「経営」
月の公転周期に合わせて
比べられた数字はじっと静まる
閲兵式の兵隊たちが徽章をつけて
海の向こうに渡るかもしれなくても


それでも月が細くなる間
踊りや歌を企てよう
逆回転する数字が複素数平面に広がる頃
海辺で肌を焼いているかもしれないから


地球の自転周期に合わせて
列島の輪郭は形を変える
海底の有機物質が分解されるころ
僕たちはもういないかもしれなくても


それでも夕闇に君の顔が見えなくなるまで
喋ったり黙ったりしよう
未来へ至る相対的な時間が交差して
この瞬間が永遠に続くかもしれないから

「南洋」
花も紅葉もない南方で
陣地を築く人夫の労働
不眠の夢の爆撃は夢
畑を焼き払う兵士の傲慢


オランダ人の残した邸で
秋も冬もない1日の終わり
不眠の夜に甦る記憶
畑を駆け回る犬を追う子ら


ヤシを通して滲む陽光に
水を求めた行軍の果て
眠りの度に内地を忘れて
言葉を交わさない兵士の群れ

「次の革命」


物たちは延長であることをやめて
暦の上で整列している
侮辱された貴族の髭も
ネジの緩みで歪んだプレス機も


朝には散らかった子供部屋のようだった
心と頭は他人にだってお見通し
舌滑りのいい挨拶も
0と1の並ぶ陰陽道


地下室から聞こえてくる
かすれたペンをひきずる音
忘れたことも忘れた
醜い僕の隠し子


物たちは触れることもなく
地図の上で境界を保つ
腐った臭いの極寒の都市も
朝靄の中の初夏の田園も


征服された感覚器官たちの革命
狂っているものと病んでいるもの
手に触れる道具や肌に触れる風
耳に入る羽音や軌道を外れた心

鈴の音は冷たい空気の向こうから
どこか遠くの街を思わせる
約束が意味を持つ世界で
電気で温められた部屋の中で


エレキギターを大きく鳴らしたり
電波塔に高く登ったり
南国のビーチで裸になったり
一日中街を歩き回ったり


鈴の音は溶けかかった記憶の向こうに
夢の中で久しぶりに会う友達みたいに
一つずつの言葉が意味を持つ世界で
夜更かしの部屋の中で


布団を肩までかけたり
朝日に目を細めたり
図書館に毎週通ったり
鶏肉を小さく切り分けたり


鈴の音は足音も聞こえない夜に
天使の訪れを知らせるみたいに

「中央線の挽歌」

奴隷たちの朝に人が死ぬ
食べ残した最後の晩餐からテーブルクロスを引き抜いて
手品みたいに日常が消えて奴隷たちの日常だけが残っている
鉄と車輪のきしみの音


生きてることに意味なんてないし
悲しみや不公平が多いこともあるから
割と死神のファンで鎌だって2つくらい持ってる
頬だってファッションでげっそりこけて


人々の朝に奴隷が死ぬ
朝露が乾くみたいに静かに
12月の鉄たちの行進に飛び込んで
葉と空気の触れあう音


僕たちは悼んでいるんだ
速度を落とした車両の中で押し黙って
午前中の仕事を調整した後に
何の言葉もなしに
天使が通り過ぎる一瞬の間だけ

「テロ」

工業製品としての恐怖が夜の街をうろつく
目を悪くする品質管理をすり抜けて
掃除機たちは今も太平洋に沈み続けている
余生だと勘違いした戦艦に先輩風を吹かされて


僕の神様は都合よく助けてはくれない
草木衆生に責任があるわけではないから
祈りは時々詩か言い間違いのように
自爆犯やレジ打ちバイトの口にのぼる


大衆向けに味付けされた恐怖が仕事をサボる
バグだらけの管理システムに記録されて
新聞紙が住宅の材料として需要を伸ばした
記者会見はいつも公園のベンチの上で


君の神様はそんなに都合がいいの
詐欺師か詩人に騙されているわけではなくて
祈りは避け損なってぶつかる空気みたいに
想像界を賑わせてはすぐに悪口に変わる