。レースやドット柄のものが主流のブランドで、若い女性が自身のドールを連れて店を訪れる姿がよく見られている。
「え、これ…ドットさんが作られたのですか!?」
「うん、やっぱり意外だよねえ。さっきも言ったけど僕、可愛いものが好きでさ。可愛い服を人間だけじゃなくてドールにも着てほしくてお店を作ったんだ」
「意外…ですけど、でもすごいです!」
「あはは、ありがとう。本当は僕自身も可愛い服が着たいんだけどね…あまりにも似合わなくて…しょっぱいねえ」
ペリドットはちらりと先ほどのメイド服が入ったクローゼットを見やった。
「あれは正直きつかったのです」
ネリネがきっぱりそう言うと、アルメリアは無言で頷いた。
「それは…ざ、残念ですね」
ネリアもこれには言葉を詰まらせてしまった。
「そのワンピースはこれから店に出すつもりの新作なんだ」
「そんなものを本当に貰ってもいいのでしょうか…?」
「いいよいいよ、女の子に可愛いものを着てもらいたくてやってることだから」
「あ、ありがとうございます!大切に着ますね」
にこっとネリアが笑うとペリドットはうんうんと頷いた。
「でもそんなに大切にしなくてもいいよ。どんどん着てボロボロにしてね」
「そ…それはちょっと…」
ネリアは困ったように頬をかいた。そしてふと壁掛け時計に目をやると、時刻は夕方になることを示していた。
「もうこんな時間!僕、そろそろ失礼しますね」
「それなら途中まで送るよ。あと、そのワンピースちょっと貸してくれないか」
慌ててソファから立ち上がるネリアからワンピースを受け取り、ペリドットはちょうどいいサイズの紙袋にそれを入れた。
「こうした方が持ちやすいよね」
「ありがとうございます!…それではネリネちゃん、メリィさん失礼します」
ぺこりとネリアが頭を下げると、ネリネは自身のスカートを両手で軽く持ち上げ、同じようにぺこりと頭を下げた。メリィも両手を前に重ね礼儀正しく頭を下げた。
「また遊びに来てくださいね!」
「待ってます」
「はい!また来ますね!」
ネリアは満面の笑みを浮かべた。

「この辺りで大丈夫かな?」
「はい、もう大丈夫です」
ペリドットと話をしながら歩いていると、もうそこはネリアの見知った場所だった。
「わざわざ送ってくださってありがとうございました!」
「どういたしまして」
ペリドットはそう返したあと、顎に手を当て考えるような仕草を見せた。
「ルチルさんが今日、君を僕のところにお使いに向かわせたのは意味があったんだろうな」
「え?」
「たぶん、ドールマスターの働き方って1つじゃないってことを君に見せたかったんだと思う」
「えっと、自分の工房を持つ人だけじゃなくて、ドットさんのところみたいに複数で工房を持つ人達もいる…ということでしょうか?」
「うん、そういうこと。ネリアちゃんはあまりこの世界に詳しくなさそうだからね。今のうちにいろんなことを知っておいてほしいんじゃないかな」
「なるほど…。さすがルチル様ですね!!」
目をキラキラとさせながらネリアは両手をグッと握った。
「ネリアちゃん、君がマスターになったらうちにおいでよ」
ペリドットは薄く笑みを浮かべながらネリアに向かって言った。
「え…」
「その時僕はあそこにはいないかもしれないけど、きっと皆君を歓迎するよ」
「ありがとうございます!」
「あ、でもあそこ男しかいないや」
「そ、それはちょっと…」
「そうだよねえ」
ネリアとペリドットは目を合わせたまらず吹き出してしまった。ひとしきり笑うとペリドットは少し真面目な面持ちでネリアを見た。
「でも君にうちの工房に来てほしい気持ちは本当だよ。僕は君みたいな子が好きだからね」
「えっ!?ええ!?」
その言葉に思わずネリアの顔が真っ赤になった。
「そ、そんな急に…そういうことはですね、もっと知り合ってからですね…」
しどろもどろになるネリアにペリドットは頭に疑問符を浮かべた。
「んー?そうかあ、たしかに君のことはよくわかってないもんね。これから君がどんなドールを作るのか知る必要はあるかもなぁ」
「え?」
「ん?」
何やら互いに話が噛み合ってないことに気づき、2人は首を傾げた。
「とにかく、勧誘はまたさせてもらうよ」
「はい!」
「それじゃあ、ルチルさんによろしく。あと…」
ペリドットはネリアの耳元に口を寄せた。
「ルチルさんに寸法計らせてって言っといてくれる?」
「…え?」
頬を紅潮させたネリアはすぐさま唖然とした顔になった。
「ルチルさん、綺麗な顔してるからさー、僕の作った服を着てほしいんだよね。絶対ゴスロリとか似合うよ!!」
右手でガッツポーズを作るペリドットを尻目にネリアはふとゴスロリ姿のルチルを想像してみた。悪くないかも…と思うがいやいやと頭を振ってそれをかき消した。師匠のそんな姿を想像するなど弟子としてなっていないと自分を心の中で叱る。
「それでは僕は失礼します。お見送りありがとうございました」
ネリアが元気良くお辞儀すると、ペリドットはひらひらと手を振った。
「また遊びにおいでね」
「はい!」
見慣れた景色を眺めながら、ネリアは足取り軽く紙袋を抱えて慣れた道を行く。自身が住まう工房の扉を開ければ、小気味好い鈴の音が響く。出迎えるのは優しい老紳士のマシンドール。帰ってきたネリアの姿が目に入ると老紳士のマシンドール、伊吹が優しく微笑む。
「おかえりなさいませ」
「ただいま伊吹さん!」
「おや、何か嬉しいことがございましたか?」
「はい!」
ネリアは嬉しそうにはにかんだ。
「お茶友達ができました!」


