武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 3月第1週に手にした本(28〜6)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。

紀田順一郎他編著『ニッポン文庫大全』(1997/11)*世界を旅行してこの国ほど文庫という出版形態が普及している国は見たことがない。日本は文庫天国と言っていい。文庫の新刊が年間五千点を超え、販売部数が一億を超えるという。そんなこの国の文庫の過去現在を含めて、その全貌を俯瞰してみようと言うワクワクする試み。貴重な目録を多数収録してあるので、読むところは多くないが、文庫好きには見逃せない好著。書籍探しに欠かせない必備図書。
山村修著『花のほかには松ばかり―謡曲を読む愉しみ』(檜書房2006/8)*狐の書評こと山村氏の最後の著作、能のシナリオである<謡曲>を、文学的テクストとして読み愉しむという、読書エッセイ、これまでにも謡曲を読み物として鑑賞する試みは本が出ており、全く新しいわけではない。面白い読み物がいっぱいある中で、何故謡曲でなければならないのか、その点は分からないまでも、お勧めの名作の精緻な読み込みと魅力の紹介には、狐を彷彿とさせる魅力がある。おかげで廉価本の謡曲集を2巻入手してしまった。
◎野村八良校訂『謡曲集上・下』(有朋堂文庫1929/10)*上下二巻のハンディーな謡曲選集、200曲を収録、普通に見聞きする能の台本はほぼすべて収録している。昭和4年発行の古さながら本として立派な現役、電子書籍は100年後も大丈夫だろうか。本は年月を超える究極のバックアップか。上下合わせて古本で300円也。
田代慶一郎著『謡曲を読む』(朝日選書1987/6)*謡曲を能の台本としてみるだけでなく、一つの文学作品として、長編詩として読み鑑賞しようという提案、詳細な鑑賞が素晴らしい、謡曲の本文レイアウトが読みやすさを追求し工夫してあり面白い。
◎池田省三著『介護保険論―福祉の解体と再生』(中央法規出版2011/3)*介護保険の根本理念を明解に説き起こした、制度を推進してきた側からの基本図書。介護保険という新たな制度が内包する理念と現実とのギャップを豊富な資料を駆使して明瞭に語っており、介護に関わる行政担当者の必読書ではないか。身の回りの誰かに介護が必要になる前に読んでおきたい本。
◎大熊由紀子著『物語介護保険―命の尊厳のための70のドラマ・上』(岩波書店2010/4)*介護保険法成立までの関係者の動きをドラマチックに捉え返したドキュメント。介護保険が誕生する以前の介護老人残酷時代の痛々しいドラマが背後を流れている。すべて人物を通して語られるので読みやすい。
山根一眞『「メタルカラー」の時代』(小学館1993/9)*トップレベルの現役理工系技術者への聞き取り対談集、当事者の肉声を通して工業技術の現在が読む者に伝わる画期的なドキュメンタリー。中高生に子どもがいたら今でも読ませたい。20年前の本だが古びた感じはしない。20年間の技術革新で現場がどうなったか、今の現場を知りたいと思った。続編も読みたい
松下竜一著『豆腐屋の四季―ある青春の記録』(講談社文庫1983/6)*当時著者は30歳の豆腐屋の長男、30歳にしか書けない生活の軋みが、抒情的な筆致で生き生きと綴られており切々と胸に響く。短歌表現に生きる証しを求めながら、日々の暮らしを文字化していく青年の想いが痛々しい輝きを放っている。60年代のこの国の青春像がここにはある。表現者松下竜一の出発点。
荒山徹著『柳生百合剣』(朝日新聞社2007/9)*先週読んだ「柳生薔薇剣」の続編、荒唐無稽な剣豪伝奇時代小説、伝奇性がさらにヒートアップ、著者が愉しんでいるのか、読者へのサービスのつもりなのか、山田風太郎の忍法シリーズに似てきた。