第81話 Kissing You Remix大会

スマン「今朝電車に乗っとったらな、サラリーマン風のオヤジがウォークマン聴いてて…」
ヨンミン「ほぉ」
スマン「ニコニコしながら曲に合わせて小さく踊っとるんよ」
ヨンミン「そらまたファンキーなオヤジですな。ダンサーか何かでっしゃろか?」
スマン「いや、あれはどーみても素人。ただ耳から入ってくる音楽に、無意識のうちに身体が動いておる感じやった。で、そのダンスっちゅうのが…♪鬼団子 海苔自慢 ラー油よ(クネクネ)」
ヨンミン「先生は踊らんでええです。かえって何の歌かわからんよおなりますさかい」
スマン「いおやいや、ワシかて元は歌手、アイドルソングのひとつくらい…♪鬼団子 海苔自慢 ラー油よ(クネクネ)」
ヨンミン「あー、アイドルソングなんですな。てゆわれても、そんな妙ちくりんな曲は聴いたことありまへんな。料理の歌かと思いましたがな」
スマン「そお? アイドル曲ゆうても元歌はオールドロックでこんな感じやで。♪おりだご のりじ まらいお〜
ヨンミン「(ぶー)ひょっとして『少女時代』でっか?」
スマン「ピンポーン、ご名答。てか“ぶーっ”てなんやねん」
ヨンミン「失礼しました(めんごめんご)。なるほど、つまり少女時代が『少女時代』でオヤジの懐に潜り込む作戦、上手くいっとるってことですな」
スマン「そやねん。ワシの狙い通りや(えっへん)」
ヨンミン「さすが先生。えらいえらい」
スマン「うむ。その気の入ってへんヨイショの仕方、ドM心に染みて心地ええど。で、あの悪童どももせっかく売れて来た事やし、この勢いを維持させにゃあかんで」
ヨンミン「それはもう今年の最優先事項として、現場にも各チーム長にも重々ゆうてあります」
スマン「次の活動曲はなんやったっけ?」
ヨンミン「『Kissing You』ですな。イ・ジェミョンがとんでもなく可愛らしい曲に仕上げまして」
スマン「ああ、聴いたで。『少女時代』と違うて、オリジナルだけに連中の真価が問われる訳やが、あの歌なら放っておいても売れるやろう」
ヨンミン「同感です」
スマン「そやけど、同期のワンダーガールズは計り知れんほど強敵や。多少売れたところで、まだ何倍も差をつけられておるのを忘れたらあかん」
ヨンミン「肝に銘じます」
スマン「うーん。後続曲ゆうてた〜だカムバックさせても『Tell Me』みたいに社会現象を巻き起こせるとも思えんし、どーしたらええやろ?」
ヨンミン「放っておいても売れるゆうたやないでっか」
スマン「もっと売りたいの! いつまでもJYPの後塵を拝んでるのはイヤなの! 判る?」
ヨンミン「判りまっけど、ゆうたって敵はJYP。そのうちポカして勝手に沈んでいくと思いますが」
スマン「いやー、去年の売れ方見とったら全然安心出来ん。今年もレトロアメリカン路線で売りまくるんちゃうの?」
ヨンミン「確かにあと2〜3曲はそれで行けるかも知れまへんね」
スマン「なに他人事みたいな顔してんねん(怒) せっかくオヤジにも知られるよおなってワンゴルとはちゃう売れ方をしてきたところや、『Kissing You』ではもっとだくさんの人に知られて地上波で1位獲れるよお、なにか作戦を考えなさいよ」
ヨンミン「御意。ほなプロモーション部門を集めて早速会議しまひょ。それにしてもあれでんなぁ、先生の口から『Kissing You(あなたにキスします)』なんて言葉が出ると、異常に気持ち悪いですな(はっはっは)」
スマン「やかましーわ」



じゃーん!


