トラディショナル、クラシック・ミュージックをアニメに使うということ - 「ガルパン」と「みなみけ」

 

 
ガールズ&パンツァーのBGMを聴いていて思ったことのアレやコレやでBLOGを更新!
かなり散漫かつ徒然とした内容ではありますが、最後までお付き合いをいただければ幸いです。
 
 

■「ガルパン」のBGM、個人的には…

ガールズ&パンツァー」という作品について音楽面からアプローチをした際に、そのサンプリングのセンスはピックアップをせざるをえないと思うんです。BGMにはオーケストレーションによる各国の軍歌や行進曲なんかが使われていて、戦車というモチーフを使用したアニメの勇壮なイメージを高めるのに大きな効果を発揮している。
 
ただ、その辺りの音楽に対する知識や歴史に対する興味を持ちあわせておらず、ミリタリー趣味に対して若干の抵抗感を持つ自分のような人間からすると、「ガルパン」の劇伴は色々な意味で"ヘビー"な音楽ではあります。
戦車に対する微細なこだわりに満ちた描写、制作スタッフの情熱には毎回素直に感心をさせられますし、戦略を重視した戦車道の試合内容も観ていておもしろいのだけれど、何も音楽まで徹底することはないんじゃないかなぁ…というちょっと"引いた"目線であのサウンドトラックを聴いている。
 
個人的には、如何にも美少女アニメ然としたOP曲DreamRiserとEDの「複数人の女性声優さんが軽快なテクノサウンドに乗せてユニゾンをしながら歌うポップソング」というアニソンの王道たるスタイルを貫く「Enter Enter MISSION!」が素晴らし過ぎて、BGMもコチラの曲調に合わせて…つまり、もっとアニメらしい音にしても良かったのではないかな…というのが素直な感想だったりするんですよね。
戦車やミリタリーではなくて、可愛い女の娘が沢山出てくるアニメにBGMの方は寄せても良かったんじゃないかな、と。
 
 

■それでも、話題性や演出面では突出した効果が!

とはいえ、先日放映をされたプラウダ高校戦で使われたソ連民謡〜軍歌の「カチューシャ」がネット界隈で話題になるなど、音楽がもたらす作品への効果としては、かなりの成功を収めているようです。
 
■ガールズ&パンツァーを楽しんでいる人にオススメの小説「戦車のような彼女達」
 
そして、メロディーとしてもニュアンスとしても"重くて硬い"BGMがあるおかげで、その反対にポップなメロディーが流れた時に生まれるエフェクトというのもあるわけで、個人的にその高揚感を最も強く感じたのが、サンダース大学付属高校との白熱の一回戦におけるこんなシーン。
 

 
サンダース大付属のフラッグ車を追い掛ける大洗女子学園戦車道チーム。この場面でバックに流れるのは、チャック・ベリーばりに軽快なカッティングの効いたロックンロールなギターサウンド。重量感のある戦車のBGMとしては似つかわしくないメロディーではありますが、おかげでどこかコミカルなニュアンスが画面に生まれ、戦車同士の鬼ごっこをポップに演出する。普段の進軍歌的なBGMとのギャップも楽しく、これなんかは観ていて非常に印象的で良いセンスだな、と感心をしたものです。
 
そういった意味では、やっぱり「ガルパン」の軍歌やトラディショナル・ミュージックを流用したBGMというのは面白いと思うし、アニメにおける作曲術、演出術のテクニックとしても優れていると思うのです。この辺りは、まさにセンスと着眼点の勝利かな、と。
 
 

■「ガルパン」からの「みなみけ」の話

ガルパン」では、軍歌がBGMにサンプリングをされていましたが、それと併せて個人的に語っておきたいのがみなみけ。関東では「ガルパン」と同じ放送局のTOKYO MXにて再放送中なんですが、久しぶりに見返してみたらコレが抜群におもしろい!
 

 
で、みなみけ」では、クラシックの曲が劇中で使われているんです。しかも、それがまたストーリーやキャラクターのイメージにピッタリとマッチしていて、笑いを盛り上げてくれている。保坂先輩のナルシシズムと純愛と変態性がミックスされた気持ち悪さを強調する場面で「ここぞ!」とばかりに使われるバッハの「G線上のアリア」やチャイコフスキー「弦楽セレナーデ」の作品へのマッチ感ときたら!
 
<チャイコフスキー / 弦楽セレナーデ>

 
クラシックの名曲をBGMに流用したアニメは数あれど、「みなみけ」もその選曲の良さが光る作品の一つだと思います。「ガルパン」の軍歌、「みなみけ」のクラシック。後者の地上波での再放送も相まって同時期の作品として自分の中では並んでいるんですが、クラシック、トラディショナルな音楽をそのBGMに使用した作品ということで、どちらもそのセンスが観ていて強く印象に残る作品ですね。新しく音楽を作るのではなく、多くの人の耳に広く知れ渡っている既存曲を使ってアニメに独自のニュアンスを与える、そのテクニックが特に上手くいっている二作品だと思います。
 
 

■おまけ

最後に、いつもの悪癖で、プロレス、格闘技の話題に寄り道。「ガルパン」の世界では、前述の通りロシア戦車の進軍に「カチューシャ」が使われていましたが、"アニメ的で"なおかつ"ロシア的な"テーマ曲ということで、プロレスファンならば真っ先にイメージするのは「The Red Spectacles」でしょう。
 
押井守監督のケルベロス・サーガの出発点である「赤い眼鏡」のメインテーマ。この曲を入場曲にしていたのが、80年台末に新日本プロレスに登場をしたサルマン・ハシミコフ、ビクトル・ザンギエフらロシアのプロレスラー集団レッドブル軍団」でした。
 
<イゴール・ボブチャンチン入場曲 / The Red Spectacles>

 
レッドブル軍団が使用したことで、"ロシア"的な曲としてプロレス、格闘技ファンの世界で定着をしていった「The Red Spectacles」。PRIDEで活躍をしたウクライナ総合格闘家イゴール・ボブチャンチンがテーマ曲に使用したことで、更にそのイメージを浸透し、近年でも旧ソ連圏出身、或いはそのギミックを冠したプロレスラーによって使われ続けている"名曲"です。
 
旧ソ連圏、社会主義国家出身のアマレス上がりのプロレスラーであり、ロシアにおける最初期のプロスポーツ選手集団だったレッドブル軍団に押井映画のテーマ曲をあてがった当時のスタッフのセンスには驚嘆するより他ありませんが、この荒涼としたメロディーは如何にも"ロシア"的であるな、などと20数年経った今でもシックリときます。
 
どなたか、「The Red Spectacles」に乗せて進軍をするカチューシャとノンナさんのMAD動画とか作ってくれないですかね。"北の最終兵器"としてのイメージにピッタリな「赤い眼鏡」。恐らくは、必要以上にマッチする。