靖国反日勢力

現在ネット上では「百人斬り訴訟」「大江裁判」で有名な稲田朋美議員による映画検閲騒動が話題をさらっている。稲田は

客観性が問題となっている。議員として見るのは、一つの国政調査権

とのたまっているようだけれど、映画における客観性なんてものはいったいどのように担保できるというのだろうか。映画なんてのは監督の主観によって描かれるものであって、それに「客観性」なんてものを求めたらつまらない駄作になるだけだ。そもそも、文化庁が映画に助成金を出すのは

【事業の概要】
(意欲的な企画作品の映画の製作)
 我が国の映画芸術の水準向上の直接的な牽引力となることが期待される意欲的な企画作品の製作を支援します。
(新人監督やシナリオ作家を起用した映画の製作)
 優れた人材を発展・育成するため,新人監督やシナリオ作家を起用した映画製作を支援します。
(地域において企画・制作される映画の製作)
 地域の活性化に資する映画の製作活動を支援します。*1

という目的でやっているのである。つまり、映画芸術の水準向上や新人の育成に主眼が置かれているのだから、その内容が「反日」であるなんて稲田の言いがかりはナンセンス以外の何者でもない。映画の芸術性が「反日」とか「反社会的」であるかどうかで決まるのなら話は別だけど。もしそうなら、「極道もの」なんて全く評価されなくなるのだろう。

ところで、映画の中で使用された「南京事件で論争となっている写真」というのがどの写真かは知らないけれども、それをもって「反日」だと脊髄反射する人々は非常に滑稽である。恐らく、「およそ歴史研究の成果とは認められない」研究を行なっている、東中野修道などのように、ある写真が間違ったものであると否定できれば、南京事件そのものを否定できると考えているような人々と同類なのだろうけど、一枚の写真でもって歴史的な事件の評価が左右できるわけはないのだ。日本の歴史修正主義の特徴として、極一部だけを取り出し、それを恣意的に解釈して全体に敷衍しようとする点が挙げられるが、映画の中の一枚の写真を「反日」とすることで、映画全体が「反日」であると決め付けている、今回の映画騒動なんかはそれを見事に表しているように感じる。

歴史修正主義勢力は、それが良かれと思ってやっているのだろうけど、逆に日本の評判を下げることになっているということに早く気づいてほしいものだ。従軍慰安婦問題で世界中*2が非難決議をあげているのは何故なのか、一度じっくり考えたらいいと思う。まあ、彼らにとってはこうした一連の決議は全て「反日中国・韓国ロビーの暗躍」のせいなのだろうけど(笑)、妄想の世界に逃げ込んでも何の解決にもならない。もし、彼らの妄想の通りであるなら、日本政府のロビー活動はあまりにも無力だ。アメリカの決議の時には、加藤駐米大使が

もし下院本会議で採択されれば『ほぼ間違いなく日米両国間の深い友好、緊密な信頼、そして広範囲の協力に長期の有害な効果を及ぼす』と警告し、「日米間の協力の具体例」としてイラクの安定化や復興をめぐる日本の米国への協力を指摘する書簡*3

を送ったらしいけれど、どうやら全くの逆効果だったらしい。「憂国の士」である歴史修正主義者諸君は、このような日本政府の体たらくに猛烈に抗議してしかるべきではないのだろうか。

他にも、韓国の新聞で慰安婦決議で活躍した韓国の外交官を紹介している記事を引っ張り出してきて、韓国ロビーが暗躍しているのがはっきりしたとかうれしそうに語ってるかわいそうな人もいたけれど、慰安婦問題に関して日韓双方のロビーが動いていることなんて明々白々なのだ。もし、慰安婦決議が許せないというなら、「暗躍」した韓国ロビーや中国ロビーを攻撃するのではなくて、それにあっさりと負けてしまった日本ロビーの「ふがいなさ」こそ責めるべきだと思うのだけれど*4、そういった言説はとんと拝見したことがない。

ところで、「中韓ロビーの影響力」なんて妄想は、中国や韓国の影響力を過大評価して日本の影響力をちんけなもの呼ばわりしているってことに「愛国者」諸君は気づいているのだろうか。それこそ、彼らの大好きな「自虐」ってやつじゃないのか、一度聞いてみたいものだ。そんなに中国ロビーが強力ならば、どうしてアメリカ議会でのチベット問題非難決議を阻止できなかったのだろう。もしかして、「愛国者」諸君の頭の中では、チベットロビー>中国ロビー>日本ロビーなんて不等式ができあがってるんだろうか。

とりあえず、今回の「靖国」騒動は、格好の宣伝活動となったのは間違いがない*5。これがなければ見に行こうとは恐らく思わなかった僕も、見てみようか検討を始めたのだから。従軍慰安婦決議の時の「THE FACTS」が決議を促進したように、歴史修正主義大好き連による「愛国的」な行動が一般的な常識からすると眉をひそめられる類のものであり、彼らの意図とは逆の方向に進んでしまうことがままあるということはいい加減気づいたらどうだろうか。多分無理なんだろうけど。

*1:http://www.bunka.go.jp/1bungei/19_hojokin_boshu.html

*2:今のところ、知っている限りでは、アメリカ・カナダ・フィリピン・オランダ・EU・オーストラリア

*3:http://azuryblue.blog72.fc2.com/blog-entry-203.html

*4:もちろん、問題の本質はロビーの力なんかではないことは当然だが

*5:もちろん今後文化庁が政治的な題材を取り上げる映画に対する助成に対して及び腰になる危惧はある。稲田を馬鹿だと笑ってるだけではなく、徹底的に批判していくことは大切である。