「スペース☆ダンディ」の映画リスペクトと映画音楽へのオマージュ

 

 
スペース☆ダンディがおもしろい。エピソードとしては、毎度"一話完結"のコメディー作品ながら、故に各話の自由度が高く、脚本家やコンテマン、演出家の顔ぶれによって実に多彩な作風で魅せてくれる。
 
中でも、個人的に興味をそそられるのが映画的な要素を持った各エピソードだ。今回のエントリでは、「スペース☆ダンディ」と映画、そして音楽についてアレやコレやと書いてみたい。
 
 

■「スペース☆ダンディ」と映画

スペース☆ダンディ」というアニメは様々な面で映画からの影響を感じさせてくれるアニメ作品だ。中でも、ここ最近のエピソード…第3話「騙し騙される事もあるじゃんよ」、第4話「死んでも死にきれない時もあるじゃんよ」、第5話「旅は道連れ宇宙は情けじゃんよ」…という3つのエピソードは強く"シネマ"的な要素を持ったストーリーだったように感じた。
 
第3話は、異星での異形の怪物との戦いを描いたSFホラーで、第4話は、ゾンビ映画の王道を行くスプラッターホラー。そして、第5話は、主人公のダンディと異星人の少女の出会いと別れを旅路を絡めて描くエモーショナルなロードムービー…といった具合に、この3つのエピソードはいずれも非常に映画的であり、各映画作品へのオマージュに満ちた話数だったと言えるだろう。
 

 
例えば、三條なみみ(難波日登志)さんの絵コンテによる第3話「死んでも死にきれない時もあるじゃんよ」をピックアップしてみれば、ノロノロと蠢く死体に、ショッピングモール、ヘッドショット、重火器をもってしても敵わない多勢に無勢の使者達の襲撃、そして、屋上のヘリポート…とゾンビ映画の始祖たるジョージ・A・ロメロの映画「ゾンビ」(原題"Down of the Dead")への愛とリスペクトがタップリと込められた仕上がりとなっている。エレベーターが上がってくるシーンで中からゾンビが溢れ出てくるシーンなんて、「ゾンビ」ファンならば思わず笑ってしまう場面だろう。そりゃ、ゾンビ映画ならばエレベーターの中はゾンビだらけだと相場が決まっている。こういうロメロ制作のゾンビ映画の"お約束"を忠実に守りながらストーリーが展開をしていくのだ。
 
ちなみに、前半ではコッテリとしたヴァイオレンスを絶妙な笑いのエッセンスを交えながら描き、後半ではブラックなジョークが炸裂するナンセンスなコメディーを繰り広げる本エピソードのラストは、ご丁寧にも本家「ゾンビ」のオープニング・シークエンスを主人公たちが映画館で鑑賞する…という一種のメタ的な描写をもって完結をする。強く"映画"を意識させられる脚本と絵作りだ。
 
 

■「スペース☆ダンディ」と映画音楽

さて、そんな「スペース☆ダンディ」の映画的な雰囲気を脚本や絵コンテとは、また別のエモーションでもって盛り上げてくれるのが劇中音楽の存在だ。本作では主題歌を歌う岡村靖幸さんを始め、多数の有名ミュージシャンがスペース☆ダンディバンド」名義にて楽曲を提供しているが、そんな中で本作の公式twitterにておもしろいツイートがあったので、ここでちょっと取り上げておきたい。
 
 
第3話「騙し騙される事もあるじゃんよ」でクラムボンのミトさんが手掛けたBGMが、実はホラー、SF映画の巨匠(ただし、そこには"カルト監督"というあだ名も同時に付くけれど)たるジョン・カーペンターを意識して作られていたというお話で、これなんかは非常に興味深い発言である。
 

 
件のBGMは、恐らく美少女(cv.は竹達彩奈さん!)の姿をした人食いエイリアンが、遂にその本性を現す…という緊迫感に溢れた場面で使われていたノイジーな音がそれなのではないかと思う。
 
「ハロウィン」「ザ・フォッグ」「クリスティーン」「ニューヨーク1997」〜「エスケープ・フロム・LA」「ゼイリブ」…といったSF、ホラーのクラシックを生み出した名監督であるジョン・カーペンター。この映画監督の特徴として、映画作り、シナリオライターとしての才能に加え、類稀なる音楽的な才も有していた…という点が挙げられる。監督作の多くで、カーペンターは自身で劇中のBGMを手掛け、「ゴースト・ハンターズ」という映画のテーマソングでは自身でバンドを組み、「Big Trouble in Little China」というポップ・ミュージックを制作。何と、本人主演のPVまで制作しMTVでのミュージックビデオデビューも果たしている。
 
<John Carpenter's Coup de Villes / Big Trouble in Little China>

 
その音楽の特徴は、不協和音を多用したノイジーなメロディーで、「スペース☆ダンディ」でミトさんによってオマージュされたBGMも如何にも"カーペンターらしい"出来となっているように感じた。思えば、一見美少女の外見をした宇宙人が不気味な姿を表すシーンなんかも、「遊星からの物体X」や「マウス・オブ・マッドネス」で人体を過激に変形、破壊しグロテスクなホラーシーンやモンスターを生み出し続けたカーペンター的な表現だ。
 
<マウス・オブ・マッドネス / Trailer>

 
他にも、前述の第3話のゾンビ回では、如何にも80年代スプラッターホラーチックなシンセサウンドが用いられているし、第5話のロードムービー回(このエピソード単独だけでも感想エントリを書きたくなる程の傑作!)では、この手の映画の金字塔たるパリ、テキサス」におけるライ・クーダーのギターの音色よろしく、スライドギターのエモーショナルなメロディーが画面を彩ってくれている。
 
この辺の音楽も恐らくは、件のカーペンターの様に、元ネタとなった映画作品の雰囲気に合わせてミュージシャンサイドに楽曲の製作を依頼しているのではないかと思う。映画への強いリスペクトがあるからこそ、その音楽にもこだわる。カウボーイビバップサムライチャンプルーを愛する渡辺信一郎監督ファンならば、渡辺監督と映画の関係、音楽との繋がりは今更何をいわんやだろうが、最新作の「スペース☆ダンディ」でもそのセンスは如何なく発揮されていたことを受けて、このエントリを記す。
 
 

■おまけ

スペース☆ダンディ」でカーペンターと言えば、もう一つ興味深い話があって、それというのがスペース☆ダンディバンドのメンバーである元ナンバーガール、現ZAZEN BOYS向井秀徳氏と渡辺監督がジョン・カーペンターとプリンスの話題で意気投合」し、向井氏の楽曲への参加が決まった…という話。ジャパニーズ・オルタナティヴ・ロックの代名詞的なミュージシャンと「ジョン・カーペンターとプリンス」という不思議な組み合わせで嗜好が合致したというのもおもしろい話だが、かつて"和製プリンス"と呼ばれた岡村靖幸さんが主題歌を歌っている…という巡り合せを見るにつけ、つまりはそこには強い必然性があるんだろうなと思わされる。「スペース☆ダンディ」とジョン・カーペンターとプリンスか…何か分かる気がするなぁ…。
 
岡村靖幸 / ビバナミダ>