覚え書:「【書く人】人生、やり直しが利く『教室の灯りは謎の色』 作家・水生大海(みずきひろみ)さん」、『東京新聞』2016年10月02日(日)付。

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【書く人】

人生、やり直しが利く『教室の灯りは謎の色』 作家・水生大海(みずきひろみ)さん

2016年10月2日
 
 若者の揺れる心を丹念に描いてきた。「自分がまだ未熟だから書けるのかもしれません」。青春ミステリーの本書もそう。塾講師の黒澤光彰という男性が普通の枠からはみ出した高校生の心の闇にそっと光を差し出し、解きほぐしていく。
 「先生を探偵役に何か書こうと。どこの、どんな先生にするか。生徒との距離を考えたとき、学校ではなく、塾はどうか、内面に踏み込めるのではないかと思った」。物語の舞台となる塾は、通信制高校のサポート校を兼ねる。執筆にあたり、二校を取材した。
 過去作で女性を“探偵役”に据えることが多かったこともあり、男性で書きたかった。「クールで、何を考えているのか分からないけど、鋭い。黒澤は自分の好みのタイプでもある」。塾に通いながら不登校を続ける語り手の高校生、並木遥の目を通して描いた。
 並木がレンタルショップで起きたいたずらの犯人と疑われ、黒澤に窮地を救われるのをはじめ、二人の周囲で放火や痴漢など事件が巻き起こる。まかれたタネが丁寧に回収されていき、読後はほっと心が温まる。「続きを書きたい気持ちはあります」
 黒澤が「人生のリカバリーは、思いのほか利く」と言う場面がある。「学校だけじゃない。人生、やり直しが利く。どこかに光がある」と淡々と話す。若い読者を想定しているが、親の世代にも読んでほしいという。「当事者の世代だけではどうにもならないこともありますから」
 子ども向けに出版された「怪盗ルパン」や「シャーロック・ホームズ」のシリーズを入り口に、横溝正史宮部みゆきさんらの小説に親しんできた。「ミステリーは読んで面白い。人と人がぶつかり合うドラマがあり、サスペンスの要素も加わるとドキドキして引き付けられる。怖い物見たさ」と笑う。
 会社員や漫画家などを経て二〇〇九年に『少女たちの羅針盤』(第一回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作を受賞した作品を改題して出版、一一年に映画化)でデビュー。
 執筆は昼間、自宅が一番集中できる。「頭の中に書こうとする場面の絵が浮かび、文章に書き起こしていく。描写力はまだまだ」と勉強の日々だ。
 三重県出身、愛知県在住。ペンネームは「水が生まれて大海に注いでいく」との思いから。
 KADOKAWA・一六二〇円。 (谷知佳)
    −−「【書く人】人生、やり直しが利く『教室の灯りは謎の色』 作家・水生大海(みずきひろみ)さん」、『東京新聞』2016年10月02日(日)付。

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