ということでキャラ紹介
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日付確認したら2年も待たせてた…大変お待たせ致しました…

2014-12-04

MONSTERS あとがき

無事もんすた(別名:数学演習)が終わったのであとがきとか設定とか書いていきたいと思います。

まず、この話を文章で書こうと思ったのが6年前のことです。学校のなんかイベントで小説を書いて応募しようみたいなのがありまして、応募はしないけど皆で小説書こうぜ!って友達の間でなったのがきっかけです。私とあともう1人ぐらいしか結局完成させてなかったけど。そして大半は黒歴史になったそうな。
で、この話を考えたのですが、私の中で話の長さは漫画の読み切り1本分ぐらいのイメージになってます。
完全に私の技量不足なんだけど、だからこんなに駆け足なのか!って思っといて、ね?????
ちなみにちょいちょい文章は変えてはいるけど展開は原文ままです。分かりづらい部分とか、うごメモで描いてた分とは違うところがあって申し訳ないです。うごメモの方ではセイに水の能力がついてたと思うんですけど、どうやって倒すのかとか割と忘れちゃってたので原文通りの展開になりました!すみません!
魔物同士だとその能力無効になるよ的な展開だったと思うんだけどそれだとなんかおかしいよね、うん。
言い訳はこれくらいにしときます。


とりあえずキャラ紹介とかしときましょうか!

主人公ズ
ウィズ・ライト(22歳)
主人公で魔物。黒髪赤目で右腕が欠けている。
自分と婚約者を殺害したヴァリスを倒すために退治屋になった。
雨が降る時は何か大きな事が起きるというのが彼のジンクス
欠けた右腕部分から生える大きな魔物の腕は尖った鱗がついていて指が短く、斬るより叩きつける方が向いている。
伸縮自在で大きさも自由に変えられる。便利。

サメリ 雨裏(18歳)
魔物の少女。金髪黒目で魔女のような服装をしている。
本人曰く物心ついた頃から魔物だった。両親は不明。
腕を変形させる能力が開花してから周りから迫害され始め、防衛本能で感情をなくした。
ウィズと出会ってからじょじょに感情を取り戻しつつある。
腕と脚を刃に変える能力を持つ。脚の本当の形は爪が歪に曲がった鳥のような形をしている。

敵サイド
ヴァリス(22歳)
ウィズの宿敵。セイとは幼馴染でずっと彼女のことが好きだった。
魔物の1段階上の姿である悪魔の使いになっている。能力はウィズと同じだが、ヴァリスは切り裂く方に特化している。
ウィズにセイをとられたことを妬んで魔物になった。

セイ(22歳)
ウィズの婚約者。優しく笑顔の絶えない女性。
死体を魔物化したので彼女の意思はもう存在していない。

その他
ザコ3人衆
名前の由来はドイツ語の1と2と3。
力を求めて魔物化した。

レイダ
退治屋の通信・情報処理担当。
普段から姿を見せることはあまりない。声色から年齢が判断できない不思議な声の持ち主。
退治屋の者は声だけで彼のイメージを作り上げているので、人によってそのイメージは様々。

当時描いてたのがこんな感じです。
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レイダさんも描いてたけどレイダさんは見せない!想像したままの姿にしといてくださいww


世界観とか
古くから人間と魔物が存在する世界。髪色や瞳の色はバリエーション豊か。あまり近代化が進んでいないため古っぽさが残る。
やや砂漠化している所がある。

魔物について
悪しき力を欲したり、死にかけたりすると現れる契約者と契約を交わした者。
人間よりも強い力を持ち、人間には成しえない能力を持つ者もいる。
実質1度死んで生き返っているような状態。1度死んだことを忘れないために致命傷が古傷のような形で残され、さらに全員黒髪赤目になる。
ちなみに悪しき力を欲して魔物になった者はほぼ全員額にその傷がある。
姿は様々。獣人や悪魔のような見た目の者もいる。
基本単独行動だったが、最近になって集団行動が目立つようになってきた。
また、最近「褒美」なるものを貰ってさらに強力になった魔物が発見され始める。

