キャスト:
山口祐一郎 新妻聖子 土居裕子 石川禅 井上芳雄 一路真輝 ほか <スペシャルゲスト>パトリック・シュタンケ <司会>武岡淳一
名古屋千穐楽の本編感想です。カーテンコールの記憶と感想にかなり気力を使い果たしてしまいましたので、前日の感想で語っていなかった方を中心に、ごく簡潔にまとめました。
その前にまずは千穐楽のセットリストを記しておきます。17日のセットリストを書くのを忘れましたが、アンコール以外の曲目と歌い手は以下と一緒です。
Act1
- オープニングメドレー(アンサンブル)
- プロローグ―我ら息絶えし者ども―
- 奇跡の子
- もう無くすものもない
- 夢に見るマンダレイ
- 幸せの風景(山口祐一郎)
- 永遠の瞬間(新妻聖子)
- レベッカI(一路真輝、アンサンブル)
- 誠実さと信頼(石川禅)
- 今宵マンダレイで(アンサンブル)
- レベッカII(一路真輝、アンサンブル)
- ILLUSION―或いは希望―(山口祐一郎、アンサンブル)
- 100万のキャンドル(新妻聖子)
- 流れ星のかなた(新妻聖子、土居裕子)
- 神は愛してくださる(土居裕子)
- もしも鍛冶屋なら(石川禅)
- 心の声(新妻聖子、アンサンブル)
- なぜあなたは王妃なのか(独語)(パトリック・シュタンケ)
- すべてはあなたに(英語)(新妻聖子、パトリック・シュタンケ)
- 苦しみの彼方に(独語)(パトリック・シュタンケ、新妻聖子、アンサンブル)
Act2
- ここはウィーン(アンサンブル)
- 僕こそ音楽(井上芳雄)
- モーツァルト!モーツァルト!(山口祐一郎、一路真輝、アンサンブル)
- 心を鉄に閉じ込めて(石川禅)
- 終わりのない音楽(土居裕子、石川禅)
- ダンスはやめられない(新妻聖子)
- チョッピリ・オツムに・チョッピリ・ハートに(井上芳雄、アンサンブル)
- 何故愛せないの?(独語)(パトリック・シュタンケ)
- 星から降る金(土居裕子)
- 神よ、何故許される(山口祐一郎)
- 影を逃れて(井上芳雄、アンサンブル)
- 私だけに(一路真輝)
- ミルク(独語&日本語混合)(パトリック・シュタンケ、アンサンブル)
- 私が踊る時(山口祐一郎、一路真輝)
- 最後のダンス(独語)(パトリック・シュタンケ、アンサンブル)
- 夜のボート(一路真輝、石川禅)
- 闇が広がる(山口祐一郎、井上芳雄、アンサンブル)
- ラクリモーザ(モーツァルト「レクイエム」より)(井上芳雄、土居裕子、アンサンブル)
- 影を逃れて(全員)
Encore Special
- 闇が広がる(独語&日本語混合)(パトリック・シュタンケ、井上芳雄)
ということで、以下、感想にまいります。
前日は1階前方上手ブロックの席でしたが、この回は2階席やや後方からの観劇でした。しかしセンターブロックでしたので、前方席よりもむしろ歌い手の表情が見やすく、舞台全体も見渡せてお得感満載。床に落ちる照明の妙や、アンサンブルさんのフォーメーションの美しさを楽しめるのは、2階ならではの特権です。
今回のキャストの皆さん、プリンシパルさんもアンサンブルさんも、そして司会の武岡さんに至るまで、皆さんプロの仕事を見せてくれる方ばかりです。
この日特にそれを感じたのは、一路さんの濃密すぎる「レベッカI」の後に、癒し全開で登場して「誠実さと信頼」を歌い上げた時の禅さん。可愛くてあったかいお兄さんキャラと明るい歌声で、ぱっとその場の雰囲気をなごませてくれるのがグッジョブです。聴いていて思わず口元がほころんでしまいました(^_^)。
そして土居さん。2幕の「星から降る金」にはもう少しだけ男爵夫人の女狸的雰囲気(女狐、じゃない所がポイント)が出ててもいいかな?と思いましたが、1幕の「神は愛してくださる」では、目力、歌声に満ちた神々しさにすっかり釘付けになってしまいました。私、M.A.の原作版の、性格も末路も舞台版とは異なるアニエスにかなり思い入れがあるのですが、舞台版のアニエスのキャラクターもかなり好きなのだと実感いたしました。
歌以外の部分では、武岡さんが毎日コンサートの流れと基本の説明は保持しつつ、少しずつ言うことを替えているのが、当たり前と言えば当たり前なんですがプロの話術だな、と思いました。
1幕途中のパトリックミニトークショーでは、またパトちゃん&聖子ちゃんの掛け合いが繰り広げられていました。かなり端折ってますが、例えばこんな感じ。
