藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

すべてが時代遅れになるとき。

バイス・ラグという表現があるらしい。
何のことかと思ったら、日本の「医療機器が日本で厚労省に認可されるまでの時間のかかり過ぎの問題」だった。
まだウェブスター辞典にも載っていないだろう。
いかに慎重に調査が必要とはいえ、「対米比で3年半の遅れ」と言われれば、ビジネスする側への影響は甚大である。
世界第二位のマーケットである日本がこの状態では、みすみす国益を逃しているとさえ思う。

ただし、厚労省側にも言い分はある。
安全のため、過去の薬害を踏まえて慎重にと。

こうした時に「どちらか一方」に正解はない。
もっとも重要なことは「官と財」が利己に走らず"同じ方向を向けるか"という一点に尽きる。

例えば官僚の中で「自分の居場所づくり」をするためにプロセスの効率化を「安全厳守の錦の御旗」のもとに認めない、というような人がいることは多いものである。
こういう保身派が少数でもいると、自体は一向に改善されない。
なぜなら彼らは「それが(革新派には)抗いづらい条件であること」を何よりも知っているからである。
また財界側も、経済的メリットとかばかりを強調していては、やはり事故率が大きくなる恐れもあるだろう。
こうなると、ただ改善を期待していても成果は出ない。
二兆円あるという同市場の解放への計画と、また「危機を起こさない管理体制」をどのようなレギュレーションで合意するか、ということに「官民」が一致して向かねばせっかくの機会を逃すばかりである。

システムのリストラが必要。

もっとも成功している国は必ずしもアメリカというわけではないだろうが、以前から日本の抗がん剤の認可の少なさや、遅れについては指摘されてきた通りだし、それが改善されないのはやはり日本の行政の構造の問題だろう。
公共事業にしても、天下りにしても、今や「仕分け時代」に信じられないくらいの無駄や貪りがあるのは、いわゆる「時代の要請」にシステムが追い付かず、陳腐化してしまったということである。
ここが、これまでの50年で日本が経験してきたことと決定的に違う点であり、またこの初めての環境変化ゆえ、政治・行政の当事者も今後の海図を見失っているのだと思う。
(つづく)



グローバル医療メーカーが日本を嫌う理由「デバイス・ラグ」
カナダ最大の都市、トロント。その郊外で心房中隔壁に穴を開けるカテーテルなどを生産する医療機器メーカーのベイリス・メディカルが昨年11月に海外メディアを対象に行った事業説明会で、クリス・シャー執行副社長はこう強調した。

「われわれは130人の小さな企業だが、世界60カ国に製品を展開している」
壁にはられた世界地図には展開する60カ国の拠点や取引先がピンで示されている。だが、その中に日本は含まれていない。

オンタリオ州によると、世界の医療機器市場(2009年)は1位の米国が1千億ドル。日本は2位で200億ドル、3位はドイツの180億ドル、カナダは60億ドルで8位となっている。米国に次ぐ世界2位の一大市場にもかかわらず、なぜベイリスは日本に進出しないのか。

「日本でも需要はあると確信している。しかし、日本でのビジネスは時間がかかりすぎる」。シャー氏はこう打ち明ける。

いわゆる「デバイス・ラグ」である。海外で使われている医療機器(メディカル・デバイス)が日本で認可されるまでに時間がかかりすぎる問題で、医薬品業界の「ドラッグ・ラグ」と同様だ。背景には日本の複雑な薬事審査体制がある。


在日米国商工会議所の調べによると、日本の審査は米国に比べ約3年半も遅れるケースがあるという。技術革新が早い医療機器の製品寿命は2〜3年といわれるだけに、このデバイス・ラグは日本参入を敬遠する動きにつながる。

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世界の医療機器産業は年率10〜15%増と高い伸びをみせ、日本の製造業が持つ高い技術力を生かせる成長分野といわれる。ところが同分野における日本の貿易収支は、2010年で約6千億円の赤字だ。世界で躍進するのは米ジョンソン・エンド・ジョンソン、米ゼネラル・エレクトリック、独シーメンスなどで日本企業はトップ10に入っていない。

海外企業の日本進出と同様に、日本企業の海外展開を妨げているのもデバイス・ラグだ。治験や審査を経て、日本で販売を始めるころには技術が陳腐化し、欧米企業に追いつかれるどころか、逆に先行されてしまうこともある。

厚労省も審査体制の拡充や治験環境の整備が外国企業の参入と、日本企業の海外進出に欠かせないと計画を立ち上げるものの、思うようには進んでいない。

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関西の自治体も審査体制の整備などを強く望む。昨年12月に「国際戦略総合特区」に指定された「関西イノベーション国際戦略総合特区」には、神戸市が医療産業の集積を進める「神戸医療産業都市」やiPS細胞による最先端の再生医療研究を行う京都大などが含まれ、医療産業の育成を重点事項と位置付けているためだ。

特区では法人税率の優遇などが今後認められる見込みのほか、医療機器の審査を行う医薬品医療機器総合機構(PMDA)の西日本事務所や治験センターの開設を掲げる。

「査察官を置き、現地で調査・審査を行うことがデバイス・ラグの緩和につながる」。大阪府の担当者は特区での医療機器産業の成長に期待を寄せる。

医療機器産業は最先端の技術力が必要で、ものづくり立国・日本が最も得意とする分野のひとつだ。日本の輸出産業を支える柱として期待される医療機器ビジネスの課題を探った。(阿部佐知子)