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019 蓋此身髮 四大五常
  Gai4 ci3 shen1fa4, si4da4 wu3chang2.

 「蓋」は、『新華字典』によると多音字で、「一 gai4」「二 ge3」ですが、後者は「姓」とありますので、問題外です。前者の第6義に「文言虚词。1发语词:盖有年矣」とあります。
 「发语词 fa1yu3ci2」というのは、文章を新たに開始する時に文頭に置く語です。「夫」の「二 fu2」も、代表的な「发语词」です。品詞分類は容易ではありません。「助詞」と考えられますが、「副詞」「語気詞」(『漢辞海』の解説では設けられていません)などと、さまざまな解釈ができます。
 「此」は第1義。文言の代表的な指示代名詞です。
 「身」は第1義。
 「髮」は少し注意が必要です。「发」には「发(發)一 fa1」と「发(髪)二 fa4」と2音あり、多音字であるように見えますが、これは元来異なる「發」「髪」という2字に、1つの略字を用いたために生じた現象であり、もともとは多音字ではありません。ここでは、いうまでもなく後者ですね。
 「四」、「五」は第1義です。
 「大」は「一 da4」「二 dai4」の2音ですが、ここでは前者の第1義を採ります。「常」も第1義です。ただし、「大」も「常」も、ここでは名詞として用いられています。
 この第19行は、『千字文』には珍しく、上の句と下の句が対句になっていません。おそらく、新しい内容を説き始めるために、「蓋」という発語の辞を布置したので、対句としなかったのでしょう。なおこの行は、独立しておらず、次の第20行と連なって一文を構成しています。
 「四大」と「五常」とは対です。それぞれの指すものが何かについては、「四大」は「道、天、地、人」(『老子』に基づく)、「五常」は「父義、母慈、兄友、弟恭、子孝」(『尚書』孔安国伝に基づく)という説を紹介しておきます。「四つの大切なもの」「五つの変わらないもの」と理解しておけば十分です。むしろ重要なのは、「「四」「五」という数詞と結合しているのだから、「大」「常」は名詞だろうな」という感覚がはたらくことです。類似の例を想像してみてください。