契約者について
魔物になる契約を持ちかける者。突然現れ音無く消える。
何か罪を犯し、それを償う為に使役されているような口ぶりを見せている。


大体こんな感じです。何か質問があればどうぞ〜

魔物の設定云々はこの話を作るより前に考えてたお話で出てくる敵の設定を流用してるんでなかなかスピリチュアルですww
中3とかそれぐらいの時に考えた設定だから仕方ないよね!
モンスターズは一応3部構成になってます。というのもこれ読んだ友人が3部構成ぐらいで続き書けと言われたからというね。
そしていざ2部書いたら途中で「重い」と言われてしまったので、そこから途中放置状態になってますww
私の中では完結してるから大まかな流れだけなら言えるんで、話読むのめんどくさいけど展開だけ気になるって人がいたらお知らせください〜
話がどんどんスピリチュアルファンタジーになっていくよー!あと若干また話が重くなるよー!
暗い過去とか中二創作にありがちだけど、そういうの好きなんでついついやっちゃうんだよねー!!


あと、今回こっちにこの話書くということでまた原文を読みなおしたわけだけど、
サメリの名前の由来は「雨の裏でサメリ、要するに晴れ」ってウィズが言ってましたよね。
で、ウィズの婚約者の名前は「セイ」。こっちは漢字で書くと「晴」なんですね。
なんかウィズのエゴみたいなものを感じましたwたまたまなんだけどね。
単にサメリが雨だから、婚約者は晴れにしよう!って考えだったんだたしか。
あと余談ですがモンスターズに出てくる女の子は天気とか空繋がりになってる予定です。1人だけ違うのいるけど。
で、この話のテーマは「雨」です。まんまですね。
けっこう書いてて恥ずかしいところがいっぱいあったんですけど、なんだかんだでこの話はこんだけ語れるぐらい気に入ってますww
また余裕のある時に2部も書けたらいいなーと思ってます。途中までなら原文あるからサクサク書けるはず・・・
でもけっこう設定とか見直さないといけない部分とかもあったりしますねー。ネーミングがやっつけすぎる。
というわけでまた更新できたらいいですね。ここまで読んでくださってありがとうございました!
創作って楽しいですね!!!


以下おまけ〜。これも昔描いたやつなんで見苦しいところがあるけど許してね
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2014-12-03

