わくわく木版画

木版画入門教室やっています。https://iihanga.com/

木版画と色使い:色の使い方は人それぞれ

                                        木版画:ラディシュ                                 生徒作品:M/M

 

木版画の色は、筆書きの色とは違う。

同じ絵の具を使っても、描画と版画では発色が異なる。

 

わたしが描画より版画に惹かれたのも、木版画の発色の美しさのせいだった。

あえて変な言い回しになってしまうのだが、

木版画では、美しくない色も美しくなってしまう」

と感じて、感動したのであった。

 

★平滑な面と平滑な着色の効果

描画の色と木版画の摺りの色とが違ってくるのは、

光の反射のせいだろうと考える。

 

筆で描けば、絵の具は用紙の上に筆跡を残しながら定着する。

筆跡というのは要するに刷毛目の凹凸だ。

 

光はこの凹凸にあたって乱反射する。

 

一方、木版画の場合は、糊分を加えながら、バレンで摺る。

用紙の裏からバレンで擦られて、絵の具は平らに広がる。

筆跡に比べると、摺りのあとの絵の具面はほぼ平らかである。

 

ここに光が当たれば、一定方向から来た光は、一定方向に反射する。

平行に反射するから色の輝度が保たれる。

筆跡の凹凸があると、光はあらゆる方向に乱反射して輝度が落ちる。

 

だから、版画の色合いは中間色であっても鮮やかに見えてくるのだ。

 

 

★色使いの間隔は人それぞれ

色使いは人それぞれだ。

濃い色が好きな人、淡い色が好きな人、けばけばしい強烈な配色が好きな人、

中間色の落ち着いた配色が好きな人……といろいろだ。

 

画像作品の作者M/Mさんは、純色が嫌いで、必ずグレイ調の配色でまとめていた。

それも濃度も決して高くはない色である。

いかにも水性絵の具の発色がお好きのようだった。

 

冒頭の作品も、調和の取れた灰色味の背景に、純色の淡い赤と

白抜きの根の色合いが鮮やかにうかび出て心地よい。

赤と緑の補色対比も、ぐっと押さえられたバランスになっていて、

声高でない穏やかな命の有り様を見せてくれる。

作為のないいい作品だなー、と何度も眺めているのです。

 

 

絵の具の濃度で同じ図柄でもイメージは異なる

水辺の風景=睡蓮池とトンボ  生徒作品:T.S

★東西の木版画

昔ながらの日本の木版画の魅力は、水性絵の具を使った色であること、そして、和紙に摺ることによって得られる効果が最も大きい。そのことによって、必然的に西洋の木版画とは趣を異にする作品が生まれてくる。

 

日本の木版画の独特の柔らかい調子は、この二つの特性があって生まれている。

・水性絵の具と油性絵の具

・パルプをコーティング剤で固めた洋紙と、細かな繊維の絡みを漉きあげて膠でにじみ

 防止加工をした和紙

この2種類の素材の違いゆえに、制作技法さえも自ずと異なってくるのである。

 

油性インクをゴムローラーで版面に広げるとき、インキは版面のみにしか付かない。

だから形さえきちんと彫れていれば、凹みの処理が少しいい加減でも、まったく影響はない。

 

しかし、刷毛を使って水性の絵の具を版面に広げるとなると、絵の具は版面のみならず、凹みの部分にも付いてくる。しかも、形の際の彫り方が垂直的で深すぎると、刷毛が通るときに、ぶつかってしまい、刷毛の中の絵の具がこそぎ落とされて、そこに絵の具の溜まりを生み出してしまう。

 

 

★凹みの彫り方

それを防止するために、凹み部分を滑らかな斜面状に彫る技術が必要になる。版木では、図柄の形の面以外の部分は「浚い部分」として凹みに彫らなければならない。浚い部分の面積が広いときには、湿した和紙が、自分の重みで垂れやすくなる。浚いが浅かったり平らだったりすると、垂れた和紙が浚いの底にくっついて汚れを出す。

