晶文社図書目録10

 70年の晶文社図書目録をみましたら、あちこちに「抒情」という言葉を含む
書名がのっています。
 昨日まで話題にしていた大岡信さんには「抒情の批判」61年に続いて、
65年には「超現実と抒情」という著作があります。
同じ65年には長田弘さんの「抒情の変革」がでて、翌66年には塚本康彦さんの
「抒情の伝統」というのがでています。
「抒情」というのは、65年当時のキーワードであるようです。
65年にでた「抒情の変革」は長田弘さんの最初の著作です。晶文選書となって
いますが、そのあとから晶文選書とはちがったスタイルのもので、箱入りの時代の
ものと思われます。小生が入手したのは、いまから20年以上もまえのことになり
ますが、箱はついておりません。東京のどこかのデパートであった古本市での入手
したようですが、記憶に残っていません。( いま「平野甲賀 装幀の本」で
確認をしましたら、これは箱入り本ではありませんでした。これよりも後にでた
「政治と犯罪」が箱入り本でしたので、これもそうと思ってました。)
 長田弘さんは大学を卒業してから、美術出版社の編集者をしていたはずです。
中井正一全集」全四巻の担当編集者をしていたように思います。この会社に
数年いて、退職してから晶文社でフリーの編集者をしながら詩人としての活動を
始めたのではなかったでしょうか。(中井正一全集には、担当 長田弘とありま
した。これは久野収さんの解説ができずに、完結まで何十年かかかったことで
有名ですが、完結したときは長田さんは、会社を離れていました。)
 長田さんが「抒情の変革」を刊行した時には、まだ26歳で会社勤務をしていた
はずです。「抒情の変革」の著者紹介は、次のごとくです。
「 長田 弘 1939年11月 福島市生まれ 早稲田大学第一文学部独文専修卒業
       61〜62 詩誌「島」編集
       62〜63 詩誌「地球」同人
       63〜64 「現代詩」編集委員
       未刊詩集「われら新鮮な旅人」     」
 この時の長田弘さんについては、これしか記することがなかったのですね。
 しかし、よくもこのように実績のない人の本をだすことになったものです。
 これが本になるにあたってのことは、長田さんが、この本のあとがきで書いて
います。
「一冊の本のなりたちには、みえない友情の重みがつよく籠められているのだ。
わたしは、今後の戦闘的な友情によってのみ証される、わたしたちの感情の
共和国の一員であることのためにわたしのすべての努力を傾けたいとおもう。
・・・そしてわたしは、今日の出版編集の分野に独自の意欲的な機能と意味を
あたえつづけつつある小野二郎氏と中村勝哉氏の手によって本書が企画され
上梓されることを、たいへん幸運におもう。終始適切な助言をあたえてくれた
両氏ならびに晶文社小山内氏に心から感謝の意を表したい。」