MONSTERS 7

「サメリのおかげでやっと決心がついたよ」
そう言うとウィズの巨大な右腕がみるみる縮んでいき、人間の腕と同じ大きさになった。それを確認するとウィズは目を閉じ、己の中にいる魔物に力を譲った。すると、ウィズの周りから爆風が起き、突風がウィズを包んだ。
「まさか・・・そんなことが・・・」
ヴァリスは唖然としながらその光景を見つめるしかなかった。
風が止みウィズが再び姿を現すと、彼は先ほどとは違う様子になっていた。
髪は燃えるような赤に染まり、瞳は静かに怒りをたたずむ漆黒のそれに変わっていたのだった。そして左腕は大きさこそ人間と同じだが右腕と同様、尖った鱗の並ぶ悪魔のような腕へと変形している。
まさにウィズのその姿はヴァリスと同じ「悪魔の使い」と呼ばれるものだった。
「ウィズ・・・てめえいつの間にその『褒美』を貰った?」
「褒美?生憎オレのこの能力は自前でね、それは魔物が悪魔の使いにランクアップするための鍵か何かか?」
―――きっとあの子が内緒でつけてくれた能力なんだろうな
ウィズは心の中で呟いた。
「またお前だけ・・・」
ヴァリスはぎちりと歯を食いしばった。その目からはもう余裕の色はうかがえなかった。ヴァリスはウィズに向かって駆けだすと大きく右腕を振りかぶり、そのまま殴りぬけようとした。が、ウィズはそれを流れるように受け止め、カウンターでヴァリスの顔を裂いた。ヴァリスはそれをぎりぎりのところでかわしたが、彼の頬には2筋の赤い線ができていた。
「くそっ・・・」
ウィズは追い打ちをかけるように間髪いれずにヴァリスに向かって攻撃を繰り出した。だがヴァリスも黙ってはいなかった。ヴァリスは跳躍し、体重をかけながらウィズの腕を狙って左腕を振るった。
2人の攻撃は互角だった。ウィズの右肩に血の線が浮き、ヴァリスの左腕にも同じような傷が浮かんでいた。
「そろそろ、最終ラウンドってとこか?」
ウィズがにやりと笑うとヴァリスは一歩後ろへ退き、大きく両腕を振りかぶりながらウィズへと突進した。ウィズもそれに応じるように両腕を振るった。
2人はぶつかり合い、互いに背中合わせの体勢になった。
「ッ痛・・・」
最初に声を上げたのはウィズだった。ウィズの身体のあちらこちらには裂かれた跡があり、彼はぜいぜいと息を荒くしていた。
「ウィズ!」
サメリが声をかけた瞬間、ウィズとヴァリスは勢いよく振り向きあい、再び攻撃を繰り出そうとしていた。―――が、ヴァリスは攻撃することなくそのまま倒れてしまった。先ほどの連撃の間に彼の右腹には決定的な一撃が撃ち込まれており、その一撃が彼の意識を奪ったのだった。
「3年前のお返しだ!!」
ウィズは相手を見ることなくそう言い放った。その姿はすでにいつもの黒髪赤目に戻っていた。
「・・・死んだの?」
サメリが座り込んだままウィズに尋ねると彼はゆっくりと首を横に振った。
「いや、殺してねえよ。こいつには意思があるからな。でも当分起きないだろうな」
ウィズは横目で倒れている宿敵を見やるとサメリのもとへ近づいた。
「ほらサメリ、立てるか?」
ウィズが左手を差し伸べるが、サメリは制止するように腕をゆっくり突き出した。
「大丈夫、1人で立てる」
「そっか」
よろよろとなんとか1人で立ち上がって見せるサメリを確認すると、ウィズは彼女に背を向けイヤリングで通信をし始めた。
「レイダさん、聞こえますか?」
――ガガッ うん聞こえてるよ
「あいつ・・・確保しました。当分起きないと思うんであとで運んどいてください」
―わかった。じゃあ君の探していた人を確保できたんだからもうあとは約束通り、君の好きにしていいよ―――
「はい、今までありがとうございました」
ウィズは通信を終えてもぐっと背伸びをしただけで、サメリに背中を向けたままの状態でいた。
「退治屋、やめちゃうの?」
サメリは恐る恐る尋ねた。彼女の胸の中は不安でいっぱいになっていた。
「そうだなー、まあそういう約束だったしな」
「じゃあ、これからどうするの?」
「んー、世界のいろんなとこでも見てまわるかな」
ウィズは背中を向けたまま気まずそうに頬をかいた。
「・・・サメリとはここでお別れだな」
その言葉はサメリにはあまりにも唐突すぎた。彼女のそばにはいつもウィズがいた。これからはその彼が隣にいない―――彼女には想像もできないことだった。
「じゃあな、またどっかで会ったらよろしくな!元気でいろよ」
そう言うとウィズは振り向くことなく手を振りながら歩いて行った。
サメリはその背中に追いつこうと必死だった。脚はふらついて走ることさえままならなかったが、それでも彼の背中を追いかけた。
よろけて、走って、転びそうになりながら、なんとかウィズの背中に追いついて―――
すがるようにウィズの腰に腕をまわしていた。
「えっ・・・サメリ・・・?」
ウィズがサメリの行動に驚いたのと同様に、彼女も自分のとった行動に驚いていた。考えるよりも先に身体が動いていたのだった。
「どうしたんだよサメリ」
「・・・やだ、行っちゃ・・・嫌」
サメリはウィズの背に額をあてながらうつむいて言った。
「・・・なんでだよ?」
ウィズの頭は疑問符だらけになっていた。
「ウィズがいなくなったら・・・私、1人になる・・・」
「大丈夫、お前はもう1人じゃねえよ。退治屋の本部に戻ればお前を迎えてくれる人がいっぱいいるだろ?」
ウィズは優しく諭すが、それでもサメリは首を横に振り続ける。
「違う・・・ウィズがいないと、消えちゃう。ウィズは・・・私を初めて認識してくれた人だから・・・。だから、行かないでっ・・・」
「サメリ・・・」
そこでようやくウィズはサメリの方を向いた。だが、振り向いたその少し悲しげな表情はすぐに驚きの色に染まった。
「サメリ・・・お前!」
「・・・え?」
サメリが顔を上げると、ウィズの顔はぐにゃぐにゃになっていた。そして自身の頬を伝う液体を肌で感じた。
「なんで・・・、なんで私・・・泣いてるの?」
訳が分からず更に涙があふれる。混乱し続けているサメリをウィズは優しく抱きしめた。彼女と初めて出会った時と同様、片腕だけで。
「・・・ありがとな」
ウィズの声は優しくサメリの芯まで響いた。
「・・・なんで?」
「な、なんでって、その」
ウィズはハッとしたようにサメリから手を離し、恥ずかしげに頭を掻いた。
「オ、オレのことをその・・・そんなに大事に思ってくれてて、ありがとうなってことだよっ!恥ずかしいからこんなこと言わすなよ!!」
ウィズの顔は真っ赤になっていた。
「・・・ごめん」
サメリは再びうつむいた。一瞬止まった涙がまた目から零れる。その様子にウィズは慌てふためいた。
「あああ、泣くな泣くな!でも、よかったな。また新しい感情を思い出せて」
「これ、どんな、感情なの?」
ウィズはしゃがみ、しゃっくり混じりでうまく話せないサメリの肩に手を置いた。
「寂しいと悲しい、かな。寂しいってのは1人になっちゃうのが嫌だって感情で、悲しいってのは・・・んー、まあ似たようなもんだけど、オレがどっかに行っちゃうのは嫌だーって感情かな?」
「じゃあ、なんで私、泣いてるの?前とは、違うことで泣いてる、気がする」
うーんとウィズは頭を捻った。
「それはだな、人はいろんな理由で泣くからだ。嬉しかったり悲しかったり、時には笑いすぎたりして。前は嬉しかったんじゃねえかな?」
「そう・・・かな?」
「まあ後々わかってくるって。ほら、もう泣きやめよ、な?」
ウィズはサメリの頬の涙を優しく拭った。サメリも真似して似たような動作をしてみる。
「それに」
ウィズは明るく笑いかけた。
「サメリは笑ってる方が可愛いんだからよ!ほら、笑って笑って」
サメリは自然と微笑んでいた。その笑顔はまるで太陽のように温かかった。
「それでいいんだよ、サメリ!」
ウィズの顔も晴れ晴れとしていた。
いつの間にか雨はあがったようで、廃工場の窓からは温かな日の光が差し込んでいた。