 

この汚れを「ケツ落ち」と呼びます。

 

「ケツ落ち」を出さないためには、浚いの面の中心部分に向かってお皿状に中心部分が深くなるように滑らかに彫っておかなければならない。この皿状に深くするというのが初心者にはイメージしにくいようで、どうしても断崖状に深く彫りすぎたり平らに彫ってしまうことになる。

 

 

★色の濃度の違い

色の使い方には人の好みがあって、水っぽくサラリと透明感のある色使いが好きな人や、絵の具を濃い目にして不透明な感じの色合いを好む人もある。上にあげたT.Sさんの「睡蓮池」の作品は後者である。しかも、濃い目のグレー調で色が統一されていて、ちょっと重い感じの作風である。

 

同じような題材をモチーフにしても、人それぞれの感性で色調が違ってくるので、感覚的には随分異なった感じの作品ができあがる。

 

木版画の場合は、そうした個々の感性を少し強調したほうが、作品自体が面白くなると思っている。一番つまらないのは、用心しいしい上手そうに作る作品である。ただ、小綺麗に作ろうとしたものは、弱々しく、基本的に版画の特性であるインパクトに欠ける。だから、なんの味わいも感じられないのだ。

 

 

少し意図的に下手を押し出すくらいが、木版画の特性であるインパクトが生まれてきて、人の興味を引くことになる。

 

 

 

 

啄木と漱石へのオマージュ木版画展:本郷三丁目立野画材店

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石川啄木さんへのオマージュ  「時代閉塞の現状を 奈何にせむ
                  秋に入りてことに斯く思ふかな」

東京は、文京区の本郷三丁目、といってもわからない人にはわからないね。

 

本郷三丁目」という地下鉄の駅を出て、東京大学へ通う道筋です。

あ、失礼! 通うって、わたしが通うわけではありません。

東大生や東京大学にお仕事のある方たちが……。

 

有名な東京大学の赤門に向かう途中に、立野画材店があります。

そこで木版画の展覧会をやっていました。

Satokoさんという方の展覧会です。

 

6裁といいますから、玄関ドアを6分の1に裁断した大きさ。

すべてそのサイズの白黒一色の木版画が、20点も展示されていました。

3月13日までの会期だそうです。2022ですね。

 

いやー、すばらしいです。

一見素人っぽい面もありますが、とにかく己が描きたいものを如何に表現しようかと、そればっかりを考えて制作したような作品ばかりです。

 

衒(てら)わず、真摯に描きたいから描く、彫りたいから彫る。

そんな作者の気持ちが、ドバーッと画面から溢れ出しています。

これって一番難しいことですよね。わたしは、そこに感嘆してしまいました。

 

そして、その気持ちを失わないまま、

彫り跡の表現効果をしっかりイメージし、

工夫しながら彫り進めてあります。

 

ここに掲げた「啄木の肖像」だけをみても、

どれだけイメージを転がしながら彫り進めていったかよくわかります。

 

それに、特別に技術的ではないのですが、

部分ごとの摺りにもかなり意識を集中して摺り上げてあるのです。

 

木版画は楽しい! 

そんな声も響かせながら、苦もなく彫り上げたかのような作品が

すべて夏目漱石の一節、石川啄木の一詩からのイメージ、

そしてオマージュとして表現されています。

 

 

おすすめでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ぼかしの技術:こすり込むようにぼかす

ぼかしは、木版画の表現の中でとても大切な技術です。



筆で絵を描く時のように、感覚の赴くままに、好きなように好きな色を重ねていく、
そういった芸当は、木版画ではできません。

一つの版は、一つの色になるからです(基本的には)。



そこでぼかしの技法が生きてきます。



ぼかしを加えることで、色面に変化がつき、
微妙な変化が感情を表現してくれるからです。





ぼかしにも色々なぼかし方の技術があります。



この作品で、ぼかしている青い色は、
わずかの色を擦り込むようにして版面につけて、微かなぼかしを作っています。



写真はガラス面がついたままの撮影なので、青い色は広がって見えていますが、
本当は、人物の周りを取り囲む青い色のオーラのように、
わずかな青みがぼかされているのです。



