覚え書:「独紙の特派員「外務省が記事を攻撃」 東京滞在5年、離日に際し告白」、『朝日新聞』2015年04月28日(火)付。

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独紙の特派員「外務省が記事を攻撃」 東京滞在5年、離日に際し告白
2015年4月28日

(写真キャプション)取材に応じるカルステン・ゲルミス記者=独ハンブルク、アンケ・シュレーダー撮影
 ドイツ有力紙の元東京特派員が今月、離任に際して書いた「告白」記事が話題になっている。昨年来、「日本の外務官僚たちが、批判的な記事を大っぴらに攻撃しているようだ」と指摘している。米主要紙の東京特派員は、記事中の識者の選定を巡り、日本政府から細かい注文をつけられた。日本の姿を世界に伝える在京特派員と日本政府がぎくしゃくしているのはなぜか。関係者に直接、話を聞いた。

 ■政権批判、総領事が独本社訪れ抗議 記者「昨年あたりから変化」

 注目されているのは、独紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)のカルステン・ゲルミス記者(56)が書いた英文の寄稿「外国人特派員の告白」だ。日本外国特派員協会の機関誌「NUMBER 1 SHIMBUN」4月号に掲載された。これを、思想家の内田樹(たつる)さんがブログに全文邦訳して載せ、ネット上で一気に広がった。

 ゲルミス氏は2010年1月から今月上旬まで東京に5年余り滞在した。発端となる記事をFAZ紙に掲載したのは昨年8月14日のこと。「安倍政権が歴史の修正を試み、韓国との関係を悪化させているうちに、中韓が接近して日本は孤立化する」という内容の記事だった。

 寄稿が明かしたのは、外務省の抗議が独本社の編集者にまで及んでいた点だった。在フランクフルト日本総領事が訪れ、抗議したという。

 寄稿によると、総領事は、中国が、ゲルミス氏の記事を反日プロパガンダに利用していると強調。さらに、総領事は「金が絡んでいると疑い始めざるを得ない」と指摘した。また、総領事は、ゲルミス記者が中国寄りの記事を書いているのは、中国に渡航するビザを認めてもらうために必要だからなのでしょう、とも発言したという。

 ゲルミス氏は寄稿で、「金が絡んでいる」との総領事の指摘は、「私と編集者、FAZ紙全体に対する侮辱だ」と指摘。ゲルミス氏は「私は中国に行ったことも、ビザを申請したこともない」とも記している。

 当事者たちに、現地で直接取材した。

 昨年8月28日、FAZ本社を訪れたのは坂本秀之・在フランクフルト総領事。対応したのは、ゲルミス氏の上司に当たるペーター・シュトゥルム・アジア担当エディター(56)だった。

 シュトゥルム氏によると、同紙に政府関係者が直接抗議に訪れたのは、北朝鮮の政府関係者以来だったという。シュトゥルム氏は「総領事の独語は流暢(りゅうちょう)だった」。総領事は中国のビザ取得が目的だったのだろうと指摘したうえで、「中国からの賄賂が背後にあると思える」と発言したという。シュトゥルム氏は「私は彼に何度も確認した。聞き違いはあり得ない」と話す。

 総領事は取材に対し、「金をもらっているというようなことは一言も言っていない。ビザも、中国の言論統制の話の流れで話題に出たが、ゲルミス記者個人のビザの話は一切していない。(シュトゥルム氏が)思い込みで言っているとしか思えない」と否定した。

 ゲルミス氏は、「海外メディアへの外務省の攻撃は昨年あたりから、完全に異質なものになった。大好きな日本をけなしたと思われたくなかったので躊躇(ちゅうちょ)したが、安倍政権への最後のメッセージと思って筆をとった」と話した。

 (フランクフルト=玉川透)

 ■識者の人選にも注文 慰安婦報道で

 米主要紙の東京特派員は、慰安婦問題に関する記事で引用した識者について、在米日本大使館幹部から「日本の学術界ではほとんど認められていない」と、人選を批判する電子メールを受け取った。特派員は「各国で長年特派員をしているが、その国の政府からこの人を取材すべきだとか、取材すべきでないとか言われたのは初めて」と話す。

 外務省側が問題にしたのは、特派員が昨年末に書いた慰安婦問題にからむ記事だった。「安倍政権は、日本の戦時中の歴史を再評価しようとしており、韓国や中国との関係が悪化するのは確実だ」との趣旨が含まれていた。記事中では、中野晃一・上智大教授(比較政治学、米プリンストン大で博士号を取得)による安倍政権に批判的なコメントが引用されていた。

 在米日本大使館幹部は昨年12月、特派員に中野氏について「よく分からない人物」「日本国内では、彼のことをよく知っている人はだれもいない」とメールした。

 これとは別に、在京特派員らに取材対応する外務省国際報道官室幹部からも昨年12月、「中野氏はこの分野の唯一の専門家ではない。(現代史家の)秦郁彦氏らに会うことをお薦めします」とのメールが届いた。

 朝日新聞の取材に、外務省の幹部はメールを送ったことを認め、「あくまで個人的な意見として伝えた。外務省や官邸の意思ではない。取材に圧力をかける意図はなかった」と話した。在米日本大使館幹部は朝日新聞の取材要請に27日現在、応じていない。

 中野氏は「別の特派員からも『中野は信用できないと外務省職員に耳打ちされた』と聞き、組織的にネガティブな印象を広げようとしているように思える。特派員は『圧力だ』と受け取っており、日本の印象を悪くしている」と話している。

 (武田肇

 ■誤解生じて残念

 伊藤恭子・外務省国際報道官の話 報道の自由表現の自由は最大限尊重しなければならないと思っている。そのうえで、事実誤認に基づく報道がなされた場合、客観的な事実に基づいて指摘することはある。(元独特派員の記事については)誤解が生じているのは残念だ。お金の話などをした事実はなく、総領事とフランクフルター・アルゲマイネ社で協議をし、誤解が解消したと聞いている。

 ■日本のイメージ悪化

 山田健太専修大教授(言論法)の話 本来、政府の広報とは、説明責任に基づき活動内容を伝えることだ。外務省幹部の行動は、政府の良い部分だけをアピールする宣伝にあたるが、それを彼らは広報と思い違いしているのではないか。ジャーナリストの多くは、政府による水面下の宣伝活動に反感を持つ可能性が高く、むしろ日本のイメージを悪化させていると言わざるを得ない。
    −−「独紙の特派員「外務省が記事を攻撃」 東京滞在5年、離日に際し告白」、『朝日新聞』2015年04月28日(火)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S11727930.html





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