覚え書:「問う「共謀罪」 「準備」監視、警察のさじ加減で 亀石倫子さん」、『朝日新聞』2017年05月07日(日)付。

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問う「共謀罪」 「準備」監視、警察のさじ加減で 亀石倫子さん
2017年5月7日

 ■弁護士・亀石倫子さん(42)

 ――法案をどうみるか。

 犯罪が行われる前の段階を処罰するものだから、その動きを証拠化するには当然に監視が必要になります。警察は集会にスパイを潜入させて録音させるかもしれないし、密室での会話を盗聴するかもしれない。行動を把握するためにGPS(全地球測位システム)を使うかもしれません。
 そんな監視社会に突き進んではいけないと思い、GPS裁判の最高裁では「子孫が振り返ったときに感謝してくれるような判断を」と訴えた。判決は「住宅に準ずる私的領域」への侵入もプライバシーの侵害で、令状が必要だと、一定の歯止めをかけてくれました。
 国会答弁を見ると、政府はこの判決などなかったかのように、「準備行為」の前でも犯罪の疑義があれば令状のいらない一定の任意捜査ができると言っている。できるだけ令状なしで監視したいという従来の考え方は、変わっていないようです。
 政府は「恣意的な運用はない」とも説明していますが、恣意的な捜査なんて経験上、日常茶飯事です。
 例えば最近では、ダンスクラブの経営者が「風俗営業の許可がない」といって逮捕された事件がありました(無罪確定)。タトゥーの彫り師が「医師免許がないから医師法違反だ」として、いきなり摘発された事件もあります(公判中)。
 警察のさじ加減で、ある日突然、普通の市民が容疑者にされる。そんなことは、刑事弁護の現場にいればいくらでもあります。
 それでも世論調査で法案に賛成する人が多いのは、「自分は犯罪とは関係ない」と思い込み、捜査機関はいつも正しいことをすると信じている人が多いのでしょう。捜査の暴走を知っている身としては、世の中の反応にものすごいギャップを感じます。
 共謀罪の捜査が浸透すれば、権力に異議を唱える声は少なくなるでしょう。目立ったことをすれば監視されると思わせるだけで、萎縮効果は抜群です。
 つい先日、出演するテレビ番組の打ち合わせで男性プロデューサーが発した質問が印象的でした。「法案が通ったら、私たち一般市民はどんなことに気を付ければいいんでしょうか」と。思わず「気を付けなくていい!」と返しました。
 私たちには憲法で保障された集会の自由や表現の自由がある。それは法律よりも保障されなければならない。もし自由にやって摘発されるようなことがあれば、その時こそ私たち刑事弁護人や心ある裁判官たちの出番です。みんなが「気を付けて」暮らす社会なんて、私は絶対に嫌です。

■自由な議論の社会さまたげる
 警察庁が各警察本部にGPSの運用マニュアルを出したのは11年前。これまで多くの弁護人が見過ごしてきたであろう操作手法に正面から異議を唱えたのが亀石さんだった。
 「共謀罪」が萎縮を生み、こうした「異論」がなくなれば、時の権力は思い通りにできる。人びとが自由び議論を交わし、成熟した社会を形作ることの妨げにもなろう。「普通の人でもふとしたきっかけで犯罪に関わるのが現実。無関心ではいられない」と亀石さんは言った。この言葉をかみしめ、自分の身に引きつけて是非を考えたい。(阿部駿介)

かめいし・みちこ 1974年生まれ。通信会社勤務を経て2009年に弁護士登録。刑事事件を専門に扱う「大阪パブリック法律事務所」で約200件の事件を弁護士、16年に独立して「法律事務所エクラうめだ」を開業した。エクラはフランス語で「輝き」。
    −−「問う「共謀罪」 「準備」監視、警察のさじ加減で 亀石倫子さん」、『朝日新聞』2017年05月07日(日)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12926055.html





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