このぼかし方は、根気と版面の状態をしっかり理解して実施します。



版をまずしっかり絞った布でわずかに湿らせます。
そこへ、ほとんど水気を拭き取った刷毛先にわずかの青い絵の具をつけて、
こすり込むように刷り込んでいきます。
当然、外側へぼかされていくようにすり込みます。


わずかの水分で作業しているので、すぐに乾燥してしまいますね。
乾燥してしまうと、紙に絵の具はつきません。
だから、湿り気がなくならないうちに、摺りあげていくのです。


一度に広い面積はできないので、何度かに分けて、全体をぼかしていきます。
ということは、1回目と2回目の間が濃くなったり、とムラができやすいのです。
その点にも気を配って作業していくので、根気が必要になりますね。


ほのかに加わったぼかしは、ベタの色面にない深い感情を表現してくれるので、
これは得難い技術なのです。








木版画:展覧会


木版画「ネコ」       工房ゆうホームページ http://kobo-yuu.kir.jp

4,500円(額付き・送料別)


 大変な世の中になっていますが、東京は桜が散り、
新緑の芽吹きが日々新鮮です。緑の芝生には、たった一輪なのに、
赤いチューリップがまぶしく目に飛び込んできます。

いろんな色があるけれど、新緑の若い緑と赤い花の組み合わせは、
ほんとに生命の色だなー。


 6月14日(火)から6月19日(日)まで、西武池袋線練馬駅すぐそばの
小さなギャラリーで、「工房ゆう」展を開くことになりました。

 ギャラリー展示はしないつもりでしたが、どういうきっかけだっ
たのか思い出せないが、日ごろお世話になっているギャラリー主さ
んの甘言に誘われて、1回だけやることにしました。

 特に目新しい展示ではありません。ゆうの始まりから今という
(きっと誰も知らないので)展示で、雑多な形式のなかで工房を
振り返ろうかと思っています。

 近日になりましたら、マップ等、また記載したいと思います。
「乞うご期待!」ではないけれども、普段足を運ばないところへ
お出かけするのも、また新鮮ですよ。

 初物は75日命が延びると言われております。初所もそれくらい
延びますかしらん?
 
 では、また追って!

木版はがき:ミニトマト


木版はがき「ミニトマト」  工房ゆうホームページ http://kobo-yuu.kir.jp

150円

 久しぶりの、ほんとに久しぶりのブログです。
 年明けから今年は調子が出なかった。もともと弱点の喉・鼻が正月明けから妙に調子が狂った。犬のように鼻が渇いて詰まる。喉は、痰が詰まったように息苦しく、頭が重く、じわ〜んと気が遠い。

 子供のころから冬になると鼻の調子が悪く、蓄膿症状が起こってぼんやりと意欲が減退していた。20代前半にも久しぶりの中耳炎にオタオタし、明け方から耳鼻科に電話して出向いたら「可愛い坊やが来るかと思ったら、熊だった!」なんて、言いたい放題のこと言われても、反撃の気力は湧かなかった。

 しばらくそんなこと忘れて暮らしていたのに、今年は急に調子が狂ってきた。ものすごくひどいわけではないが、体調いいわけでもなく、どろんとした気分のうちに瞬く間に月日だけが過ぎていった。寒気と乾燥にはもともと体がついていかないようだ。春もまた陽気が異常だった。いつまでも空気が冷たく、4月になっても体調は改善されなかった。6月に入るころになって、ようやく暖かくなり、徐々に体のことが気にならなくなった。

 そんな訳で、ようようブログに向かう気力が出てきたところです。やっぱり俺って、ピテカントロプスエレックス? だったんだな。夏の方がずっと元気でいられる・・・と思いながら。で、取り出したのが「ミニトマト」でした。やはり、赤い色は元気の源です。さあ、頑張ろうという気持にぴったりです。