テヨン「てことで、上層部のアホどもが考えたんがこの“Kissing You Remix大会”ちゅうペン参加型イベントなんやて」(註)
ジェシカ「確かにYoutubeなんかにペンが作ったMix作品がときたまアップされとるけど」
ティパニ「如何にもアホが考えそおな安易な企画じゃな」
ユリ「RemixちゅうとやっぱClubノリになるんやろうなぁ」
テヨン「そらまぁRHYTHMER(黒人系音楽サイト)との共催ゆうことやから当然そおやろな」
ヒョヨン「こんな感じやな。♪アホやな〜(そおやでアッホやっで) アホやな自分 オンナを追っかけ回してまたドジしとる〜
ソニ「うわ、懐かし。パーク・マンサーや」
ジェシカ「てか『Kissing You』ちゃうやんか」
ヒョヨン「Remixやもん。軟式globeと混ぜられる可能性かてある」
ユナ「それはいややなぁ」
ソヒョン「でも元歌はあくまでウチらの曲になる訳やろ? あのキャンディなアレンジを軟式globeと混ぜるのは無理やで」
テヨン「ところがぎっちょん、どんなMixも出来るよおにMR抜きのトラックを配信するんやて」
ユリ「げぇ。アカペラトラックってこと?」
ソニ「なんでそんな無謀なことするねん?」
テヨン「その裏には、少女時代はワンゴルと違うて歌だけでも十分聴かせられる完成度の高いグループや、と世間に知らしめる目的があるらしい」
ヒョヨン「いや、ユリはあかんやろ。ワンゴル以下やもん。こいつのパートだけカゲ歌のプロに歌わせろや」
ユリ「自分にゆわれたないわい」
ヒョヨン「ウチはメンボいち歌ウマさんやってゆうてるやろ、いつも」
スヨン「どーでもええし(むんぎゅむんぎゅ)」
ジェシカ「とにかく、これを機に世界中のペンがアカペラを聴いて、ウチの上手さと声の甘さに痺れる訳やな」
ヒョヨン「そんでユリの歌の調子っ外れさに失笑を隠せなくなる訳や(笑)」
ユリ「しつこいな」
ティパニ「RHYTHMERやからアメリカの黒人が仰山曲作ってきたりして」
テヨン「ところが国外からではアカペラトラックはダウンロード出来んのやそおや」
ティパニ「は?」
テヨン「いたずら防止のためかDLには登録が必要で、国外居住の人間はそもそも登録が不可やねん」
ティパニ「えー? おとんに聴かせよお思うたのに」
ジェシカ「(うきーっ)だいたいウチら世界的活動を睨んだグループゆうてデビューしとるのに、上層部は履行する気あるんか?」
テヨン「海外配信は金がかかりすぎるんやて。自分らの給料1割減らすなら世界中に配信してもええてゆわれた」
ユナ「そんで」
テヨン「断ったがなもちろん。ほんなら韓国だけでええ、ゆうて来た」
ヒョヨン「そおゆう事情なら仕方ないな」
ジェシカ「うむ。今回は諦めよう」
ティパニ「ええんかい(呆)」
ソヒョン「それにしてもRHYTHMERもケチやなぁ。こんな安い企画でまともなRemixなんか送られて来るんか?」


ナレーション:ところが韓国のアマチュアMix職人のレベルは高かった。あっという間に完成度の高いRemix作品が続々と送られてきたのである。



Kissing You House Remix


スマン「わっ、こりゃ驚いた」
ヨンミン「よお出来とりまっしゃろ?」
スマン「ここまでちゃんとしとるとは思わんかった。びっくりポンやで」
クッキーマン「DTMの機材も手に入りやすくなりましたし、こおゆう技術は日進月歩ですなぁ」
スマン「なにより少女時代に対する愛が感じられるやないか。あんなアホで身勝手な娘らやのに、ペンちゅうのはありがたいことやで」
ヨンミン「御意」
スマン「ほなこの作品をグランプリに」
ヨンミン「ちょ、ちょっと待ってください。まだ試しに一曲聴いただけ。応募作はまだまだごまんとありますさかい」
スマン「ホンマに? ホンマに5万点も応募来たん?」
ヨンミン「いや、5万は言い過ぎですが(子どもか、おっさん)」
クッキーマン「やっぱ多いのはこのHouse系のMixで、他にもいくつか来てます」



Kissing You -GOGO HOUSE REMIX-


スマン「わ、これもよお出来とるやないの」
ヨンミン「そおなんです」
スマン「ほなこれを1位に」
ヨンミン「待ちなさいって。しつけの悪い犬かホンマ」
クッキーマン「他にもアコースティックバージョンとか」



Kissing You -GOGO Acoustic Flavor REMIX-


クッキーマン「クリスマスチックなMixとか」



Kissing You [Carol Remix]


ヨンミン「てな感じで幅広く来てますけど、House系の次に多いのはSchool Rock系でしょうか?」
スマン「スクールロック系? カレッジフォークなら知っとるけど」
ヨンミン「ふるっ」
スマン「♪人は誰もただ一人 旅に出〜て〜
ヨンミン「ええから」
クッキーマン「スクールロック系とは、こおゆう奴ですわ」