「さて、行きますか!」
ウィズは立ち上がり、元気よく言い放った。
「・・・どこに?」
サメリは恐る恐る尋ねた。
「どこにって、退治屋本部に決まってるだろ?」
ウィズはにぃっと笑った。が、すぐに何かに気づいたように顔を歪めた。
再就職ってできんのかな?あとは自由にしろってレイダさんが言ってたからできるよな?」
―――まだやらなきゃならないこと、知りたいことが山ほどある。もっと多くの魔物を倒すこと、サメリの例外的な探知能力、外見、それに感情の戻し方、あの「契約者」の子のこと・・・旅はそれが全部終わってからだな。
「ねえ、ウィズ」
ぼんやりと考え事をしているウィズの服の袖をひっぱりながらサメリは声をかけた。
「おお悪い、なんだサメリ?」
「レイダさんに直接聞いてみたら?」
「そうだな、それが1番手っとり早いか!」
ウィズは通信機に耳を傾けながら、サメリと2人で並んで歩いた。



後にとある事件に巻き込まれ、それが原因で世界を救うことになるとは、2人はまだ知らない。



(What's next on MONSTERS ???)

2014-11-13

MONSTERS 6

ウィズが目を開けるとそこは誰かの部屋のようだった。上体を起こし、周りを見るとどうやらそこは寝室だということがわかった。
「夢・・・だったのか?」
そうであってほしいという願望がウィズの胸を淡い期待で膨らませたが、自身が今いるところは自分の寝室ではなかった。
「おお、目が覚めたか!」
正面に位置するドアから姿を現したのは老夫婦だった。彼らはウィズの顔見知りの人たちだった。
「あなたたちは・・・」
「ああ、私たちは隣村の者なんだがね、昨日あんたたちの村が燃えたと聞いて駆けつけたんじゃ。だがもう辺り一面焼け野原で・・・」
老人は少し悲しそうに答えた。
「生きてる者はいないだろうと引き返しかけたその時にあんたを見つけたのさ」
と老婆が続けた。
「服には大きな穴が空いてたけど、怪我はなくてよかったねえ」
老婆は嬉しそうに笑った。
「えっ!?」
ウィズは慌てて自身の腹を見た。すると、そこには古傷のような大きな跡が刻まれていた。
「あんた、その顔の感じといいその右腕といい、もしかしてウィズ君なのかい?」
「そうですけど・・・」
老人の問いかけに答えると、彼はやはりと目を見開いた。
「やっぱりウィズ君じゃったか!いやー、前会った時とは髪や瞳の色が違っとったから別人かと思うてしもたわい」
「え・・・」
ウィズは隣にあった鏡台に目を向けた。
以前まで栗色だった髪が影のように黒く染まり、瞳の色も以前のそれとは全く変わっていた。その姿はまるでヴァリスの様だった。
「なんでだ・・・」
思わず口から零れてしまった言葉は老夫婦の耳には届いていなかった。
「まあわしたちは隣の部屋におるから、何か必要なものがあったらいつでも呼ぶんじゃぞ」
そう優しく声をかけて、2人は部屋から出て行ってしまった。
「・・・驚いた?」
突然横から声をかけられ、驚きながらそちらを向くと先刻の少女が立っていた。
「おい、どうなってるんだ!?オレは死んだんじゃなかったのか!?それに・・・この髪と目は・・・」
ウィズは思わず少女にすべての疑問を一気にぶつけてしまった。少女は少し困った表情を浮かべた。
「あなたは私と契約したの。1度死に、再び生命を吹き込まれた生き物、魔物になる契約を」
「オレが・・・いつそんなことを?」
「あなたは契約者である私に、生きたいと望んだ。それが契約よ。・・・そうそう、あなたの右腕・・・力を込めて右腕が欲しいと望んでみて」
「??・・・こうか?」
よくわからなかったがウィズは言われた通り、心の中で右腕が欲しいと念じてみた。すると一瞬光を帯びたかと思うと、右腕から悪魔のような巨大な腕が生えていた。
「なんだよ・・・これ」
戸惑いながら視線を投げかけると、少女は説明口調で答えた。
「あなたの武器よ。左腕も同じようにできるから後で試してみるといいわ」
そこでウィズは1つの疑問を口に出した。
「なんでこんなことをするんだ?」
少女は少し悲しげにうつむいた。
「私の犯した罪を償うにはこれしかなかったの。でも、こんなこと・・・間違ってるよね。本当は私は、ただ生きたいと願った人だけしか魔物に、いえ生き返ってほしくないのに」
少女は意を決したようにウィズに訴えかけた。
「だからお願い!悪しき力、私利私欲のためだけに力を欲して魔物になった人たちを倒してほしいの!無理な願いなのはわかってる・・・でもあなたのような人にしか頼めないの・・・」
少女の目はまっすぐで、ウィズにはとても嘘をついてるようには見えなかった。
「・・・ああ、オレも目的は同じようなもんだからな。いいよ、やってやるよ」
ウィズがそう言うと、少女の顔は少し明るくなった。
「ありがとう。でも私・・・もう行かないと。それとお願い、これだけは忘れないで・・・。あなたは1度死んだということを。あなたは、魔物だということを」
少女はそう言い残して姿を消していた。

