『語りかける身体――看護ケアの現象学』

語りかける身体―看護ケアの現象学

語りかける身体―看護ケアの現象学

西村ユミ『語りかける身体――看護ケアの現象学』(ゆみる出版、2001)読んだ。正直、そんなにいい本だとは思わない。

看護という営みを、メルロ=ポンティ現象学を用いて分析しようという試みであるが、「それで、何?」と思わざるを得ない。書いてあることは、当たり前のこと過ぎるのである。看護という営みの本源的な形態とは、患者と看護婦(ママ)との生きられた経験の中にあるなんて、当然のことであって、それを生理学的方法によって測ろうとすることの方がおかしいのである。

その他、思ったのは、身体を原初的な〈身体〉の交流の場へと戻すことで、現実に存在する患者/看護婦(ママ)/医師の間にある権力構造や、そもそも身体の接触の場こそが権力の生起する場所であるといった「身体の政治性」ということにはまったく関心が払われない。その証拠に、本書は一貫してジェンダー視点が薄い。そもそも、メルロ=ポンティの身体論に依拠したという「身体の現象学」や阪大の臨床哲学系の議論には、身体同士の抜き差しならぬ政治性が厳しく問われていない印象を持つ。障害やジェンダーなどの身体の政治性に私は関心を持つので、身体の権力性が問われない身体論なんて、と思ってしまうのだ。サルトル現象学なら、また違ったことが言えると思う。