Kissing You Skool Rock


スマン「ああ、なるほど。シューベルツとはだいぶ違うな」
ヨンミン「当たり前ですがな」
クッキーマン「あの娘らが出た『School of 楽』のイメージが強かったよおで、いくつか同じテーマで作品が来てます」
ヨンミン「高校生グループの少女時代にイメージぴったりでっしゃろ?」
スマン「来月おおかた卒業しちゃうけどね(笑)」
ヨンミン「余計なことゆわんでええです」
ヨンミン「とにかく、締め切りまでにあと何曲来るかわかりまへんが、選考して1位を決めにゃあきまへんな」
クッキーマン「そおですね。優秀曲はシングルで発売するゆうてますし」
スマン「え、そんなこと誰がゆうたん?」
ヨンミン「先生でしょうが」
スマン「えー?」
ヨンミン「例によって口から出任せやったとしても、もはやそれでRHYTHMER巻き込んで動いてますし、責任とってもらいますで」
スマン「めんどくさいなぁ。でもまぁええか。優秀な奴ならユ・ヨンジンの代わりに雇うてもええし」
クッキーマン「ひどいことゆうなぁ」


ナレーション:と言う訳で2008年2月、Remix大会の選考会が少女時代も交えて内々で行われたのだった。



Kissing You Remix Mix


ヨンミン「とにかく数が多いので、比較しやすいよおに一本にまとめておいた。これで判断するよおに」
ユリ「ちゅうても聴いてる内にどれがどれやら判らんよおなる」
ヒョヨン「アホやからや(笑)」
ジェシカ「あのー、この中に“With Love, J”Mixが入ってないんでっけど」
ヨンミン「なんやそりゃ?」
ジェシカ「ウチがMixした大傑作やがな」
ソニ「はぁ? 自分も企画に参加したんか?」
ジェシカ「そおや。いつかきっとウチが自分で作詞作曲する時が来る、今の内から修行を怠るなちゅう天啓が下ったもんで、一発気合い入れて作ってみた」
スヨン「いつそんな天啓が?」
ジェシカ「んー、寝てる時やったな」
ユリ「自分、一日の大半寝とるやないか。答えになってへんど」
ジェシカ「とにかく、ウチが寝る間もちょっと惜しんでMixした“With Love, J”バージョン、候補に入っててないところを見ると、選考委員会が紛失、あるいは消去した可能性がある。ウチの作品をぞんざいに扱ったとすれば大問題やで。マスコミにリークしたるからな」
ユ・ヨンジン「失くしも消しもしとらんがな。あれは予選落ちじゃ、ボケ」
ジェシカ「よ、予選落ち?(がーん) この世にそんなワードってあるん?」
ユナ「めっちゃあるで。おねえもドラマのオーディションに出たら判る」
ユ・ヨンジンジェシカが作ったとは気づかんかったけど、とにかくアレはダメや」
ジェシカ「ダメてなんでですのん? ちゃんと理由をゆうてください」
ユ・ヨンジン「そもそもリズムが合うとらんし、伴奏と歌のバランスもめちゃくちゃ、DJとしてのセンスが欠片も感じられん」
ジェシカ「ひーっ」
ユ・ヨンジン「決定的なんは他のメンボの歌が消されとって、自分のパートしかないってことや」
ジェシカ「だってウチ以外の声ってジャマなんやもん」
ユ・ヨンジン「そんな作品が少女時代のMix曲とゆえるか、どアホ! 他人の声がジャマならさっさと独立してソロでやれ!」
ジェシカ「きびしーっ」
クッキーマン「まぁまぁ、シカかて企画を盛り上げたい一心で参加しただけです。悪気があった訳じゃありまへんよって」
ユ・ヨンジン「ふんっ。あんな下手くそなMix、こっちの耳を壊そうゆう悪意しか感じられんわ」
スマン「ずいぶん厳しいのぉ。そんなら自分のお気に召した応募作はなかったんかい?」
ユ・ヨンジン「いや、“With Love, J”以外ならどれもたいがい良かったっすよ」
ジェシカ「あらっ(こけっ)」
ヨンミン「その中で順位をつけるとすると?」
ユ・ヨンジン「うーん。…やはり少女時代のイメージにマッチしておることと、曲の完成度からゆうて“Skool Rock”っすかねえ」
ヨンミン「やっぱ自分もそお思うか?」
クッキーマン「Remixちゅうより始めからこおゆうアレンジやったみたいにピッタリですもんね」
ユ・ヨンジン「むしろRemixの醍醐味が味わえなくてがっかりみたいな部分もありますけど」
スマン「そこは仕方なかろう。自分ら少女時代はどお思う?」
ジェシカ「With Lov…」
ばきっ
ジェシカ「わーっ!(ごろごろごろどーん)」
テヨン「ま“Skool Rock”でええんやないの。ちょっと新鮮な感じもあるし」
ティパニ「同感でーす」
ソニ「ええと思いまーす」
スヨン「腹減ったー」
スマン「よし、ほなこれをリパッケージアルバムのボーナストラックにするで」
ヨンミン「ほら、また違うことゆうてますで」
スマン「え?」
ヨンミン「デジタルシングルやってゆうたでしょ」
スマン「そやったっけ? でも正規アルバムに入れてあげた方が作った方かて喜ぶと思わへん?」
ヨンミン「そら喜ぶでしょうけども」
スマン「もお決めたもん。これはリパケのボーナストラックにする!」
ヨンミン「そやけどデジタルシングルにするゆうて応募かけたんでっせ。RHYTHMERにもどない説明するんでっか?」
スマン「(うきーっ)ほんならデジタルシングルも出せばええやないのっ」
ヨンミン「金がかかりすぎるでしょーが」
ユ・ヨンジン「どーでもええし」
スヨン「腹減ったて」