忘れないで・・・。あなたは1度死んだということを。あなたは、魔物だということを。
ウィズの頭の中でその言葉が何回も木霊した。



―――そして現在―――

くそっ!!こいつの顔を見てるとあの日のことがずっと頭の中で繰り返される!!オレの頭の中が力で支配されていく・・・
ウィズはヴァリスとさらにもう1人の敵と闘っていた。
もう1人の敵、それは魔物としての自分だった。
自身の中の魔物に力を譲れば、間違いなく自分は敵に勝てるだろう。だが、今、力を譲ってしまえば今の自分には永遠に戻れなくなる、そんな気がしていた。

「魔物に力を譲っちまえばいいじゃねえか、ウィズ!」
ヴァリスはウィズを挑発した。ウィズの目は確実に憎しみの色で濁り始めており、あと少しで本物の魔物になるということに彼は気づいていたのだ。
「うるせえ!!」
そう叫んでウィズは右腕をヴァリスの腹めがけて水平に薙いだ。だがそれをヴァリスは跳躍してかわし、その勢いでウィズを蹴りつけた。
「ぐっ!」
ウィズは蹴られた勢いで壁に背中を打ちつけた。目の前の敵は彼が体勢を整えることを許さず追撃し、腹を切り裂いた。
ウィズはそれを間一髪のところでそれをかわしたが、服が裂け、うっすらと数本の赤い線ができていた。
「醜い傷跡だな・・・。誰につけられたんだ?」
ヴァリスはとぼけるように首をかしげた。
「てめえ・・・!!」
「ウィズ!!」
瞳の濁りきるその直前に、ウィズは誰かに引きとめられた。
「サメリ・・・」
サメリは小さく笑いかけるとヴァリスに向かって駆けて行った。
「サメリ!無茶だ、やめろ!!」
彼女がヴァリスに勝つことはできないとウィズには目に見えてわかっていた。
サメリは相手に回し蹴りを放ったが、それを右腕で防がれ、彼女がひるんだ隙に腹を左腕で殴った。
「っ・・・!!」
サメリはあえなく壁に激突し、そのまま座り込んでしまった。しかしすぐによろよろと立ちあがる。
「・・・ねえウィズ、ウィズは私に言ったよね?誰かが・・・憎くて憎くて仕方なくても、私たちは、それを我慢しなくちゃいけないって・・・。その後にウィズが自分で言ったこと・・・覚えてる?」
ウィズはその言葉にハッとなった。


「なあサメリ、もしオレやお前が誰かをものすごーく憎んだとしよう。その時、オレたちはその憎い奴を攻撃しちゃダメなんだ。我慢するしかない」
「どうして?」
サメリは当然の疑問を投げかけた。
「んーとだな、もしオレがその憎い人を殺したとしよう。そしてその憎い人に家族、まあ子どもがいたとするだろ?その子どもがオレが親を殺した犯人だと聞く。そうすると子どもはオレを憎む。そしていつかオレを殺してやろうと思う。まあ憎しみってのはその連鎖なんだ。誰かが断ち切らないといけない。憎しみが積もって力を欲して魔物になるとか、オレたち退治屋が自分たちのせいで魔物を生んじまうことは避けたいしな。・・・わかったかサメリ?」
「なんとなくは。でも、その憎しみをこらえきれなくなったらどうすればいいの?」
サメリの疑問にウィズは優しい顔をしながら、サメリの肩に手を置いて答えた。
「その時はオレが止める!安心しな」
「じゃあ、ウィズはどうするの?ウィズのことは誰が止めるの?」
その問いにウィズは少し難しい顔をしたあと、また笑顔になって答えを出した。
「オレはこらえきれなくなることはないだろうし、なっても自分で止められるよ」