 とても単純な版です。ミニトマトの丸い形に、ピカッと光るトップライトを彫り込んだのが基本の赤版。それに立体感をつけるための陰影の赤紫版を重ねます(摺り順はこちらが先ですけれど・・・)。最後に緑版でガクを付ければ出来上がり。赤と緑は補色(真反対の色味)の関係なので、色彩的にコントラストが付き、赤はより一層赤く見えるという色の原理です。

 野菜が人気の昨今ですが、トマトは特に一年中人気ですね。ミニトマトもプチとかミニとか呼ばれていますが、かつては決まった品種しか出回っていなかったのに、最近はびっくりするくらい多品種です。テレビの受け売りですが、トマトは何百種類という品種が市場に出回っているのだそうです。そういえば、買い物の店が変わると、売っているトマトの品種が変わる。そんな感じがしないでもありません。

 さ、最後にちょこっと宣伝です。これまで中途半端な工房ゆうのホームページでしたが、このところだいぶ改造されてきました。現在のスカイツリーより高くなっている出来栄えか、と思います。リンクからのぞいてみてくださいね。
 

木版はがき:水芭蕉


木版はがき「水芭蕉」   工房ゆうホームページ http://kobo-yuu.kir.jp
200円

 久しぶりのブログです。何ヶ月経ったのか? ちょっとあきれるが、いろんなことやらなきゃならないのに、時は無常にも非情にもこちとらの思惑など無関係にロケットダッシュで過ぎていきますね。そのときやりたい! と思っていることが終わらない限り、その一日は終わらない・・・といった時制に作っておいてくれたらよかったのに、神様は!! と言いたくなる毎日です。

 どこかひとつをまずクリアしなければと、中途半端になっていたホームページの改良修正にトライし、メインの3ページをなんとか作成。まだ、表組みが崩れたり・・といった不備がたくさん見えるけど、そこは許して、許して!精神で目をつぶることにして、昨夜UPしました。みなさん是非見てください。そしてご意見ください(そのときは訂正方法も丁寧に書き込んでくださいよ!)。勝手知ったる指導者様の追いつけない指導をなんとか理解し、ともかく一人でここまで作りました。

 で、今朝、喫茶店でコーヒーを飲みながら、買ってあった「HTML]の参考書、買ったときはちんぷんかんぷんでぱらぱらポンと書棚に戻してあったものに目を通してみたら、ふーんふーんという感じで最後のページまで楽しく読めてしまった! ますます勉強に励んで、もうちょっときちんとしたページに改良していきます。

 うん? こんな文章と水芭蕉、何が関係あるんだ、と言われそうだから、水芭蕉にいきます。

 さて、クルマユリから一気に水芭蕉に飛ぶってあんまりじゃないかと抗議されそうですが、これからはこれほど間を空けないようにがんばりますから、今日のところは我慢してください。

 ところで、水芭蕉って初夏の花なんじゃない? と思っている人が多いんじゃないかと思います。実は早春の花なんです。しかし、世に喧伝した江間章子さんのあの『夏の思い出』という歌のおかげで、夏の花と思っている人が多いようです。特に団塊の世代に近い年齢の方々はそうじゃないですか? なにせ、

    夏が来れば 思い出す
    はるかな尾瀬 野の小道
    ・・・・
    水芭蕉の花が 咲いている
    咲いている
    夢見て 咲いている
    水のほとり ・・・・

 という歌詞を見、歌を聴けば、誰だって夏の花だと思うに決まっていますよ。しかし、本当は雪解けの早春の花なのでした。東京あたりでは、3月も半ばになりますと、箱根の湿原で水芭蕉の花が咲き始めました、と必ずニュースになります。信じられないという方は、もう一月ばかりしたらニュースに耳を澄ましてください。

 今回の版は、とりたててどうこういうような点はありません。春の柔らかなみずみずしさを色合いでどう出すか、ちょっと苦心はしましたけど・・・。