パト「明日成田に行って、オーストリア、ウィーンを通って(ドイツに)帰ります」
聖子「え?(ちょっと待って?な表情で)ウィーンってオーストリア?」
……待てやこら(^_^;)。
それはさておき、パトリックはこれからドイツに帰ったら、早速その日に仕事があるとか。そして、舞台の演出もこなしているそうで、今年はこれからミュージカル「ヘアー」の演出に携わるそうです。あれだけ幅広く歌える上に、そんな多才な方だったなんて、と驚いています。
また、ちょっとしたサプライズ&ハプニングが2つ程起きていました。
1つは、2幕後半のエリザコーナー「私が踊る時」。
デュエットが終わった直後、山口さん、一路さんを手招きしたかと思うと、何とそのまま一路さんをぎゅっとハグ!しばし抱き合った後、そのまま山口さんは、本来捌けるべき方向である下手袖にすたすたと捌けていこうとしましたが、それを、一路さんがつと呼び止めて、上手袖に山口さんをエスコート。
いえ、正確には、一応山口さんがエスコートするポーズは取っていたと思いますが、どう見ても一路さんにエスコートされているようにしか見えず(^_^;)。そのまま手を取り合って2人で捌けていきました。客席からは拍手の嵐。軽くショーストップがかかっていました。
もう1つは、「ラクリモーザ(涙の日)」の合唱の後のMC。
井上くんと土居さんの同窓生話の掛け合いで、土居さんが何か気持ちが急いてしまったのか、まだ導入部で井上くんが話している最中にうっかり割り込んで、合いの手を入れてしまいました。舞台上で焦りまくる土居さんを、井上くん、
「いつもはここで土居さんは『同級生でーす!』と嘘をついてるんですけどね、最後(千穐楽)ぐらいは本当のことを言おうね!って言ってたんですよねー(^_^)」
とすかさずフォローして流れを戻してました。ああ、井上くん、場数を踏んでちゃんと大先輩を立てられるようになったんだなあ、と感心しました。ただ、土居さんはこの辺りの動揺が、後々カーテンコールまで尾を引いてしまったようで気の毒でした。
そして「モツレク。何だか居酒屋のメニューみたいですよねー」という井上くんの一言が何故か頭にいつまでも残っている自分の記憶力って一体……(^_^;)。
今回実は、山口さんと井上くんの「闇が広がる」が終わった後に、ああ、これでコンサートがもう終わってしまう!と考えて、それだけでない様々な思いが渦巻いて感情が込み上げて、それを懸命にせき止めようと客席でもがいていました。
そんな中で演奏された「ラクリモーザ」が、前日以上に殊の外心に染み渡りました。本来はもちろん、死者の鎮魂のための曲なのですが、この曲を聴くことで、自分の不安定に昂ぶった心が不思議にも鎮まっていくのを感じました。安らぎ、というより本当に「鎮め」。普段、殆どクラシックは聴かない方ですが、この、ヴォルフガングが生命を費やして書いた曲が300年以上も世界で聴き続けられている理由の一端が、少しだけ理解できたように思います。
最後に山口さんについてまた甘々に語ることをお許しください。
昨年まで知っている彼の歌声に比べると、確かに声量は弱くなりました。キーを下げている曲もちらほら。「神よ、何故許される」は2007年公演の時既にキーを下げていたと記憶しますが、今回のコンサートでは「幸せの風景」でも下げていたような気がします。
しかし、今回の舞台を観て、「それでも良い」と思いました。指先までオーラを漂わせて「ILLUSION―或いは希望―」を歌う魔術師にも、官能的な表情を浮かべつつ、俺様に力を漲らせて熱唱する猊下にも、そしてもうすぐ本番舞台で観られる予定の、静かな情熱を湛えた死神にも、自分は心底魅了されています。
板の上の役者の魅力は声だけではない、と今回新たに実感いたしました。これは決して負け惜しみでも何でもありません。
全ての役者さんがそれぞれそういう魅力を持っているのだと思います。とは言え、観る側の目や耳や心の好みというものがありますし、私自身、全ての役者さんの魅力を感じ取って受け入れられるわけではないので、そこばかりはどうしようもないのですが。
ただ、少なくとも、山口さんについては、声以外の魅力を知り、それを愛することを知りました。今は、それでいい、と考えています。これからも付いていけます、きっと。
……拙文失礼いたしました。