ナレーション:すったもんだしたあげく、“Skool Rock”が入ったデジタルシングルは2008年3月11日、無事発売の運びとなった。



トゥーカッツ「♪tututu…Kissing Baby、てかー(笑)」
タブロ「なんやなんや、えらい上機嫌やないか」
トゥーカッツ「おや、にいさんやおまへんか」
タブロ「どないした? 小銭でも拾うたか?」
トゥーカッツ「拾うた訳やおまへんけど、ちょこちょこっと個人的にMixした曲が売れよりまして。若干小遣いが入ったとこで」
タブロ「おお、それはめでたい。ワシ寿司が喰いたいな」
トゥーカッツ「奢るなんてひと言もゆうてまへんが」
タブロ「よぼせよ〜。ミスラか? 今からトゥーカッツにいさんが寿司奢ってくれるんやて。…ああ? 作詞なんて明日でも出来るやろ。今すぐ来いや(ぷち)」
トゥーカッツ「人の話を聞けっ!」
タブロ「ええやないの。ワシら3人桃園の誓いで結ばれた義兄弟。自分の稼ぎはみんなの稼ぎじゃ」
トゥーカッツ「とほほ〜。しょうがない、今夜は少女時代様にごちそうになるとするか。ほな行きまひょ」
タブロ「行こう行こう(がっはっはっは)」






※Remix大会…応募作は140曲にのぼり、大賞の“Skool Rock”は本文の通り正規1集リパッケージアルバム『Baby Baby』にも収められている。

『Baby Baby』
2008年3月13日発売
ボーナストラック
・Kissing You [Skool Rock Remix]
・Let's Go 少女時代!! [Long Ver.]
・Let's Go 少女時代!! [Short Ver.]


 ちなみに当時配布されたボーカルオンリーのトラックは次のようなもの(動画ではない)


※(註)…この当時、会社からチームへの打診や通達は、リーダーを通じで行われていた。つまりいきなりトップダウンで行うのではなく、まずリーダーに会社側の意向を伝え、両者相談の上で最も良いタイミングややり方でチーム全体に下ろしていたようである。
 そのため会社とチームの板挟みになる状況も少なくなく、リーダーの負担は相当なものだったようだ。特にテヨンの場合、この頃は率先して行動したり喋ろうとしたりする場面が多く、リーダーであることをかなり意識していたようだが、もともと人を統率するような性格ではないので大いに苦労したと思われる。
 何の番組か忘れたが、以前ラジオ番組でイトゥクがリーダーの苦労話をしているときに、思わず泣いてしまったことがある。


※『School of 楽』…Mnetで放映されていたバラエティ番組。東方神起やSuper Juniorが全国の高校をサプライズ訪問するというなんだかジャニーズっぽいノリの番組で、“楽”はもちろん“Rock”の意(“楽しい”や“音楽”などとのトリプルミーニングも)。
 日本にも“School of Rock”や“School of Lock”など似たような名前の番組があるが、まとめて2003年のアメリカ映画『School of Rock』が元ネタだと思われる。
 『School of 楽』には前座としてデビュー前の少女時代が同行し毎回パフォーマンスを披露(ただし放映はされない)。いつか番組本編で放映されることを目指す、と言うのが彼女らの初めてのドキュメンタリー『少女、学校へ行く』の骨子だったことを思い出してもらいたい。