Le Mal du Pays

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

「ル・マル・デュ・ペイ Le Mal du Pays 田園風景が人の心に呼び起こす理由のない哀しみ」(p.62)が何度も作中で流れる中編小説。
この第1年「スイス」の8番目の曲は、ラザール・ベルマン演奏のリスト『巡礼の年』3枚組LPの1枚目の2面(B面)冒頭に入っているようで、主人公は、旧式のレコード・プレーヤーでこの面のこの曲から聴き始め、第2年「イタリア」の4曲目「ペトラルカのソネット第47番」までのB面6曲を、2度続けて聴いてから「自分が心に抱え込んでいるのがただの深い哀しみであって、重い嫉妬の軛でないことにあらためて感謝し」て眠りにつく、という箇所があるのですが(pp.243-246)ここは、流石、村上春樹、と思わせる描写でしたね、感心しました。
ということで、本書最終章は、私もこの6曲(32分)を繰り返し聴きながら読み了えることにいたしました。
なお、私がこの本を読みながら聴いていたのは「この演奏はとても見事だけど、リストの音楽というよりはどことなく、ベートーヴェンのピアノ・ソナタみたいな格調がある」(p.306)というブレンデル版なんですが、「もう少し耽美的」というベルマン版も、是非いつか聴き較べてみたいものです。