「ウィズ、今こらえきれてないよね?自分で止められてないよね?だから・・・私が止めるの。これからも、ウィズが苦しかったら私が・・・ウィズを支える!」
そう言ってサメリは再びヴァリスに挑んだ。しかし、サメリは再び彼の攻撃を浴びてしまう。彼女の腕や脚に次々と傷が刻まれていった。何度攻撃を受けてもサメリはヴァリスに立ち向かったが、それを何度か繰り返した後彼女の脚がついに限界に達したのか、力が抜けたようにがくりと膝をついた。その勢いでサメリは倒れかけたが、それをウィズが肩を抱きあげるように支えていた。
「サンキューな、サメリ」
ウィズはサメリに優しい笑顔を向けた。その瞳はもう濁ってなどいなかった。

2014-11-05

MONSTERS 5

チッ!何度も同じような攻撃を繰り返してきやがる!!

ウィズとヴァリスは先刻からずっと同じような攻防戦を繰り返していた。一方が攻めれば相手はそれをいなし、もう一方が攻めれば相手はそれを防ぐ。このままでは埒があかないとウィズは一歩後ずさり、間をあけた。
「やっぱお前相手じゃこれを使わざるを得ないみたいだな・・・」
突然ウィズの隻腕が光り輝き、その光が止んだ頃には右腕が生えていた。
尖った鱗が並ぶ、悪魔のような巨大な右腕が―――
「へえ、右腕を生やせるんならずっと生やしっぱなしにすればいいんじゃねえの?なんで隻腕のままにしておくんだ?」
ヴァリスがにやりと笑った。
「長い間隻腕だからな。生やさない方がしっくりくるんだよ」
ウィズも不敵な笑みを浮かべてみせる。
「まあ、どうでもいいけどな。じゃあお前が本気ならオレも本気でいくとするかな」
そう言うとヴァリスの両腕に黒い靄がかかった。その靄が両腕にしみ込んだかと思うと、彼の腕は黒い光沢のある刃物のようなものに変形していた。
「それじゃ、第2ラウンドといきますか」
その言葉と同時に2人は互いに大きな一撃を放った。

まただ・・・雨の日には必ず何か大きな事が起こる。サメリと出会った時も・・・オレが1度死んだあの時も―――


―――3年前 とある村―――

「ふぅ、ちょっと休憩」
栗色の髪にこげ茶色の瞳の青年、ウィズは畑で一息ついていた。彼の右腕は途中から存在していなかった。
彼は生まれた時から右腕が欠けていた。その為、彼自身はそれを不便に感じることはあまりなかったのだ。
「ウィーズ!そろそろ引き上げない?」
深い青の瞳をした女性、セイが畑の上段にある道路から優しい声音でウィズに問いかけてきた。
「んー、そうすっか。明日はいよいよ、オレたちの結婚式だからな」
「もう明日の今頃には私、セイ・ライトになってるんだよね。なんか実感ないなー」
肩まである色素の薄い空色の髪を揺らしながら笑うセイを見て、ウィズは改めて愛おしいと感じた。
「そうだな、オレたち・・・明日にはもう夫婦になってるんだよなあ。なあセイ、ヴァリスは本当に結婚式には来ないのか?」
「うん、その日は行けないって言われちゃって・・・。ヴァリスにも来てほしかったな」
「そうだよな、オレたち3人でずっと仲良くやってたもんな。オレ、あいつに1番来てほしいと思ってたのに」
ウィズは残念そうにうつむいたが、何か思いついたのかすぐに顔を上げ、セイに笑いかけた。
「そうだ!オレたちの結婚式の写真をいっぱい撮ってもらって、それを見せればいいんだよ!」
ウィズの言葉にセイもぱあっと顔を輝かせた。
「それいい!じゃあ私、親戚のおじさんにお願いしてくるね!」
たたっと駆けていくセイの後ろ姿を見た後、ウィズはふいに空を見上げた。
「雨、降りそうだな」
ぽつりと独り言ちると、セイに大声で呼びかけた。
「セイー!!雨降りそうだから早めに帰れよー!!」
するとそれに答えるように、セイはウィズの方に振り返り、大きく手を振った。
その瞬間、セイの胸が何か黒いものに貫かれたようにウィズは見えた。そしてセイの身体がゆっくりと崩れ落ちる。
「・・・え?」
ウィズは今の状況を理解できないでいた。しかし、セイが倒れたことは紛れもない事実であったため、混乱しながらも瞬時にセイのもとへ駆け寄った。
「セイッ!セイッ!?」
セイの横に膝をつき、ウィズは彼女の肩を懸命に揺すった。だが、言葉は返ってこない。身体はいつもと同じで温かいのに、うっすらと開かれた目には生気が宿っていない。
ウィズは揺れる瞳で彼女の胸部を見つめた。胸には何かで貫かれた傷があり、そこから血液が流れ続けていた。
「そんな・・・セイ・・・なんで・・・なんでこんなことが・・・」
「起こっちまったんだろうな?」
突然背後から声が聞こえ、ウィズは即座に振りかえった。
そこにはかつての友がいた。
ヴァリス・・・か?」
その言葉に彼は可笑しそうに笑った。
「おいおい、友達の顔も忘れちまったのかよ!でもまあ、しゃあねえか。髪も目の色もまるっきり変わってるんだからな」
かつての金髪が漆黒に染まり、茶色の瞳が血のように赤く塗りつぶされた友人、ヴァリスが左手をひらひらと振る。その腕は赤い血で濡れていた。
ヴァリス・・・お前が、やったのか・・・?セイを・・・お前がセイを殺したのか!?」
ウィズは声を震わせながら、思わず友人の胸倉をつかんだ。
「ああ、そうだ。オレが殺した。・・・セイを永遠にオレのモノにするためにな!」
「はぁ・・・?」
顔をゆがめながらこちらを睨むウィズを見てヴァリスは楽しげに笑っていた。
「オレはセイのことがずっと好きだった。セイだってオレを想っていたはずだ。それなのに7年前!!ウィズ・・・お前が来てからあいつはオレに振り向かなくなった。あいつの視線の先にはいつもお前がいた・・・。だから決めたんだよ!力を手に入れてセイを殺し、お前も殺し、そして・・・セイをオレだけのモノにするってな!」
少し寂しげに笑った後、ヴァリスは独白を終えた。
「そんなことしたって・・・セイはお前のものにはならねえんだぞ!!」
ウィズは声を荒げた。その瞳からは涙がとめどなく溢れていた。
「かわいそうなウィズ・・・恨んで恨んで、でもその恨みを果たせないまま、もどかしいまま、ここで死ね」
ヴァリスが冷たく言い放った瞬間、ウィズの右腹に激痛が走った。ゆっくりと腹を見ると、そこにはヴァリスの左腕が深々と突き刺さっていた。
「っかは・・・!」
ヴァリスが勢いよくそれを引き抜くと、ウィズは全身の酸素が搾り取られたような錯覚に陥った。力なく倒れたウィズの右腹には大きな風穴が空いていた。
「死ぬまでの間、そのまま村が破壊されていくのを眺めてるんだな」
ヴァリスは口の端を歪め、村の方へ歩いて行った。
「待・・・て・・・」
なんとか声を絞り出すが、ウィズの口からは血が溢れ、まともに発声ができていなかった。追いかけようと足を踏ん張るが、痛みのせいで力が出ず、這うことすらできない。
(くそっ!!動け・・・動けよ!!)
心の中で強く念じてもその足は動かなかった。そうこうしているうちに一軒の家から火の手が上がった。それを合図とするかのように次々と他の家からも火が上がり、次第に村全体が炎に包まれた。ウィズは村から少しはずれた場所でその光景を見ることになった。
「動・・・けよ・・・!くそっ・・・」
ウィズは己の非力さを恨んだ。もし自分が彼女を救えていたなら、もし自分がここで傷を負わなかったら・・・そんな「もしも」のことばかりが頭に浮かんでは消えていった。弱々しく拳を握りながら、ウィズはただひたすら地面に顔を擦り付け涙を流した。
炎が村を包んでからしばらくすると、ぽつりぽつりと雨が降り始めた。その雨は次第に強さを増していき、村の炎をすべて消すまでに至っていた。辺りにはもう人の気配がなくなっていた。

ウィズの目は次第に焦点が合わなくなってきた。
右腹に空いた大穴からは血が容赦なく流れ続け、雨がそれを固めることを許さなかった。大量の血液で彼の毛先は赤く染まっていた。
なんとか仰向けにはなったものの、もうウィズには力が残っておらず、腕で雨が目に入るのを防ぐことすらできなかった。
「オレ・・・死ぬのか・・・」
ウィズは漠然と心の中で思ったことをそのまま口に出した。まさか、返事がくるとは思わずに。
「あなたは、生きたいの?」
灰色の世界の中に突然少女が現れた。その少女の脚は傷だらけだった。ウィズは彼女は自分が作り出した幻覚だと思い、胸の内を紡ぎだした。
「オレは・・・」
ゆっくりと息を吐き出すように言った。
「生きたい」
その言葉を最後にウィズの意識は途絶えた。